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第2話 興味をそそる依頼

弥辻󠄀の外見は髪は黒く少し肩に触れそうなくらいに伸びてるいるのを、緑のヘアピンで、おでこと目が出るように留めてあり、その目は真っ黒で綺麗な二重をしている。ひげも綺麗に剃られて清潔感のある感じお兄さんという感じだ。見る人から見るとイケメンという分類に入る。

弥辻󠄀にとっては、どうでもいい事だった。身だしなみを余り気にした事が無い。ひげを剃るのは、邪魔だからだ。

弥辻󠄀にとって外見は何も意味をなさない。僕の目線では、外見なんて違っても、どうせ認識しないからだ、よっぽど特徴が無いと覚えてられない。

弥辻󠄀はこの部屋を借りる事に決めた時、何かが変わればいいと思っていた、退屈な観察もできない場所より、新たに観察してみたいという興味が出てしまった以上止められないこの場所。

このアパートの202号室に出る物体とやらを、、、

あの時の女性スタッフは悲しそうに承諾し、契約書に弥辻󠄀はサインした。これが、色々な者を観察できるという、望んだアパートになる事となる。


まてどまてど、物体は来なかった。

弥辻󠄀は、ミニマリスト故に部屋に人間味が無い生活をしているからと思ったりもしていた。部屋の中には椅子のみが鎮座していた。ミニマリストというより、何も無いこの部屋自体が不気味さをかもしだしていた。でも、物体が来ないなら来ないで、家賃は安い。

未知の物体を観察できるチャンスがあるかもしれない。ここ1年、弥辻󠄀の生きるモチベーションになっている。

そう思いつつ弥辻󠄀はバイトの準備をする。

カバンは持たない、カバンに物を入れる程、持ち物は多く無い。本皮の長財布をポケットに入れ、ビニール袋に昼飯のカロリーのとれる小さいクッキーと水道水を入れた水筒とビニール傘を持ってアパートを出た。

アパートを出た所でお隣に住む、半田信介とういう男と出くわした。いつも同じ半袖のジャージを来ている、たまに色が違う事があるのでバリエーションがあるのだろう、いかにもスポーツできますという細身の筋肉質な腕が見えていた。信介がこっちを見て挨拶してきた。

「おはようございます。」

対面で喋るのは好きではないが、信介には嫌な気持ちは余りしない。

「おはようだね、今日は雨が降るので、ランニングできませんね。」

軽く人を舐めた様な挨拶をする弥辻だが、これは普段通りで人とあまり関わりがないため、人との喋り方が分からず弥辻󠄀の脳内ではしっかり返事をしているつもりだが、どこかおかしく抜けている喋り方になってしまう。コミュ障みたいだが自身に自覚が無いのでなんとも言えない状態だ。

今日は、晴れている、すごく太陽が眩しい。

おかしな事を言う隣人と思われるかもしれない。

只、信介は弥辻󠄀を信じていた、彼は雨を当てるどころか、小さい地震が来ること、台風の行く先、全てを早朝に会った時、挨拶がてら軽く言われるが外した事が無い。

不気味というより不思議という感じが強かった。

なぜなら弥辻󠄀は爽やかな面構えに、黒シャツを着て下はヴィンテージみたいなジーパンを履いて、真っ黒の皮靴を光らせている。ごくごく普通の格好、挨拶もしっかりするし、受け答えや軽い世間話くらい普通にできる。ちょっと喋り方にクセがあるが、癇に障るほどでも無いしそこは気にならない。

二つ疑問に思う事は、毎日同じ格好、隣の部屋から生活音が全くしないということ。

信介は返す。

「ありがとう、じゃあ今日は家で筋トレしますね。」

「りょーかいです。でも、僕は今から仕事に行くので、うるさくしても大丈夫よ。今日は雨が強く降るよってに、洗濯物片付けたほうがいいよ。んじゃ仕事いってきます。」

軽い口調で、そう返すと弥辻は歩き出した。

「いってらっしゃい。」

と軽く手を振った。

弥辻󠄀は信介に対する観察はほとんど終わっていた。

半袖、筋トレ、手首には無数の切り傷。

腕にも新しい傷が出来ていたし、何か自傷したくなる事でもあったのだろうか、傷をわざと見える形にしてるのは誰かに見つけてほしいんだろうな。

弥辻󠄀は基本的に、こういうのは無視している。観察する上で干渉すると観察対象の動向が変わってしまうから分かっていても、相手の感情に入りこんだりはしない。

それが弥辻󠄀の流儀である。

               5

いつも通りの観察を含めた仕事を終えた、今日は収穫が何も無かった、ほとんど面白い事も無い、そして、夕方になり、商店街へ向かう。何か晩ごはんが欲しい、おかずを探しに気分良く足を進めた。

雨が強くなってきているので店閉まいを早くした店が多く、ほとんど開いている店は無かった。仕方なく開いている店を探すとジビエを置いている店が、獣臭さを出しながら店を開けていた。

