目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

決勝戦2

戦闘開始の合図と共に飛び出した守と太。

少し後ろからキャロルと千里が続く。




その目の前に突然身長2メートルを越えているであろう、大男が腕を組んで待ち構えていた。隣には同じく大柄な女性が立つ。




『ついに現れましたわね・・・【シルバーバック】 猩猩しょうじょう 強一きょういち・・・! 気をつけて下さいまし!今までの相手とは比較になりませんわ! 太、型を! 後の2組は何処に・・・!?』




「キャロルちゃん! 横!」




キャロルと千里の側面から青い火球が複数飛来する。




「ッチ!」




銃で火球を撃ち落すキャロル。




「まずは一匹ゲット~!」




気が付くと千里の目の前に憑依した、長身の猫耳少女千里に向かって拳を振り下ろす。

千里は咄嗟にシールドを出し間一髪拳を防いだ。


すかさずキャロルが反転し銃を持ち替え、散弾を放つも躱され。猫耳の女性は後方へ大きく軽やかに飛びながら、反撃の青い火球を放つもキャロルはそれを素早く打ち落とした。




「助かりましたわ千里!」




「ま・・・間に合って良かった・・・!」




「あちゃ~殺ったと思ったんだけどなぁ~、トロいと思ってたのに結構やるね~!」




「何、しとめ損なってんのよヴァレ!」




ヴァレと呼ばれた猫耳の女性が被っている毛皮から声が出ているようだ。




「すみませんご主人~! でもあのシールド硬すぎですよ~・・・」




『キャロル。狗神が私の方に来てる』




(狗神は沙耶狙いですの!? 沙耶の実力を知った上で・・・?)




『沙耶! 相手は恐らく貴方の雷に対して対策のある可能性がありますわ! なるべく接近されないよう牽制して下さいまし! 大地は沙耶に合流して、2人で狗神ペアへの対応をお願い致しますわ!』




『了解!』




移動を開始する大地。




太の型が終わり、立ち合いの姿勢を取る太。




「どうした。早く来い」




「初めて喋ったじゃねぇか」




「弱かったら殺す。さぁ来い!」




「舐めやがって! おい太! 見せてやろうぜ、俺たちの力を!」




「ドスコーイ!」




太が一気に加速し、渾身の一撃を放つ。




「ぬぅん!」




強一もそれを体当たりで迎え撃つ。




ぶつかった衝撃で、辺りに衝撃波が起こり、ビルのガラスが砕け散る。




「篭手田さえ吹っ飛ばした、ぶちかましを止めた!? 近接はまずい!」




守はすかさず援護に入り、強一と太を引き放離す。




『キャロル! こいつ・・・半端じゃ無ぇぞ! 太の一撃を簡単に止めやがった!』




『太でさえ・・・分かりましたわ! 私も前衛に立ちますわ!』




「千里・・・猫の相手は貴方に任せましたわ!」




「ええ!? 無理無理! 絶対無理!」




「千里! 貴方は強い! 私の手など借りなくても千里は、もうすで私を遥かに超えていますわ! ・・・千里は気が付いて居ないようですが・・・手を借りていたのは、むしろこのわたくしの方ですのよ! 自信を持って下さいまし!」




そういい残しキャロルは前衛へと立つ。




残された千里は不安と、プライドの高いあのキャロルに、初めて認められた自信を胸に、両手を前に構える。




「か・・・かかって来なさい・・・!」




後方では、長い癖っ毛の金髪に、黒い耳の生えた、大きな獣姿のコロが、沙耶の弾丸をものともせず、高速で接近していた。




(あの鋼のような硬い毛に、弾丸がすべて受け流されてしまう。恐らく落雷さえも、体毛をアースとして受け流してしまう。仕方ない・・・武器を変える。」




そこへ大地が合流する。




「大地。もうすぐ狗神が来る。私が相手する。大地は援護をお願い」




「俺がやる! 沙耶が援護してくれ! お前は無茶するな!」




「ありがとう大地。でもそれが最善。大丈夫何とかする。」




そこに狗神ペアが到着する。




「下がって、大地。」




「・・・分かったよ! 無茶するなよ!」




電柱にツタを絡ませ移動する大地。




(正直、力を使わずに勝てるとは思わない。でも、刺し違えるくらいなら。大地に手は出させない。)




