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第4話 溺愛彼氏

年があけたらすぐに百合の成人式があった。振袖姿の百合を一目見ようと車で迎えに行った。頭は花魁のようにキラキラとした髪飾りとボリュームを出すためにカッチカチにスプレーで固めた髪、そして首回りはこの時しか出番がなさそうなファーを巻き、黒にラベンダーの薔薇がデザインされた振袖を身にまとっていた。

普段は薄いメイクの百合だが、この日はファンデーションにつけまつげと口紅でしっかりメイクになっていた。少し白くなりすぎて顔は舞妓さんのようになっていたがそれも記念だろう。普段とは違う姿に見惚れていた。



百合の友達たちの彼氏は同い年が多いらしく車で迎えに来た俺を見て開口一番に「今ね、みんかからまさ君の事『色気漂う大人の男ですっごくかっこいいね』と言われたんだよ!!」と嬉しそうに報告してくれた。

周りからもおっさん呼ばわりされなくて良かった…。と胸を撫で下ろし、そのまま部屋に行き写真を撮った後、着付けが乱れない程度に袖をまくり一つになった。無邪気な百合が愛おしく何度も「好きだよ」と伝えた。



友人たちにも百合を紹介した。家庭を持っているやつらばかりだったので百合を見て、年齢を知り、とても羨ましがられた。俺は優越感に浸っていた。百合も緊張はしていたが、友人の子どもたちの遊び相手をしており楽しそうに過ごしていた。

子どもと楽しんで遊んでいる百合を見ながら、百合との将来を想像した。



3月に短大を卒業し、百合は地元の中小企業に入社した。

百合は、嬉しいことは嬉しいと無邪気に喜んでくれる。そして感動するとすぐ泣く涙もろいところがあった。可愛くもあり、他の男が寄ってこないか気が気じゃなかった。



いつも同じ電車に乗るので改札を抜けたタイミングを見計らって毎朝、電話を掛けた。

電話をしているのが社内でも有名になったそうで、話をしたことがない人からも”通勤時に彼氏と電話をしている子”と覚えられたそうだ。

俺には都合が良かった。彼氏がいることが周知されていればそこで多少の好意だったら諦めるフィルターになると思った。



百合は「通勤中に彼氏と電話しているって浮かれているように思われないかな?」と気にしていたが、たまに電車を乗り過ごし電話が出来ないと「寝坊しちゃって電話出来なかったの寂しい」と連絡してきたので本気で嫌がっているわけではなさそうだ。



俺の仕事は、担当顧客の予定次第な面が多い。また家を建てる人たちは結婚して数年の若い年齢が多く平日の昼間に仕事だとしても男が入ってくることを嫌がる男性もいる。

そのため、打ち合わせは夫婦が揃う平日の夜8時以降や休日などに仕事が入ることがほとんどだった。


日中や夕方は空いていることが多かったため、百合とのやり取りを楽しんだり、雨が降っていたら駅まで迎えに行き家まで送り届けた。残業で遅くなると連絡があった時は打ち合わせ後、サンドイッチを用意して会社まで迎えに行った。



百合が喜んでくれる顔が見たくて、週末は遠出をしたり記念日にはプレゼントを用意した。

初めてのクリスマスではティファニーのピアスにしたので、誕生日には同じシリーズのネックレス、2回目のクリスマスには指輪、誕生日にはブレスレットを贈った。



その後もお揃いのスマホやネックレス、キーケースに財布。俺が提案すると百合も喜んでいいねと言っていた。身の回りのものが少しずつ百合とのお揃いの物で揃えられていった。



そんな俺のことを百合が友人たちに話すと「すっごく尽くしてくれて幸せ者だね」と羨ましがられるそうだ。一方で「溺愛している」「超絶尽くし系」とも揶揄されてもいる。

溺れているかは分からないが、百合を他の男に渡したくなかった。百合には俺だけを見ていて欲しかった。その一心で、出来る限りのことをした。



百合も何かするたびに「私、こんなに幸せでいいのかな…というくらい幸せ。まさ君と付き合えて本当に幸せ。大好き、ありがとう」とはしゃぎながら抱きついてキスをしてくる。

いつの間にか緊張やぎこちなさもなくなり、自分から舌を絡めたり俺の服の中に手を入れて積極的になり、喜ばせようとしてくるようになった百合が愛おしかった。



偽りのないまっすぐな言葉と俺だけを見てくれていることに安心感と幸せを感じていた。


***

短大卒業後は地元の中小企業に入社した。


毎朝同じ電車に乗り、改札を抜けたタイミングを見計らって電話を掛けてきてくれた。




私の通勤時間は、電車に乗っている間以外はいつも側に昌大の声があった。そして社内でも有名になり、話をしたことがない人からも”通勤時に彼氏と電話をしている子”と覚えられていた。




私は入社してすぐに名前より先に「彼氏持ちのあの娘」という看板を背負った。これ以上、浮足立っているイメージがつくことへの回避と、電話の声が漏れて周りに彼との会話が聞こえていたら嫌だったので迂回して通勤するようになった。




しかし、学生時代に彼氏と長電話をすること自体なかったので恥ずかしいと思いつつも昌大とのやり取りを楽しんでいた。彼氏がいることも公言していたし年の差も気にしていなかった。






それでも昌大は年の差を気にしていたようで、日頃から『百合は俺以外と恋愛をしたことがないから、いつか俺よりも歳の近い男性に移ってしまうのでは』と心配していた。しかし、周りの男性を異性として見たことは一度もなかったし、普段は頼りがいのある昌大が心配している姿が可愛くて嬉しかった。






昌大はハウスメーカーの営業で一般家庭の注文住宅を担当している。顧客との打ち合わせが主で、平日の夜8時以降や休日などに仕事が入ることがほとんどだった。


そのため昼間~夕方は空いていることが多く、雨の日は駅まで迎えに来て家まで送ってくれたり残業で遅くなると連絡すると打ち合わせ後に会社近くまで来てサンドイッチなどすぐに食べられるものを用意して労ってくれた。




常に私のことを想い、気遣い、心配してくれることに、とても愛されていると幸せに浸っていた。友人にも彼の話をすると溺愛されていると羨ましがられるのも内心、気持ちが良かった。




付き合いが長くなると飽きたり、マメじゃなくなると友人たちは話をしていたが昌大は違った。毎日のように連絡をくれ返信も早い。


やり取りが多いので2日前の会話は何回かスクロールをしないと出てこなかった。高校生のような密にやり取りをする関係が続いていた。


もっとも私は、恋の無い高校生活を過ごしたので甘酸っぱい青春を今謳歌している気分だった。とても幸せだった。

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