目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

決勝戦3

強一相手に猛攻を仕掛ける守と太、それを少し後方から、合流したキャロルが強化魔術を施しながら、時に銃で牽制をする。




「太! 動きが鈍くなっていますわ! 一旦下がって体力を回復してくださいまし! わたくしが前に出ますわ!」




「ドスコイ!」




守は交替を援護するために強一の後方へ回りこみ強一の脚へ蹴りを放つ


が、びくともせず逆にをの脚を摑まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。


その隙をキャロルが見逃すはずも無く、一瞬で懐に入り、散弾を放つ。




「もらいましたわ!」




しかし、トリガーを引いた瞬間、強一は拳銃の銃口に手のひらを押し当てた。




「しまっーーーー!」




銃は暴発し粉々に吹き飛ぶ。強一は当てた手のひらをを握り、そのまま攻撃に転じる。


キャロルはそれを、もう一方の銃で受け止めるが、銃は砕け、キャロルも衝撃で吹き飛ぶ。


ビルに激突しそうになるキャロルを、帰ってきた守が間一髪受け止めた。




「た・・・助かりましたわ」




「しかし・・・なんつー強さだよ」




「強さは認めますわ。ですが・・・これだけの実力がありながら、わざと試験の時、手抜きをするその根性が気に食いませんわ! なぜ手抜きをするのですか? 答えて下さいまし猩猩さん!」




「・・・俺の目的に必要ないからだ」




「あなたの目的とは一体何ですの?」




「俺は同胞を、あらゆる危険から守護する存在にならねばならん。そのためには人類最強の力を得る必要がある。そのための武者修行の地として、日本へ来た。」



その言葉と表情には確かな決心が宿る。




「なるほど・・・試験で結果を残し軍曹階級になってしまうと、ドラゴンとの戦闘を強いられる。それが嫌だったという事ですわね」




「俺に、人類を守るつもりは無い。むしろ、俺ら大猩猩おおしょうじょうの一族にとっては人間の方が憎むべき相手」




「待てよお前。それじゃ、それほどの力を持ちながら、ドラゴンと戦う気はさらさら無いって事かよ!?」




「そう言っているだろうが」




「キャロル! 絶対こいつぶっ飛ばすぞ!」




守の瞳孔は細くなり。口からプラズマがほとばしる。




「分かってますわよ! 守!」




「ドスコイ!」




「太! 回復したのか!?」




太は制服を破り捨て、ふんどし一丁になり四股を踏む。


今までの太とは比べ物にならない位の闘気を放っていた。




「太・・・! そうですか・・・貴方もついに! 武神の加護を!?」




立会いの構えを取る太。そこから一気に強一に突っ込む。




「ドスコーーーイ!」




激しく衝突する強一と太。




「ぬぅっ!」




強一は後方に吹き飛び。ビルへ激突する。


立ち上がろうとする強一に、守の強烈な一撃が顔面を捕らえ、ビルの壁を突き破り中へ転がり込んだ。口を切ったのか、大量の血が吹き出す。




「ほう・・・さっきとは全然違うな・・・これがお前らの本気か・・・面白い! シャンディ!」




今までずっと腕組みをして立っていた、銀髪を結わえた大柄な女性が、動き出す。




「情けないねぇ、アンタ! こんな奴ら相手に、憑依を使わないと勝てないなんて」




「そう言うな。こいつら篭手田と山田を倒しただけはある」




「仕方ないね・・・手伝ってやるよ。・・・憑依!」




シャンディは毛皮となり強一に覆いかぶさる。


見る見る筋肉が膨張し、制服がそれに耐えられず裂けてしまい、その茶色の毛皮で覆われた肌が露出する。その背中の一部だけは、美しい銀色の光り輝く毛が光り輝いていた。




「出ましたわね・・・【シルバーバック】! 皆さん今までとは桁が違いますわ! 集中して下さいまし!」 










沙耶を抱き上げ、涙を流す大地。




「何泣いてんのよあんた。気持ち悪いわね」



傍にいた櫻姫が立ちはだかりコロを睨みつけた。




「狗神! 大地様を侮辱するとは何事だ!」




「又出たよあの弱っちそうな神様」




「コロ。失礼な事を言うんじゃない!」






(バッテリーを渡してたら・・・沙耶はまた無茶しただろう・・・。でも、沙耶なら相打ちくらいには出来たのかもしれない。力の無い俺が余計な事を言わなければ・・・いや、俺にもっと力があれば・・・!)




