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救護室

コンコンと救護室のドアがノックされる。




「どうぞ」




ガラっと扉が開き、仁とコロに加え見覚えのない中年男性が一緒に入って来た。




「げっ! 変態親父じゃねぇか! ここはてめぇの来るような所じゃねぇ! 出て行け!」




「おっ! 咲ちゃーん! 久しぶり~! 相変おこちゃま体系だねぇ!」




そう言って一瞬で咲の後ろへ回り込み、尻を撫でる。




「てめぇ! 殺す!」




咲の拳を避け、元の位置へ素早く戻る中年親父。


そこで、コロが中年親父に拳骨を食らわす。




「いてっ」




「何やってんだよ! 恥ずかしい事すんなよ! 父ちゃん!」




『父ちゃん!?』




「驚かしてごめんな皆。この方はコロの父さんで、対龍軍中将 狗神 ポチさんだ」




((ポチ!?))




「おいお前ら、この変態親父は主人に付けてもらった、ポチって名前を大事にしてる。だから間違ってもポチちゃんとか言うんじゃねぇぞーーーいでっ! 何で殴るんだよ変態親父!」




「お前が言うな!」




「ちゃんと説明してやってんだろうが! 殺すぞ!」




ポチは咲を無視して辺りを見回す。




「で、大地君は君だね。そして、そちらの方が櫻姫様だな」




「そうだよ父ちゃん。父ちゃんならこの生意気な、櫻姫って奴の正体分かるかなってーーーー」




ポチはコロの頭の天辺を鷲づかみにし、そのまま床へ思い切り押し伏せる。


勢いのあまり床に亀裂が入る。




「カハッ!」




「お父さん! 何するんですか!?」




「いや~こんなもんで勘弁してはもらえませんか? 櫻姫様」




「ならん。お主が今の狗神の長ならその身をもって償え」




「身をもってですか・・・。いや~・・・まだ俺は死ぬ訳にはいかないんですよ」




「言い訳などーーーーひゃっ!」




スパーンといい音を立て、大地は櫻姫の尻を叩いた。




「なっ・・・! 何をなさるのですか大地様!」




「許してやれよ。櫻姫がどんな偉い奴か知らねぇけど、その2人は友達だし、一度は一緒に戦った戦友だ。・・・俺を主と呼ぶなら俺のいう事を聞いてくれよ。頼む」




「大地様がそうおしゃるのなら・・・。」


コホンと一つ咳ばらいをし櫻姫はポチへと向き直る。




「狗神の責は問わない事とする」




「ありがとうございます」




深く頭を下げるポチ。




「ふんっ。それより大地様・・・初めて余の御尻に触れて下さいましたね! 余はこの御尻を一生洗いません!」




顔を赤らめお尻をさする櫻姫。




「洗えよ! 汚ねーな!」




「余は排泄など必要ありませんので常に綺麗でございます! 清めるために洗っているのですから、大地様によって清められたこの御尻を、これ以上清める必要などございません!」