そこに居る、お腹周りが大きいヒゲの蓄えた店主に話しかけた。

「いいお肉ありますかねぇ?何か軽く焼いて食べれる肉が欲しかったりするんっす。」

「うむ、じゃあ猪の良い肉くらいならあるが、どうですか?」

店主はヒゲを撫でながら答えた。

「値段はおいくらくらいですか?」 

「今日は、この雨で客は来ないからね。安くしとくよ。いつもなら1400円するんだが400円でいいですよ。」

「んじゃ、それ貰います。」

「あいよ」

袋に入った肉と引き換えに弥辻󠄀は400円払った。

結構な量がある、4食分くらいある家族向けに売っているものか。まぁ冷凍庫に保存すれば小分けにして調理できるし良いか。

「お兄さん、ありがとうございましたー。足元気を付けて下さいねー。」

店主は鼻を軽く触りながら、そんなこと言っていた。

「はい、美味しく頂きます。」

弥辻󠄀は、何かに納得したように適当な返事をし、足を進めた。

うん、店主は嘘を付いてる。これが猪の肉ってのは嘘じゃない。値段について嘘が丸分かりだった。

量から見るに、値引きはしてくれたみたいだがホントはもっと安く売れたはずなのに高めの額を請求したようだ。

弥辻󠄀のもう一声があれば、もっと安くできたかもしれない。

まぁ、食べれる物があるだけいいかと思い帰路を歩いて、アパートに着いた。202号室に。

猪の肉は、食べた経験が2回ほどしかないので、よく分からないが、取り敢えず焼いて、塩と焼き肉のタレを小皿に入れ。大皿に猪の肉を乗せた。

蛇口をひねって、大きめの銀のコップに水道水を入れ、それらをお盆に乗せてリビングの床に置いた。

机は持っていないので、いつも床で食べるスタイルなのだ。

食べてみた感想だが、なかなか歯ごたえがあったので噛んで噛んで食うというめんどくさい作業のおかげで、お腹は膨れた気がする。只、タレは合わない味を変えてしまうのは勿体ない感じがした。塩を使うのも微妙、これは味付けしなくても良かったなと思い、皿を台所まで持って行き、飲み残していたコップの水道水を喉に流し込んで、皿を洗い、食器を軽くキッチンペーパーで拭いて、適当に置いた。そのうち乾くだろう。

さて、弥辻󠄀は電子タバコを出し唯一部屋にある椅子に腰かけた。

この椅子はリサイクルショップに何故か大量に置いていた小学校で使う、木で出来た小さい頃、無理矢理座らされ勉強させられた、あの椅子だ。

肘掛けがあればいいのだが、背もたれしかないのでいつも背もたれに肘を乗せて電子タバコをふかしている。

弥辻󠄀は、空いた手でスマホを持ち時間を確認してスマホをポケットに入れた。SNSや動画などは見たりしない、たまに、学問のニュースをチェックするくらいだ。今まで、観察してきた人間でスマホに依存している人間は、何もリアクションが無く面白くない、そういう人間と同列に並びたくないという意思があるため、スマホは、あまり触らない様にしている。

寝る時間まで、後30分。

猪の肉の調理に時間を使いすぎた。

弥辻󠄀は時間通りに寝て、朝も決まった時間に起きる。無駄に時間を浪費したりしないため規則正しく生活ルーティンを守っている。逆にこのルーティンがずれたりすると、なにか落ち着かない気持ちになるからだ。只、ここ1年は生活時間が整っているので、身体は健康そのものだし、病気にもかかっていない。

2本目のタバコを吸い出した時に、ふと獣臭い感じがした、肉のせいかなと思い。椅子から立ち、換気のために、リビングの窓を開けた。雨が降っているのを忘れていて、開いた窓を少しだけ開くようにして、雨音を聞きながら、また椅子に座り電子タバコを味わっていた。

そろそろ寝る時間かとスマホを確認し、椅子をリビングの壁にベタッと付けて、寝床を作る、足が伸ばせればいいだけなのだ、僕はリビングの空いたスペースの床に身体を寝かせて、眠りに着いた。

床の冷たさを肌に感じ、外では雨が激しく打ち付け、弥辻󠄀は雨音を気にせず寝てしまっていた。そこに、ふと獣の匂いと土の匂いが混ざった風が吹いた。

その匂いを感じた弥辻󠄀がさすがに、目を覚まし、「猪の肉の匂いかなぁ、ん?冷蔵庫閉め忘れかな。」と軽く呟いた。

そして、目を開け体を起こしてる途中、気がついた。何かが立っている。人?熊?ゴリラ?大きくて二本足でそれは直立していた。

二本足から声がした。野太い聞き取りやすい声だ。

「坊主、ここらへんでスイカンを見なかったか?」

スイカン、、、なんだろ。水道管でも水族館でも無くスイカンとは聞いた事が無いな、もっと本とか読めば知ってたかもしれんが、てか、二本足さんよぉ、坊主ってのはどうなんだろうね?初対面だよね?まぁ、いいや。とりあえず話を聞こう。

