目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
いずれ不滅の神殺し ヤンデレ神様から求婚されてしまったので、世界を渡って神殺しになるしかなかった男の英雄譚
いずれ不滅の神殺し ヤンデレ神様から求婚されてしまったので、世界を渡って神殺しになるしかなかった男の英雄譚
稲荷竜
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年01月28日
公開日
2.6万字
連載中
神様に婚約破棄を叩きつけてやれ!
なんの変哲もにないファンタジー世界。なんの変哲もない冒険者生活。なんの変哲もない裏切り、捨て石、追放。
死。
そこからの覚醒。
命の危機から異界渡り《ウォーカー》という能力に目覚めた主人公は、危機を逃れた先で女神様と出会う。いわゆる転生女神様。報われない現実から、報われるチート転生へ──という話になるかと思いきや、女神様を敵だと思った主人公、女神様を殺してしまう。
しかも殺した神様(神は不滅なので復活する)に目をつけられて結婚を迫られる始末。冗談じゃねぇと異界渡りの能力でヤンデレ化した女神から逃げて、戦って、食って、強くなって──
不滅の神様を、いずれ、完全に殺す。
……ただし、『神殺し』を成した主人公に色々な神様が注目してしまうので話がややこしくなっていく。
邪魔する者は神だろうが人だろうがまとめてぶっ飛ばしていく、最強かついずれ最強主人公の世界を渡る物語。

※初日は11時、12時、13時、14時、15時、17時の5話公開
 2日目以降は11時、17時の1日2回更新
※カクヨム、ハーメルンにて後追い連載

第1話 『無能力者』ディ

『地道な努力は裏切らない』。


 孤児院の院長が言っていた。それを聞いた仲間たちは笑った。

 子供ながらにみんな理解していた。『いくら努力したって、いいスキルに目覚められなければ、意味がない』と。


 でも、


「ディ! 『能無し』のお前に役目を与えてやる! そこで、モンスターどもを食い止めろ!」


 見下すような声が遠ざかっていく。


 彼は──『能無し』のディは、自分の左足に触れた。

 そこには深い傷があった。


癒し手ヒーラー』の才能スキルがあれば一瞬で治すことができるだろう。

 でも、彼にはそんな才能はなかった。


 ディは自分の方へ迫りくるモンスターを見た。

 スライムが数十。その奥にはワーム。どれもこれもこの穴倉ダンジョンに棲む魔法生物系のモンスターども。


 仮に『魔法使いスペルキャスター』の才能があれば、すべてを薙ぎ払う──までいかなくとも、足を負傷したままでもどうにか相手はできただろう。

 でも、彼にはそんな才能はなかった。


戦士ウォリアー』の才能があれば、ケガをものともせずに立ち上がって戦えただろう。

 でも、彼にはそんな才能はなかった。


 もしも、仮に──


 今、逃げて行った、あいつのように。

勇者ブレイバー』の才能があったなら、ここからでも、どうにか、なったのかもしれない。


 もちろん、彼にはそんな才能はなかった。


 ……いや。この状況はきっと、才能があるだけではダメだったのだろう。

 才能があったうえで、努力をしないと、潜り抜けられない。だって、才能だけでどうにかできるなら、あいつらは、ディの足を・・斬って・・・逃げたりはしないはずだから。


 ディは『スキル無し』だ。


 でも、努力をしてきた。いつか報われると信じて努力を重ねてきた。

 一方で、逃げたあいつらは、生まれつきの才能だけでやってきて、努力をしてこなかった。


 だから、こうなっている。


 ……モンスターどもが迫る。


 ここでディができることは何もない。だから、あいつらはディが食われている間に逃げるつもりなのだろう。


『地道な努力は裏切らない』。


 孤児院の院長の言葉を思い出す。


 思い出して、ディは笑った。


 努力だけでは回避しようのない状況の中。才能がなかったばかりに努力の一切が実を結ばなかった人生の終わり。

 その瞬間にディが思うことは、


「まだ、努力できる・・・・・


 才能スキルのない男が、片足の筋力だけで立ち上がる。

 見よう見まねで覚えた呪文を口ずさむ。炎の弾が浮かび、引き換えに全身を襲うけだるさと吐き気がひどくなった。

 彼に魔法使いの才能はない。才能のない者が魔法を使えば当たり前に襲われる、魔力不足。それによる『死んだ方がマシな苦しさ』。

 だけれど苦しいことには慣れている。人生で苦しくなかった瞬間なんか少しもなかった。だから、これはいつものことだ。


 魔法スペル放つキャスト


『死んだ方がマシな苦しさ』を幾度も乗り越えて身に着けた火球ファイアボール

 それは魔法使いの才能発覚したての子供が撃つよりずっとずっと弱い火球だった。でも、最初にやったころよりはずいぶんマシだ。

 最初の最初は、明かりにもならない火をちょろっと出しただけで、吐き気と苦しさ、全身の痛みに気を失ったっけ──と思い出して笑う。


 小ぶりなナイフを構える。

 迫りくるワーム。速い。しかし、イメージはできている。

 才能がない。だから、速度もない。……でも、トレーニングを繰り返した。地道な筋力トレーニング。反射神経トレーニング。持久力トレーニング。才能があるヤツなら戦っていれば勝手に身に着く速さや力を少しずつ伸ばして、今はこんな状態でも動けるし、ワームの突進をかわしながらナイフを突き立てることだってできる。


