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第17話 顔面半分男

202号室の中に信介は、唯一ある椅子に座りスイカンを待つ。

タシギさんには、危険なので自身の部屋に見を隠してもらう事にした。

弥辻は、アパートの前の道に立ちスイカンが来るのを待っている。

「さてさて、スイカンは、いつ来るのかねぇ。信介にホイホイ釣られてくれるかなぁ。」

とぼやいていると、遠目に影が見えた。成人男性くらいの大きさのスイカンだ。もし、巨大な怪獣程の大きさになっていたら、どうしようかと思ったが、そこは安堵した。あのサイズなら部屋に連れ込めるから、作戦通りにいくはず。

スイカンが程よい距離に近づいてきたので、僕はアパートの影に移動する、スイカンの攻撃範囲からの距離も考えて、そこに潜んだ。

スイカンは、歩きながら202号室に進む。202号室の扉はスイカンが入りやすい様に、わざと開けておいた。

部屋の外から、こちらを見ているのか睨んでいるのか、スイカンが覗いていた。信介は、椅子に座り弥辻󠄀を信じて静かに時が過ぎるのを待つ。

しかし、ここで誤算が産まれる。スイカンが202号室に入ろうとしない。何かを感じているのか警戒しているのか、扉の前でジッと固まっていた。

僕は考える、扉の前で止まるという事は、スイカンの今までの行動から考えれば分かる。ここまで、ずっと止まらずに歩んで来たスイカンらしく無い行動だ。生物的本能で警戒しているのか?でも、生物かも分からないが、これは希望と考えるべきか、スイカンが足を止める場所から、無理やり一歩進めれば、こちらに勝機がある。

 僕は、スイカンに向かって走りだした。左足から踏み込み攻撃範囲内に入る、次の一歩で右足に力を入れブレーキを掛け、しっかりと地面を掴む。そこから、次の行動、上半身を捻り、その勢いで左足を回し力を込めてスイカンに叩き込む。

 スイカンはバランスを崩し、前に進んでしまう。一歩では無く二歩進んだので202号室に全身が入ってしまった。

だが、僕にもダメージがあった、左足がボロボロに渇き今にも崩れてしまいそうになっていた。何とかバランスを取りつつスイカンから離れ、そのまま倒れる。後は、任せよう。202号室に。

 スイカンが部屋に入り、身構える信介。ここで何も起こらなければ干からびて死んでしまう、弥辻󠄀の言う神とやらを信じるしかない。弥辻󠄀が言ったの事なのだから大丈夫だろう。なんだかんだ、ここまで無傷で守ってくれたのは、弥辻なのだから。

 スイカンが部屋に入り、信介の目の前に大きな男が現れる。顔が半分しかない異形な形をした人間だ。弥辻󠄀に信介を守って欲しいと言った男である。

「これが、神なのか?」

それにしては、神々しいというより、どちらかと言えば恐怖を覚える特徴している。信介は、少し怯えて椅子から立ってしまい、部屋の隅に隠れた。恐怖や不安に弱い信介にとって、スイカンも、この大男も嫌な気分にさせたからだ。

「後は、ワシに任せろ。」

その顔面半分の短い言葉に重みを感じた。どこか信頼できる声を感じたからだ。

スイカンは、先ほどから弥辻の蹴りによって崩れたバランスを立て直し、こちらに向かってこようしていた。だが、ここで顔面半分が動く。なんと背中を床に着けて寝転がったのだ。どういうことだ?この行動に勝算はあるのか、はたまた降参のポーズなのか、分からないまま、スイカンは歩き出し信介に向かって来ようとした時、顔面半分の足の裏から大量の赤い血の様な物が噴き出した。それは信介が良く見る、手首からの鮮血に似ていたが、どこかドス黒さを感じる。だが、この液体に何の意味があるのだろうか?スイカンに水分を与えてしまっては、また、大きくなり強くなってしまうだけなのに。


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