「ほう、櫻姫様の御尻興味がありますな・・・!」




手で揉みしだく仕草をみせるポチ。




「調子に乗るな!」




「あはは、これは失礼! 咲ので我慢致します!」




そう言いながら咲の尻を触る。




「人の尻を妥協して触ってんじゃ無ぇ! クソ親父!」




振り払う咲。




「はっはっは。では諸君! 去らばだ!」




走り去る際入り口に立っている仁に、すれ違い様に呟く。




「コロをしかと頼んだぞ仁。」




「はい」




そしてそのまま立ち去って行った。




「父ちゃんは!?」




気絶していたコロが目を覚ます。鼻からは血がボタボタと滴り落ちていた。




「もう行ったぞ。ほら、コロ。顔を見せてみろ」




そして仁はコロの流れる血を自らの舌で舐め回し始めた。


一同は男女が顔を舐めまわすという行動に、顔を赤らめている。




「や・・・やめろよ仁! 人前だぞ!?」




「お前そんな事気にするのか? だって、こうしなきゃ血止まらないだろ?」




「そ・・・そうだけど・・・」



少しの間コロは大人しく仁に顔を舐められた。




「よし! 血は止まったな。後は・・・と」




仁はポケットから一枚の札を取り出し、コロの顔に貼り付け、何やら呪文を唱える。




「これで痛みも無くなったはず! どうだコロ」




「うん。大丈夫」




「ほう。陰陽術も使えるのか・・・仁とやら、大地様にも教えてくれぬであろうか?」




「いいですよ。ただ・・・2学期からでよろしいでしょうか? 夏休みに入ったら出雲へ向かいますので」




「なるほど、元服の儀式であるな。では休暇が明けたら頼むぞ」




「いいかな? コロ」




「好きにすれば?」




「いいそうです」




「うむ」




「では、俺たちもそろそろ部屋に帰りますので・・・失礼します」




そう言って、部屋を立ち去って行った。




「あの2人、仲が良くて・・羨ましいな」




「本当羨ましいよな~! 俺も怪我したら血を舐めて欲しいぜ!」




「そこ、羨ましいポイントなのか?」




「大地様がケガをなさったら。余が舐めて差し上げます・・・いや、是非舐めさせて下さい! 大量出血でも飲み干して見せます!」




「吸血鬼かよお前!」




「大地は血を舐めるプレイが好き・・・メモメモ」




「変な事メモるんじゃ無ぇ沙耶!」




救護室に笑いがこだまする。




「おいお前ら、そろそろ表彰式だぞ、さっさとモニター広場へ戻れ、治療は又明日だ」




モニター室へ移動する一同。


広場に到着するなり歓声が巻き起こる。




「え? 何だこれ・・・歓声?」




「当然ですわ。皆が皆、恐怖している訳ではありませんわ、恐怖するほど強いという事は、対龍戦の時心強い見方になるという事。結果を残せば必ず認められるのですわ」




「いやーどもども!」




大地は笑って手を振る。




「は・・・恥ずかしいよ・・・」




モニターの下には表彰台が設けられ、その端で優香姉が拡声器を持って皆に呼びかける。




「では優勝した【Eチーム+α】壇上へ」




壇上への上がった一同の前に誠が立つ。




「ほっほっほ。良く頑張ったのう。これからの活躍も期待しておるぞ」




横に立っていたアリーチェが勲章を胸に付けていく。


キャロルの前に来るアリーチェ。




「本当に良く頑張りましたわね。そして良い仲間にも恵まれました。その絆、大切になさい」




「アリーチェ御姉様・・・!」




「では、優勝者に祝福の拍手を! これにて定期昇給試験を終了する!」




会場は大きな拍手に包まれた。








放課後。一度部室前に集合した一同。そこへ、アリーチェとエレナが現れた。




「ちょっといいかしら? キャロル・・・それと守君」




そして少し離れた所へ連れ出す。




「わたくしと守を呼び出して、何か御用ですの?」




「守君。いつも、我侭なキャロルに付き合ってくれて、ありがとうございます」




「いえ、そんな・・・お世話になっているのはこっちで・・・」




「そうですわよ! わたくしは、お世話をしている方ですわ!それに我侭でもありません!」




「お前なぁ・・・」




「はっはっは! いやはや、仲のよろしいこって!」




「エ・・・エレナ御姉様!?」




「こほん。とにかく・・・いつでも屋敷にいらして下さいね。メイド達にも良く言っておきます。ですが・・・間違っても一線を越えてはいけませんよ?」




『なっ!』




頬を赤らめる2人。




『あ・・・ありえません!』




「息ぴったりだな~! まぁキスくらいならいいぜ!」




「何言ってますのエレナ御姉様!」




「ま・・・その忠告に来ただけだよ! 次いつ会えるか分からないしな」




「そういう事です。ふふっ。半分は冗談。可愛い妹を、からかいたくなったのです。許してね。では、又会いましょう」




「もう・・・アリーチェ御姉様は・・・では又」




「失礼します」




キャロルと守は振り返り歩き出す。




「ちょっと守君」




「何です?」




呼び止められた守にアリーチェは近づく。そして耳元で




「キャロルはこれから多くを悩む事でしょう。その度に支えになって上げて下さいね。それと、キャロルは脈ありだと思いますよ。先ほどはああ言いましたが、あの子が望むなら・・・押し倒してしまってもかまわないからね」




(貴方達に残された時間は、少ないのかも知れないのだから・・・)




「ななな・・・何言ってるんですか!? そんな事出来る訳無いでしょう!?」




「ふふ・・・可愛い子ね。キャロルをよろしくね、では、又会いましょう」




顔を真っ赤にして、キャロルの元へ戻る守。




「御姉様に何を言われましたの?」




グイっと顔を近づけてくるキャロル。




(キャロルが脈ありって・・・つまり!?)




ますます顔の赤くな守。




「な・・・何でも無ぇよ!」




顔を逸らし歩き出す。




「教えなさいよ!」




「うるせぇ!」




「ほんっと・・・仲が良さそうですね~・・・!」




「げっ! 優香姉! 来てたのか!?」




「悪いですか? ラーメン食べに行くんでしょう? なら私も同行します」




「それはいいんだけど、誠校長は来ないのか?」




「校長先生は今回、試験に挑んだ生徒達をねぎらう立場にありますので、個別の祝いには参加しないという事ですよ。私は家族との食事にその友達が付いてきてるというだけです」