沙耶は、手に持ったアタッシュケースから真っ黒なナイフを2本取り出す。




(キャロルが、私専用に作ってくれた近接用武器。私の特性を良く観察してある。)




そのナイフからバチバチと電流がほとばしっていた。


獣姿だったコロが人の姿へと戻る。




「へぇ・・・沙耶。あんた狙撃専門だと思っていたけど、ナイフも使えるのね」




「勘違いしてる。わたしの専門は暗殺」




沙耶はナイフを構える。




「気をつけろよコロ。あれはヤバそうだ」




「うっさいわね! 分かってるわよ!」




「双電刃、【疾雷】」




2本のナイフを地面に突き刺す。その瞬間雷が地面を這い、コロを襲う。


コロはそれを跳躍し、かわした。




「毛の無い足裏を狙ってきたわね!」




「隙ありだぜ!」




ツタで移動し、背後へ回った大地が銃撃を放つ。




「ッチ!【堅毛壁こうもうへき】!」




髪が高質化し弾丸を弾く。




「まじかよ!」




「大地。ナイス」




沙耶は手を天高く上げ、そして振り下ろす。




「飛んでたらアースは使えない。【一発雷】!」




轟音と共に落雷が発生し、コロを襲う。




「やばっ!【毛球障もうきゅうしょう】!」




長い髪の毛がまるで毛玉のように丸まる。落雷が直撃し衝撃で毛玉は地面にめり込んでしまった。




「大地。充電する。バッテリーを。」




「駄目だ! 又お前が火傷しちまうだろ!」




「いてて・・・沙耶あんたねぇ! 髪の毛が焦げちゃったじゃないの!」




「大地・・・早く! 大丈夫。私は大丈夫だから」




「駄目っつってんだろ! 副隊長命令だ! お前を俺のせいで、傷つける訳にはいかねぇんだよ!」




「大地・・・」




「今度はこっちの番よっ!」




コロは一気に沙耶に跳躍する。




(ごめんキャロルーーー)




沙耶は咄嗟に、両手に持ったナイフを、突進してくるコロに投げつけた。




「【神砕き】!」




鋭い歯でナイフを噛み砕き、そのまま一瞬で沙耶の懐に入り拳を突き立てた。衝撃で地面を転がり、ビルに衝突し停止する。




「沙耶ーーーー!」




沙耶【戦闘不能】




「そんな・・・」




沙耶に駆け寄り抱き上げる大地。




「ふぅ・・・厄介な奴が片付いたわ・・・。後は楽勝ね」




「俺が・・・力も無いくせに・・・余計な事言うから沙耶が・・・ごめん・・ごめんな沙耶」




一方その頃。ヴァレ、アリシャと戦闘中の千里。




青い火球と、強力な爪を組み合わせた攻撃に、防戦一方を強いられていた。




「いや~大した魔力量だね~。こんだけ、攻撃してるのにまだ尽きないなんて。でも何時までもつかね~?」




「こんなトロイ奴相手に何時まで手こずってんのよ! 駄猫!」




「すみません~」




そう言いながら、爪を振りかざす。それを横飛びし、かろうじてかわす千里。地面は大きな爪の形に抉り取られる。




(ひぃ・・・怖い! こっちの火球は全然当たらないし・・・でも・・・逃げてばっかりじゃ、いつかやられちゃう・・・! どうしたら・・・!)




千里はその時、キャロルとの訓練を思い出す。




「千里。実戦では、わたくしが先にやられてしまう、もしくは戦況によっては離れる事があるかもしれませんわ。その場合の対応を今から教えますわ」




「わ・・・私に出来るかな・・・」




「むしろ、強大な魔力を持つ貴方でないと出来ませんわ。まず、全身に出来る限り強力なシールドを展開します。そのまま中距離で魔術を使いつつ、牽制を行って下さいまし。千里の魔力なら、この同時展開が可能なはずですわ。すると相手は近接攻撃にて、勝負を仕掛けてくる可能性が高いですわ。」




