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第16話 目的地

弥辻󠄀は、自転車で駆け抜ける。スイカンと距離を置くため、信介と距離を近づけるために。

スイカンは、もう放っておいても大丈夫だろう。襲う対象は信介と僕で、現在、僕の方が近くに居る。襲うなら近い相手からだろう。先程の相まみえた時も、逃げる信介を追わずに僕に攻撃しようとしてきた事から分かる。

 走り出して、結構な距離を進んだと思ったが、信介は何処にも見当たらない。一応、落ち合う場所。そう、目的地は決めているので、目的地までは最短距離で向かおう。信介は臆病でネガティブな所があるから、一人にするのは心配だ。守る前に精神汚染で自傷されては困る。

心配?僕が人に心配している?今まで人は只の生物でしか見てなかったのに、何故だろう、何が原因で信介を心配しているのか、守れという命令を守れない事が心配なら合致するが、いまいち、この約束も守るつもりは無い。成るように成ればいい、もう充分に観察は楽しんだしなぁ。でも、報酬だけ貰って、信介を見殺しにするのも後味が悪い。

 僕の感情が分からなくなってきている。これも、スイカンの能力なのか、それとも僕の潜在意識の中で何かが産まれたのか。これについては、後にしよう。感情など、今考える事では無い。もう一つ観察したいものがある。

 スイカンが、消滅する姿だ。

そろそろ目的地に着くとこだが、信介とは結局出会わなかった。自転車より早く走ったとういう事なのか?それとも、同じように何処かで自転車を拝借したのかな?信介が、そんなことできる様な性格では無いとは思うが。とりあえず追いつかないという事は、もう、目的地へ着いてるのだろう。

 そう、目的地の弥辻と信介が住むアパートに。

出発した場所から到着する場所は、同じだった。帰りはスイカンが着いてくる事になるが、何かランニングお散歩的な感じだったな。疲れたし、革靴は汚れたし。

 アパートの前に信介の姿があった。もう一人、ミリタリーな女の子はタシギさんか。何故、二人揃っているのだろうか?

まさか、タシギさんのバイクに乗せてもらって、足一つ動かさずにアパートまで辿り着いたって事は無いよな、しないよな、だってズルじゃん。僕は頑張って、ここまで来たのに納得できない。

まぁ、信介が、そんな人の努力を踏みにじる事はしない。しないはず。うん。

「ただいまかえりました。諏訪弥辻󠄀です。お疲れ様っす。」

信介が自分の顔を見て、泣きそうになりながら返事した。

「おかえりなさい。無事だったんですね、戻るのが遅くて心配しました。タシギさんが居なければ一人で部屋に引きこもって、お酒飲んで現実逃避していたと思います。それで、スイカンはどうなりましたか?」

信介って一人にすると、すげぇダメな人間になっちまうんだなと、改めて思った。

「スイカンなら、まだ追っかけて来ているよ。まぁ、そろそろスイカン使った面白い事するから、後は待つだけっすわ。」

タシギは不思議そうな顔をして、弥辻に聞いた。

「スイカンの話は信介さんから聞きましたけど、どうやって対応する気なのですか?皆目、検討も付きません。」

「ぶつける。ぶつけるんですよ。僕の部屋のアレに、タシギさんは、あの部屋がどういう部屋なのか分かっているよねぇ?」

「弥辻󠄀君、気付いてしまったのですか。あの部屋の秘密に。そうですねぇ、アレにぶつけるんですか、というかアレなんて言い方は失礼じゃないですか、アレはアレでも神ですよ。でも神なら、スイカンという者も倒せちゃうかもしれませんね。」

信介が天を見つめている。

「えっと、弥辻󠄀さんの部屋に神様がいるって事でいいんですかね?いや、ちょっと意味が分からないですけど、スイカンを見た上で、その話も信じます。タシギさんも神様が居るとおっしゃってますしね。」

うんうん、と僕は相槌を打ち続けた。

「たぶん、だけどスイカンもさすがに、神には勝てないんじゃないかな。だって神話の神とかヤバくて強くてすごいのばっかりだよ、ちょっと神頼みしてみようぜ。神に賭けてみよう。ギャンブルだ。」

信介は、顔を弥辻󠄀の方に戻し、天を見るのをやめて言った。

「弥辻󠄀さんの、そのギャンブル乗ります。神様でギャンブルするなんて恐れ多いですが、こちらも切羽詰まった状況なので許してくれるでしょう。それで、あの部屋に、どうやってスイカンを入れるのですか?」

「YOU、囮、よろなぁ。」

「へ?」


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