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第7話 逃走劇の始まり

 嫌な予感が巡る、もしスイカンが信介に近づいたら、人間なんてすぐに絶命してしまうであろう、この乾燥のスピード。何か打開策は無いかと考える。

 ここで観察眼が光る。

何か乾燥範囲が決まってないすっかね。おおむねの乾燥範囲を波紋の距離や木の高さを考え予想してみる。

2メートル弱、波紋の中心から、その範囲内で異常な乾燥が起こっている。

大きな石も下を向く葉も干からびだ魚も全てその範囲内だ。

何せ、ここにいる弥辻󠄀と信介は乾燥していないのが証拠とも言える。

その時、池の波紋が動き出す。

 刹那、信介は叫ぶ。

「弥辻󠄀さん、こっち見てる、化け物がこっちに向かってきている。どうすればいい?」

僕は落ち着いた声で一言。

「逃げるぞ」

と言うと、2人はスイカンに背を向け走り出す。

弥辻󠄀は、僕が観察したい物のために逃げる。

信介は、自分が生存する者となるため逃げる。

何か良い方法を考えるが、情報と観察できた時間が短過ぎる。ヒントは2メートルの乾燥効果、他に何も分かっている事が無い。

 僕は、とっさに信介に叫ぶ。

「商店街の方へ走れ。」

走りながら、信介は目を合わせ頷いた。

 商店街の入り口まで来たが、今日は人が少ない。まだ昼過ぎなので、ここの商店街は夕方からの方が、主婦や学生が買い出しにきて込み合うのだ。

 信介は人が少ない所で、商店街という走りやすい地形に安堵した。下手に坂や階段がある場所を逃げるより、ここを走った方が走りやすい。

「信介、まだスイカンは追いかけてきてるか、きてるなら距離も教えてくれ。」

信介は走りながら、後ろを向いて確認する。

「まだ、こっちに向かってきています。距離は、10メートル以上は離れてます。」

僕は、距離を把握しそのまま商店街を駆けていく。そして、20メートルほど進んだとこで、スイカンも商店街に入ったはずだと確信して、叫ぶ。

「泥棒だ!誰か捕まえてくれ!」

信介は、驚いた様にこっちを見ている、泥棒なんて居ない走っている弥辻と信介の周りはお店の主くらいしか居ないのだ。

泥棒と聞いて店の人やお客さん達が商店街の方へ、ぞくぞくと集まってきた。

僕が考えてる事が、正解なら。これでスイカンとの距離は稼げるはず。そう、とても残酷でサイコパス的な考え、だが最善策だろうと弥辻は気にもせず、商店街に少しながら人を集める事に成功した。

「信介、スイカンは今どこにいる?」

また、信介は振り返り後ろを見た。

「今、あそこに見える肉屋さんの所です。」

僕は、追いかけているスイカンの乾燥範囲内に商店街の肉屋の店主が包まれた所で、少し走るスピードを緩め観察する。

 肉屋の店主は、ゆっくりでも早くでも無く、そうフライパンに火をかけて熱くなるようなそんな時間経過と同じスピードで、店主は干からびていく。そして、30秒ほどでほぼ完璧に干からびてしまった。何かの本で見たことがあるようなミイラの様に乾いて個体になり、そのまま固まった状態。だが、これでは終わらなかった。そのミイラは砂の様にカサカサっと音をたてて崩れ、小さな砂の山が出来た。

前を見て走っている信介は、この光景に気づいて無いようだ。

「信介、後ろを確認してほしい。スイカンとの距離は、今どれくらいだ。」

信介はスイカンの方を向くと、砂の小山には気づかずスイカンの距離を確認した。

「さっきより、少し離れた気がします。ほんの少しですが、全力で走ってるからですかね。」

僕は、やはりと思い、前を向いて走り続けた。これならスイカンとの距離を置く事は可能だ。

スイカンの乾燥が行われている間、スイカンのスピードは落ちるようだ、だから最初の水の池で出会った時こちらに向かってこなかった、いや向かって来ていたが池の水を乾燥させながらなので、非常にゆっくりとこちらへ向かって来ていたのかもしれない。だから波紋は動き出していた。僕達が波紋に気づいた時点で、スイカンもこちらに気づき向かって来たという事だ。


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