大地の魔力の上昇を感じ取る櫻姫。




「大地様!?」




「櫻姫。俺は力が欲しい! でも、俺このポンコツな頭じゃ何も思いつかない! 何か方法を知っていたら教えてくれ! この通りだ!」




涙を流しながら櫻姫に土下座をする大地。




「だ・・・大地様!? お辞めになって下さい! 従者である余に、主である貴方様が頭を下げるなど!」




「何だあいつ。困ったときの神頼みでもやってんのかしら。ちょっと面白そうだから見てましょうよ。どうせヴァレとアリシャやられちゃったみたいだし、強一は援護なんて必要ないでしょ」




「コロ! のん気な事言ってないで早くとどめを刺せ! 何が起こるかわからないぞ!」




「頼む」




「・・・方法はございます。余が大地様の前に顕現した時より、いざという時のために少しずつ魔力を拝借し、蓄積しておりました。それをお返しすれば一時的に、大地様本来の力を使う事が可能でございます。ですが・・・魔力回路の狭くなった大地様に本来の魔力を流すとなると、体に相当の負担がかかり気を失うか痛みでとても戦うどころではございません」




「それでも構わない! やってくれ! 俺は何としても勝ちたい。 最初から最後まで足手まといじゃ。戦いを教えてくれたキャロル。俺の口だけの命令を聞いてやられちまった沙耶。前線で常に強敵と闘ってくれている太と守! あいつらの仲間って言えるだけの力が欲しいんだよ!」




「・・・分かりました。では、魔力をお返し致します」




櫻姫は大地の後ろへ回り、そのまま背中から優しく抱きしめた。

と、同時に大量の魔力が大地へ流れ込む。




「うわああああああああ!」




体の焼け付くような痛みに、悲鳴を上げる大地。


その痛みに意識が遠のき始める。




「負けて・・・負けてたまるかよーーーー!」




大地は自分の腕に噛み付き意識を保つ。




「大地様・・・!」




その姿を見た特別観覧席の桜が慌てて立ち上がる。




「いかん! なんという無茶をさせるのだ櫻姫様は! 狭い回路にあれだけの量の魔力を流したら・・・壊れてしまうぞ! 止めさせねば!」




「大丈夫じゃ桜」




「黙れ誠! お主には大地の苦しみが分からぬであろう! あれは想像を絶するーーー」




「桜。ワシを信じろ」




「っつ・・・何かあったら殺すからの。隊長殿。」




桜は再び席につく。




「うおおおおおおおお!」




「おい! ヤバイぞコロ!」




「ッチ!!!分かってるわよ!」




コロは慌てて大地にとどめを刺そうとするが、突然現れた樹木などが邪魔をし、近づく事が出来なかった。


次々と現れる木々を後退しながら、ビルの屋上へと避難したコロ。そしてそこから見た光景に目を疑った。




「何よこれ・・・森・・・森が出現したわよ!」




森の中、よだれを垂れ流し立ち上がる大地。




「大地様・・・・! あぁ・・・やはり貴方様は特別なお方。 余の敬愛するご主人様でございます」




大地に土下座をする櫻姫。その姿は小さな着物の少女の姿では無く、美しい大人の姿となっていた。




「はぁ・・・はぁ・・・行くぞ・・・櫻姫!」




「はっ! お任せ下さい」




「コロ! 俺らもとっておきを出すぞ!」




「う・・・うるさいわね! やればいいんでしょ! やれば!・・・【狂化きょうか】!」




コロは再び大きな犬の姿へ戻り低い唸り声をあげる。




「グルルルル」」




次第に毛色は真っ赤に染まり、体の回りにあふれ出す闘気が、赤い麟片となって舞う。


ビルから飛び降り森の中心にいる、大地へ向かって高速で接近する。が、森から多数のツタが狗神を襲う。


それを時にかわし、時にその強靭な顎で噛み千切りながら前進する・・・しかし、ツタの多さに次第に対応出来なくなり絡めとられ、大地まであと一歩という所で身動きが出来なくなってしまった。