「何で近接で来るってわかるの?」




「中距離、遠距離で貴方のシールドを破壊出来るとなれば、大型魔術。しかし、そうなれば千里との大型魔術勝負になりますわ。単純な魔術の威力勝負で、貴方に勝てる人などそうは居ないはずです。そうなれば威力の高い近接戦にて勝負をつけに来るはずですわ」




「なるほど・・・」




「相手が遠距離の場合は中距離まで近づいて下さいまし。相手が逃げるなら御の字。向かってくる場合は中距離で、適当に戦いつつ、わざと相手の近接攻撃をシールドで受けながら、少しずつ自らヒビを入れて、まるで効いているかのように振舞って下さい。そしてシールドが割れた瞬間、相手がチャンスと思い、止めを刺してくる瞬間。魔力を暴走させ爆裂させてくださいまし。爆裂はほかの魔術より発生が早く、相手は逃げられないはずですわ。」




「・・・でもそれじゃ・・・相手の人・・・大怪我しちゃうんじゃ・・・死んじゃったりしたら・・・」




「心配はありません。教師の方近くで監視していますので、万が一にもそういう事はありませんし、会場にはあの【白衣の悪魔】の咲さんも居ますので安心して下さいまし」




「よかった・・・」




「しかし、千里。その作戦を実行する際は必ず、私の渡した制御装置を外してはなりません。これは相手方への心配では無く、貴方が怪我をなさらないように、ですわ。また黒こげにはなりたくは無いでしょう?」




「うん。ありがとうキャロルちゃん。頑張ってみるね」




(キャロルちゃん・・・私・・・頑張ってみるね)




ヴァレの攻撃で千里のシールドにヒビが入る。




「そろそろ限界みたいね~。あんたの魔力もまぁまぁだったけど、うちのご主人はもっと上なんだよね~」




「ひっ!」




千里は怯えるように、後ずさりをしながら火球を放つ。


それをひらりとかわし、上空からヨーヨーのように高速回転をしながら、鋭いつめを振り下ろす。


千里のシールドはそれを受けきれず、粉々に砕け消失してしまった。




「あっ・・・!」




そのまま千里の目の前に着地し、グッとしゃがみ力を溜める。




「とどめだよ~。奥義【凶爪まがづめ】」




ヴァレの指先から漆黒の鋭い爪が出現し、飛び上がりざまに千里の腹に目掛け突き刺すーーー

が、千里の腹を貫く事は無く皮一枚の所で爪は停止した。




「なっ!? 2重シールド!? 1枚目は囮!?」




「ヴァレ! 罠よ! 下がりなさーーー」




「ごめんね?猫ちゃん」




千里は両手を前に出し、魔力を暴走させる。その腕に腕輪はついていなかった。




(ごめんね、キャロルちゃん。でもこの猫ちゃん達、多分制御したままじゃ倒せないとおもう)




激しい爆音と地響きが起こる。周囲のビルはすべて吹き飛び、ステージ全体を爆風が駆け巡った。






その爆音はステージ全体に響きわたり、その音はキャロルの耳にも届く。



(千里!? 貴方まさかーーーー!)




爆発が収まった後、クレーターの出来た地面に3人の女性が倒れていた。3人とも【戦闘不能】の文字が表示されていた。慌てて救護班と優香が到着する。




「ヴァレさんと、アリシャさんには私がシールドを張りましたので、軽症なはずです! それより千里さんを早急に救護室に運んで下さい!」




「咲。」




「分かってるよジジィ! ったく何度も世話を焼かせやがって! あの女っ!」




咲はビルの屋上から飛び降り、現場へ向かった。




「化け物かよあの魔力量・・・!アリーチェ姉様と同じ位あるぜ」




「私以上よ。エレナ。それにあの子ままだ若いのよ。もっと増える可能性は十分考えられます。コントロールさえ覚えれば、かなりの戦力になる事でしょう」




「ただの魔力供給係かと思ってたが、やるなぁ!」




「エレナやられちゃうんじゃないの~?」




「馬鹿言うなよ! まだまだ若いもんには負けん!」




ふんっ!と鼻を鳴らすエレナ。




「ワシは早く若い者に負かして欲しいんじゃがなぁ~?」




後ろで肘を突きながら、独り言のように呟く桜。




「・・・精進いたします」



三人娘は小さく縮こまり下を向いた。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?