「大人って、めんどくせぇんだな」




「そういうものです。さ、参りましょうか!」




ー豚骨ラーメン誇乃豚野郎ー




それぞれが注文したラーメンが運ばれて来る。




「では、優勝を祝しまして、乾杯!」




『カンパーイ!』




水の入ったグラスで乾杯をする。




「では・・・守。お願いしますわ」




「は? 何をだよ」




「見て分かりませんの!? わたくしは両手が使えませんのよ! 貴方が口に運んで下さいまし!」




「ええ!?」




『ちょっと待ったーーー!』




優香と千里が同時に声を上げる。




「・・・キャロルちゃん、私が食べさせてあげるよ? ね? そうしましょう?」




「いや! 私がやります! ほら、守はラーメンを食べてなさい!」




「折角ですがお断りしますわ。これは、訓練で手を抜いた守への罰ですので、お2人に食べさせて頂く訳にはいきませんわ。さ、守」




そう言って口を開ける。




『むむむ・・・』




優香と千里は悔しそうに口をつぐむ。




「それを言われると・・・仕方無ぇな・・・」




麺を箸ですくい、キャロルの口元へ持っていく。




「冷まして下さいまし」




「お前、口は使えるだろ! 自分でやれよ!」




ムッとしかめっ面をしたキャロルが、仕方なさそうにフーフーして口に入れる。




「次!」




「待てよ! 俺はいつ食べたらいいんだよ!?」




「わたくしが終わってからですわ!」




「伸びるだろ・・・」




守は悲しさを胸に、キャロルにラーメンを差し出し続けた。




「守はモテていいなぁ・・・あれ、俺、塩ラーメン頼んだっけ・・・」




「大地、涙が入ってる。フーフーして欲しいなら・・・はい」




沙耶はその小さな口で自分のラーメンを冷まし、大地に差し出す。




「ありがとう・・・。ブフッ!ゲホッ、ゲホッ! 辛ぇ!!!」




「あ・・・。コショウ一本入れちゃってた・・・ごめん大地」




「いや・・・ありがとう」




今度は物理的に涙を流す。




それをよそに、太は5杯目の替え玉を注文する。




「ドスコイ」




「あ、すみません!替え玉お願いしますー。」




ラーメンを食べ終わり、店の前に出る一同。




「皆さん今日は本当にお疲れ様でした。明日は1学期の終業式ですわ。夏休みに入っての一週間は武活道はお休みとしますわ。これまでの激しい訓練を疲れを癒して下さいまし。では又明日」




家の方向が同じメンバーで別れ、それぞれの帰路につく。




「さ、私達帰りますわよ、守」




「そうだな」




2人ともしばらく無言で並んで歩く。

守は少し足並みを緩め立ち止まる。




「・・・キャロル。ごめんな、俺がもっと早く嫌われるなんて怯えずに、ドラゴンの力を使っていれば、お前の腕もそんなにならなかったのに・・・」




「これは、わたくしと猩猩さんと1対1の戦闘の結果ですので、貴方が気に病む必要はありませんわ」




「だけどよ・・・」




「それに、先にやられてしまったのは不本意ですが、面白い言葉を聞けた事ですし・・・えっと・・・『キャロルの髪の毛はな・・・さらさらで綺麗なんだぞ・・・それをあんな風に掴みやがって・・・』だったかしら?」




「ななな・・・! 何でお前、気絶してたんじゃ!?」




守の顔が真っ赤に染まる。




「戦闘中の会話は全て、後で参考にするために録音しておりましたので、なんならここで流して差し上げましょうか?」




「恥ずかしいだろ! やめろよーーーー・・・えっ」




キャロルは自分の頭を守に差し出していた。




「今日、優勝を決めていただいた、御礼ですわ。少しだけですわよ」




「いいのか・・・?」




「はい」




守はキャロルの髪の毛を優しく撫でる。




(やっぱりすごく綺麗な髪だ。ずっと触っていたいくらい細く、柔らかい)




守からは見えなかったが、キャロルは顔を真っ赤に染めていた。




「・・・さ、そろそろ帰りましょうか」




「・・・そうだな」




2人は再び歩き出す。


しばらく歩いた後、キャロルは突然立ち止まる。




「ま・・・守」




「なんだよ?」




「えっと・・・その・・・明後日から一週間、お父様の所有する島で・・・修行するのですが・・・貴方も一緒に来てくださらないかしら・・・?」




「えっ!? 突然だな・・・一週間か・・・そうだな、武活道も休みだし・・・ってお前まさか!?」




「さぁ? 何のことかしら? まぁ、貴方に拒否権はありませんけどね。これは手を抜いた罰ですもの!」




「と・・・とにかく、俺の長期外出には母さんと神代校長の許可がいるんだよ!」




「そ・・・そうですわよね・・・」




少し悲しそうな顔をするキャロル。




「だから、行っていいか聞いてみてやるよ」




「ーーー!・・・必ず外出許可をもらって来なさいよね! 命令ですわ!」




「努力するよ」




残りの道を歩いて帰る2人。心なしかキャロルの足取りは軽いように見えた。




「では、又明日。本日は絶対お母様の許可を取って下さいまし」




「分かったって。じゃ、又あしたな」




「絶対ですわよ!」




「うるせぇな! じゃあな!」




守は手を振り家路につく。



















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