目の前に自販機が見えたので、信介は足を止めた。それに合わせてタシギもバイクを停めて降りた。
「慈悲深い大家のタシギさん、スポーツドリンクでお願いします。」
信介は年下に奢られるという恥じらいも無く飲み物を要求したのだった。
「スポーツドリンクですね。分かりました。家賃の話ですが弥辻󠄀君は、必ず月末に支払って頂いてますよ。ちょうど私が家に居る時に訪ねて来るので、一度も滞納した事はありません、信介さんも見習ってほしいです。」
少しトゲの有る言い方だが、仕方ない。どう考えても自分が悪いのだから。
自販機からゴトッと音がすると、タシギはそれを取り出し信介にスポーツドリンクを手渡した、タシギさんは自販機で自分用にブラックのコーヒーを買っていた。苦そう、、、
スポーツドリンクに口を付け、一気に飲み干した。胃の中に冷たいものが入るのが分かる、この暑さの中ずっと走っていたのだから身体も暑くなっていたのだろうか。
「スポーツドリンクありがとうございます。それで、自分は、まだ走らないといけません。そろそろ、お別れしてもよいですか?」
ゴミ箱にペットボトルの空を捨ててそう答えると、タシギさんもコーヒーを飲み干して、ゴミ箱に缶を捨てた。
「それで?走るのに事情って何かな?」
ごまかそうとしてた所を、タシギさんは拾って投げかけてきた。困った、説明していると時間が掛かってしまう、スイカンという存在を信じてくれるかも分からない。でも、ここで止まっていると弥辻さんが時間を稼いでくれてるのが無駄になる。
自分は、上手く嘘は付けないタイプなのだが、一部真実を話そう。
「ある者から逃げているんです。それで、ずっと走っていました。まだ走らないと、それは追いかけてきます。だから、そろそろ前に進みたいのですよ。行ってもいいですか?」
タシギさんは、信介の顔を見て言った。
「どこまで、逃げるのかな。」
「――――までです。」
タシギさんはバイクに跨がり、手軽く挙げた。
「乗って下さい。逃げるの手伝いましょう。このバイクは二人乗りできますし、法にも触れません。バイクの風の良さを味あわせてあげますよ。」
タシギさんはヘルメットを被り、二人乗り用に用意していたのか、もう1つのヘルメットを信介に渡した。
信介には、思ってもない提案だった。このバイクに乗せてもらえれば、スイカンから逃げる事ができる。だが、1つ心配事がある。弥辻󠄀は、大丈夫なのだろうか。目的地に辿り着けるのだろうか。信じるしかない、それに彼はスイカン相手に対応して対処しながら逃げれていたのだから、信じれる。弥辻󠄀自身を守りつつ、僕を守ってくれる。
そして、新たな守護者となる、大家のタシギさんの愛車のバイクに跨がり、ヘルメットを被り親指を上げ合図を出した。
「それでは、目的地までお願いします。」
エンジンが掛かり、マフラーから大きな排気音を出す、そしてバイクは走り出す。
確かに、バイクの風は気持ちがいい、走る時に吹く追い風とは、また違う。前に前に進む事で産まれる風を感じつつ、信介とタシギさんは目的地へ。