「スイカンは知らない、んで貴方は誰?」

二本足が、しゃがんできた。顔が薄っすら見える夜の窓に入る、街灯か何かわからないが、その光のおかげのようだ。

頭は右半分しかなく顔には、傷が見られた。ナイフか何かで切られたのだろうか。そんな事はどうでもいい。なんせ、口が無いのに喋っているのが心底気になる。脳内に直接伝わってるのか声のような物を出しているのか、非常に気になるが。寝起きでまだ意識がはっきりとしない。頭の左半分を見ると40歳くらいのオジサンって感じだった。

顔面半分が、顔を見られて驚いたりするのを期待してたかもしれないが、弥辻󠄀はいたって平然だった、観察している時が一番楽しく落ち着く気がするからだ。

顔面半分は、しゃがんだまま弥辻󠄀に話しかける。

「スイカンってのは、めんどくせぇ者だ。そいつを怒らせた奴がいる。怒らせた奴は、お前の隣人の信介って奴だ。」

今、隣人って言ったよな。僕と全く関係なくない?怒らせたの信介だし、他人だし、興味無いし。

「何で隣人が怒らせたのに、僕に言うの?信介に言ってやればええやん。」

「あのな、このアパートの、この部屋、つまり坊主の部屋が良いんだ。事故物件とか言われてるけど、そんなもんじゃない。ここはな、通り道で有り溜まり場になってるんだ。人間じゃない者、現象、理、自然、全てが繋がってる。この部屋はな、神なんだよ。」

ん?部屋が神かぁ、なんて神だろう?八百万の神って言うくらいだから、居るっちゃ居るのかね。

只の事故物件で何か期待して借りたけど、期待以上の収穫だ。神を観察できるかもしれない。んで顔面半分は質問に答えた事になってんのかね。

「まぁ、神の部屋って感じなのね。色んな溜まり場にもなってると、んで、貴方が此処に居るのね。それじゃ、怒らせたよーって信介に伝えればええんか?」

「違う、信介を守って欲しい。神の部屋に住んでる坊主なら、それができる。」

何の確信を持って顔面半分が言ってるのか分からないが、すごいダルイお願いをされている気がする。何で他人の為に、僕が動かなくてはいけないのだ。只、興味があるっちゃある、スイカンって言う未確認の存在と神という存在。

もう少し、この顔面半分と会話するか。

「めんどくさいんだけど、スイカンってのは会えるのか?見えるのか?あと、神を見てみたいんだが、信介守る必要ある?」

弥辻󠄀にとって見える事は重要である。観察するに対して、五感の内でも見えるというのは、かなり重要な要素なのだ。

「会えるというか、スイカンから向かって来る。怒ってるんだからな。見えるかと言われると良くわからん、めんどくせぇ者には色んな奴がいるからな。守って欲しいのは、俺の願いだ。あいつの事はずっと見てきた、赤ん坊の頃からずっとだ。先祖として、あいつ、いや信介には期待している。信介には、今までの子孫の中でも、何かを感じる。その何かは分からんが、守ってやってくれんか?礼なら出す。」

信介すげぇ、何かすげぇらしい。期待されてるんだ。あんな男の何に期待してんだろうか。

自傷行為もするしメンタルは弱く、常に敬語で話している。筋トレ好きだけの男なのに。期待する所は、僕には見当たらない。尊敬すらしていないし。

「お礼は要らん。信介は守ってやる。そのかわり、とスイカンと神を観察させてもらう。僕は観察したい対象には全力を尽くす、是非だ。」

この坊主、何かズレてる気がする。礼も要らんし、守ってもくれる、何が坊主を駆り立てるんだろうか。

「観察?好きなだけしてくれ。そのかわり、必ず守るんだ。頼んだぞ。」

顔面半分は強い声で言ってきた。

弥辻󠄀は、その強気な態度に怯む事無く聞いてみた。

「貴方も観察したいんだが、ダメか?その顔はどうしたらそうなるんだ。」

顔面半分は困った顔をした。いや、顔が見えないから分からないのだが。まぁ、顔面半分を困らせる事が出来て、少し気分が良くなった。

「坊主、頼んだぞ。」

そいういうと顔面半分は。右半身から消えていった。パッと消えれないのかな。まぁ、いいや。

明日の朝に信介に会うのね、りょーかい。ついでに守ってやれば、色々、観察させてもらえると、お得じゃないか。

スマホを出して時間を確認する。まだ、4時かぁ、あと4時間ある。電子タバコを取り出し、スティックを挿し、少しボーッとしていた。顔面半分の傷、戦争の業火か火事か、まぁ、火傷して手当てもせず放置した感じかなぁ、まぁ、アレの観察のしようが無かったんだけどな。すぐに消えちゃったし、あの暗がりじゃ良く見えないしね。

電子タバコを口に咥える。軽く息を吸う。気づけば、雨がやんでいた。なんか面倒な夜になったが、4時間後には、もっと面倒な事になるのか。

椅子を部屋の中央に置き、腰を下ろして口から煙を放出して、溜息を吐いた。

3時間は経ったか、特に何もせず壁を眺めていたが朝日が差し込んでいる事に気づき、スマホを取り出し時間を見た。


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