「グルルルルル」




地面にひれ伏した狗神の前に立つ大地。




「無様だな狗神の。これが大地様本来の実力であるぞ」




ツタで抑えられつつも、その、人程度なら丸呑み出来そうな大口を開き、噛み付こうと抵抗する。




「さぁ大地様。散々嘲笑ったこやつらに、制裁を。生かすも殺すも貴方様次第にございます」




櫻姫はツタの締め付けを強くする。狗神の体の骨が軋みをあげる。




「やめろ・・・。コロ、仁。まいったと言ってくれ・・・。俺は・・・お前らの事・・・友達を・・・傷つけ・・・・・・」




「大地様!」




大地は気絶し、その場に倒れ込んでしまうと同時に【戦闘不能】のが表示があらわれた。




櫻姫も元の少女の姿へ戻る。狗神を押さえ込んでいたツタも、しわしわと枯れてしまった。


自由になった狗神の大口が大地を襲う。




「させません!」




その前に立ちはだかる力を失った小さな櫻姫。


が、その大口はゆっくりと閉められ、仁とコロの憑依が解け、それぞれ人の形に戻る。




「ちょっと仁! 何で憑依を解くのよ! あのまま食えば、私達の勝ちだったでしょ!」




「参った。俺たちの負けだ」




仁に【戦闘不能】の文字が浮き出る。




「ちょっと! 何勝手に・・・!」




「コロ。説明が必要か?」




「・・・わかった! わかったわよ! あー参りました! これでいいんでしょ!?」




コロにも呆れたように両手をあげ【戦闘不能】の文字が表示された。




「櫻姫様。恐れ入りました。数々の無礼失礼致しました」




仁は櫻姫に深々と土下座をする。




「うむ。お主の実力。しかと見せてもらった。お主は、この狗神の契約者にしておくには、ちと惜しい逸材であるな。お主が望むなら、もっと格の高い神を憑ける事も可能だが如何か?」




「ちょっと! 何勝手な事言ってんのよ! 他の神を憑けるですって!? 冗談じゃないわ!」



櫻姫はコロをひと睨みする。



「黙ってろ小娘。で、仁とやら。もっとおしとやかで美しく、そして強い神など幾らでもおるぞ?」



すでに実力、神格の差を見てしまったが故に、コロも小娘の姿の櫻姫が重く感じた。



「・・・お言葉ですが櫻姫様。私はこのがさつで落ち着きの無いこのコロといると、無性に落ち着くのでございます」




「・・・そうか。ならよい。よかったな小娘」




「あああ・・・当たり前じゃないの! 仁は私の・・・そう! 犬なんだから、勝手にどっか行ったりしないわよ!」




コロは顔を真っ赤にして口走る。




「誰が犬だよこら!」




「あんたに決まってるでしょ!」




「あの、櫻姫さま・・・やっぱり交換・・・」




「ふ・ざ・け・ん・なーーーー!」




強烈な蹴りが仁の腹に直撃し2転3転しながら仁は転がって行った。




仁に二度目の【戦闘不能】の文字が重なって表示された。








その様子を特別観覧席で見ていた、桜は、ほっと胸を撫で下ろす。




「大地君は桜の思っておるより強い子じゃよ」




「正直耐えられるとは思わんかった。想像を絶する激痛だったろうに・・・」




「しかし、桜さんのお孫さんに憑いている、あの神様は一体何者なのでしょうか? かなり上位の神格とお見受けしますが・・・」




「あのお方は、桜・梅・菊の花の精霊神からなる【参華神さんかしん】の内の1神、櫻姫様だよ」




「参華神というと・・・桜さんの飛梅とびうめもその内の1神ですよね?」




「ワシの飛梅は精霊で、梅姫うめひめ様の眷族だが、あの櫻姫様は木花咲耶姫このはなさくやひめ様の直系。格が違うわい」




「桜さんより強そうには見えないけどなぁ。あの程度の森を創る事くらい、桜さんなら出来るだろ?」




「エレナ・・・お前の目は節穴か? 大地の魔力だけであの威力。それに加えて、精霊の特性【同化どうか】と神の特性【憑依】さらには、他の植物より魔力を吸収する【搾取さくしゅ】も使えるのだぞ・・・大地自身の魔力もまだ成長途中の段階・・・」




『化け物じゃないですか!?』




「誰が化け物だ!」




再び小春とエレナに再び鉄拳が下る。




『すみません・・・』




「ま・・・正直わしも、あの力を恐れた内の一人なんじゃが」




「若い力を止めておく事は、もうワシらには出来ぬよ。若者は自ら道を切り開いて行くもんじゃ」




桜はひじを突き小さくため息をついた。




「歳は取りたく無いもんだね・・・まったく」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?