『地道な努力は裏切らない』。


 孤児院のみんなは嗤った。馬鹿にするように、先生の言葉を嗤っていた。

 でも、ディは笑わなかった。なんとなくその言葉が自分の道しるべのように思えたから。


 確かに、才能があるヤツよりも、ずっとずっと努力して、ほんの少ししか進歩しない。

 でも、最初のころより、少しずつ良くなっている。


 だから、努力を重ねればきっと、いつか、才能のあるやつらを追い越せるだろう。


 だから──


「いつか、どこかにたどり着くために、俺は、生き残る……!」


 自分を見捨てた仲間たちのために時間を稼いでいるのではない。

 ただ、生きて努力を重ねて、『どこか』にたどり着くために、生きる努力を重ねている。


 ……でも。


 スライムの大群が津波のように襲い来る。

 ナイフを突き立てられたワームが、悲鳴さえあげずに襲い来る。


『今、この時点』では、まだ足りなかったらしい。

 いつかどこかに至れる努力は、今、この瞬間の生存を拾うことは──できなかった。


「生き残る……生き残る……生き残る……!」


 それでもディはあきらめない。

 スライム津波に呑みこまれ、ワームの突撃でふきとびながら、血反吐を吐いて声をあげ、全力で生きる努力を重ねる。


 ……だからディは、最後の最後まで、目の前の事態を解決するのに夢中なまま……



 ──真っ白い部屋。


 そこは勇者が来る場所。


 前世において善行を働いた者。個性的な死に方をした者。

 とにかくこの部屋の主人──『転生を司る女神』が面白いと思った者を呼び出し、第二の人生を与える場所だ。


 そこに、


「あら?」


 不正な・・・来訪者・・・が現れる。


「生き残る……生き残る……生き残る……!」


 その男は戦っていた。

 小ぶりなナイフを握りしめ、血反吐を吐きながら、何かと戦っている最中だった。


 転生の女神──『手を届かせる者』イリスはその男に興味を抱く。

 自分の招待もなしに神の国Utoposにたどり着けるその男の才能・・は、この女神をして今まで見たことがなかったものだったからだ。


 女神イリスはその男に微笑みかけ、手を差し伸べる。


「招かれずに訪れた者よ。これも何かの縁、です。あなたに第二の人生を──」


 男──ディは。

 差し伸べられた手を、切り払った。


「生き残る……生き残る……!」


 女神イリスの手から、血が舞う。


「……あら?」


 イリスは首をかしげた。

 神である自分が、ただの人間の、なんの効果もない刃物で血を流すことになった。その奇跡を不思議がったのだ。


 そして、『不思議がる』という隙は……


 絶望的な状況の中で、もはや酸素も足りず、血も足りず、全身を引き裂かれるような痛み、苦しみの中、視界さえもまともに利いていない中で、それでも『生き残る』ということだけを信念に壊れた体を必死に動かしていたディを前には、致命的だった。


 ディが素早く女神イリスに接近し、その首をナイフで掻き切る。


 鮮血が噴き出す。

 女神イリスがその場に倒れる。


 ディは倒れた女神に馬乗りになり、何度も何度もナイフを突き立てた。


「生き残る、生き残る、生き残る……!」


 ざくざくざくざく。

 女神の玉体ぎょくたいが刻まれ、その美しい白い衣が裂かれ、まばゆい肌が傷まみれになり、赤い血だまりの中で桃色の長い髪がたゆたう。


「生き残る、生き残る、生き──あ?」


 そこでようやく、呼吸する余裕を取り戻したディが、目の前の状況を認識する。


 美しい女が、自分に組み敷かれて、死んでいる。


「……あ、あ、れ、ここ、は? ダンジョン、で、モンスターどもに、襲われて、た、はず、じゃ……?」


 何が起きているのか、さっぱりわからず、うろたえる。


 転生の間。

 白い空間。


 魂を次の生へと導き、ついでに特典チートなんかを与える女神は、こうして死に──


「──あなた、わたくしを一回・・殺しましたね?」


 嬉しそうに唇をゆがめ、つぶやく。

 桃色の瞳は、粘度の高い情念をたたえて、ディの顔を真っ直ぐに見ていた。



 ……これが、一人と一柱の因縁の始まり。


 これより始まるのは、世界を渡る男と女神の追いかけっこ。

 ヤンデレ神様から求婚されてしまった男が、世界を渡って神殺しになるしかなかった英雄譚。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?