百合が俺のことを好きでいてくれているのは感じている。しかし、安心しきれなかった。
今まで、上司以外の男とは連絡先も交換せず男性とは一定の距離を保ち不安になることなど
一切なかった。そんな百合が越智とは一緒に通勤している。百合自身も無意識のうちに心を許しているのか。そうだとしたら、いずれ越智に気が向いてしまうのではないか。
不安で押しつぶされそうになり、俺は百合の行動を細かく知りたがるようになった。
出掛ける時は、行先と相手の名前を聞くようにした。以前は、時間になったら連絡を控えていたが「何食べているー?見てみたいな」とメールを送るようにした。
ある時は、友達とご飯と言っていたが確認するため雨を口実に店の前まで迎えに行った。
「おかえり。スマホいじっていたら、この後雨が降る予報に変わっていたから傘持っているか心配になって迎えに来た。濡れるといけないし家まで送るよ」
そう言って友達も送り、今日の会話の内容を聞きだした。
「昌大さんって優しいし彼女想いなんですね。百合からいつも話を聞いてます!すっごくデレデレして惚気てくるんですよー。幸せそうだなー尽くしてもらってすっごく羨ましい。」
「尽くすっていうか…俺は百合といると楽しくてとても幸せなんだ。だから尽くしているって感覚はないかな。」
「なにそれ、百合、本当に幸せ者だね。一緒にいると幸せなんてストレートに言ってもらえるの羨ましいー!私もそんなこと言われてみたい!!!」
「ちなみに昌大さんは結婚とか考えているんですか?」
「それはもちろん。俺は考えていないこともないけれど、その時はまず最初に百合に気持ち伝えたいからうまくいったら話すね。」
「いいなー。その時は結婚式絶対行きますから呼んでくださいね!」
運転しながら横目で百合の顔を見ると相槌を打つだけであまり会話には入ってこなかったがにこやかに笑っていた。
それだけでなく、スマホでのやり取りや着信履歴を見せてほしい、GPSで場所を共有したいと言った。GPSだけは絶対に嫌と言われたが、やましいことがあるのかと聞くとないから見ればと呆れ気味に返ってきた。そしてSNSのチェックとメールのチェックが毎週の恒例行事となった。
俺は絶対見落とすまいと夢中でスマホの中身をチェックした。アプリには誰かと連絡を取っている形跡はない。しかし、連絡手段がアプリとは限らない。俺はSNSのDMやフリーメールの受信ボックスやゴミ箱も確認した。その間、百合は暇を持て余し退屈そうだった。
そして少し寂しそうな顔をしていたが、この時はそんな百合に構う余裕がなかった。
百合が言うように、怪しい物はない。
唯一、男から「久しぶり!元気?」とメールが来ていたのですぐに問いただした。
「このメール何?」
「え、地元の同級生だけど…今度、みんなで集まろうって話になって地元組が中心に幹事やることになったからやり取りしていただけだよ。その時の最初のメール」
その後のやり取りも見せてもらったらグループでのやり取りに変わっていて、計画を立てていたのも本当だった。
「ね?ただの友達だよ?まさ君、まさか疑っているの?」
「そういうんじゃないけど…百合がどこか言ってしまわないか、離れていくのが不安なんだ」
「……ちょっと貸して…」
百合は困ったように、そして半ば呆れ気味にトークの内容をスクロールしていった。
「これ見て」
そこには、百合が全員に向けて俺という彼氏がいることや俺が不安になるようなことはしたくないから個別のやり取りは控えてほしいとお願いしている内容が書かれていた。
友人たちからは、「百合、彼氏からすっごく愛されていて幸せいっぱいだもんね」とか「羨ましい」とからかわれていた。
「これで安心してもらえたかな?私、まさ君を裏切ったり悲しませることは絶対しないよ?」
俺は力強く百合を抱きしめ、ありがとうと言った。
百合からの愛情は感じている。感じているのに、不安は消えず募る一方だった。
そして、次第に個別の連絡を控えるように地元の人には言ったのに、俺が電車を変えてほしいという要望には応えないのか、という憎しみにも似た感情が少しずつ芽生えてきた。
俺は百合を愛し、百合だけを見て百合のために行動している。しかし、百合は思い過ごしだと言い、俺が越智と通勤するのを嫌がっていることを知っていても今も変えようとせずにあの電車に乗り続けている。
俺の愛情に100%で返してくれていた百合が消え始めた、百合には俺だけ見ていて欲しい。俺だけを見ればいいのに…そんな気分になった。