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試験前日

「やったーーー! 勝ったぞーーー!」




カプセルから出て皆でハイタッチを交す。




「ぎりぎりで勝った位で喜ばないで下さいまし! 足手まといの大地が、戦力になったんですから当たり前の結果ですわ!」




「大地君本当にすごいよ・・・! 植物の蔓を使って移動するなんて・・・」




「色々試したんだが、接近されたら土の入ったリュックを背負って、そこから出た蔓を操って移動しながら、ハンドガンで応戦って形が一番安定したからな。これで俺も戦えるぜ!」




「流石でございます。大地様」



隣に立つ櫻姫が深くお辞儀をする。




「櫻姫のお陰だよ!」




「では、褒美に今夜一緒の布団で寝て下さい」




「断る!」




「まったく・・・大地様はお堅いのですから・・・」




「しかし、やっぱりチームの要は太お前だよ!」




守は太の立派なお尻を叩く。




「ド・・・ドスコイ」




「照れんなって! 頼りにしてるからな!」




「でも太君あんまり無理しないでね?」



千里が太にのぞき込むように声をかけた。




「ドスコイ」




顔が赤くなる太。




「太お前もしかして・・・千里に惚れてんのか? いや・・分かるぞ確かにいい胸だが・・・・」




「ドドドドスコイ!」




太は照れたのか、軽く大地に張り手を入れる。




大地は吹っ飛び壁に激突した。




「痛ってーな太! この馬鹿力!」




「大地君がからかうからだよ~・・・」




「ごめんね太君」




「・・・沙耶、貴方からは何かありまして?」




「問題ない」




「黒田先生はいかがでしょうか? 私達の動きに問題はありまして?」




「正直、ここまで上達するとは思いませんでした・・・。良く頑張りましたね。明日いよいよ試験ですので、今日は早めに上がって英気を養うとよいでしょう」




キャロルが小さくコホンと咳払いをし




「そ・・・それでは皆さん・・・帰りにラーメンはいかがです?」




一同は予想外の言葉に固まる。




「キャロル・・・お前熱でもあんのか? 明日試験だぞ大丈夫か?」




守はキャロルのおでこに右手を当てる。

キャロルはその手を払いのけ、赤面した。




「い・・・嫌ならいいんですのよ!? なら・・・守! 行きますわよ!」




「俺だけ!?」




「ちょっと待った! 2人で食事なんてこの黒田 優香の目が黒いうちは許しませんよ!」


「わ・・・私も行く!」




「俺も、もちろんいいだろ~? 沙耶も行くだろ?」




「油マシマシ粉落とし」




「楓も行く~!」




「ならワシも」




突如現れた誠に皆が驚く。




「普段あんまりいらっしゃらないのに、ラーメンの時だけ何処からとも無く現れますわね」




「まぁ、そう言うでない。ふむ・・・お主は?」




「大地様憑き神の櫻姫にございます」




「ほう! ついに桜の術を解術しおったのか。やるのう、キャロル君」




「まだ2割ほどですが・・・」




「ワシは、この学校の校長で神代 誠と申します。大地君をどうぞよろしくお頼み申し上げまする」




深く頭を下げる誠。



その姿に一同は驚きを隠せない。




「言われずとも。ふむ・・・お主が大地の師匠であれば間違いなかろう。しかしお主・・・厄介なものを抱え込んでおるな・・・。」




誠は再び頭を下げ言葉を遮る。




「お察しを」




「・・・良かろう」




「さて皆、いつのもラーメン屋に行くとするかのう」




ー豚骨ラーメン誇乃豚野郎ー




「これで10杯目だぜ・・・」




「見てるこっちが食欲無くなってくるぞ・・・」




「ドスコイ」




「太君美味しいって!」




「替え玉しすぎでもう汁ねぇぞ」




「お相撲さんってやっぱりすっごい食べるんだね! 私なんてラーメンハーフでお腹一杯だよ~」




楓は小さいお腹をさすりながら言う。


沙耶は食べ放題の高菜を、ずっとウサギのように食べ続けている。




「さて・・・そろそろ出るかの」




「守」




キャロルが一言そう放つ。




「分かってるよ・・・。誠さん、キャロルの分は僕が払いますので」




「・・・なるほど。ほっほっほ。・・・分かったぞい」




「守!? 何で姉ちゃんじゃなくて、キャロルさんの分を払ってあげるの!?」




「そういう約束したんだよ! いいじゃねぇか別に!」




「わ・・・私も守君に今度奢って欲しい!」




「だ・・・駄目ですわ! これは守への罰なんですから!」




「わかったよ・・・今度は千里に・・・」




『駄目』




千里と優香の声が重なる。




「守はモテモテだね~羨ましいぜ!」




沙耶が大地の服を少し引っ張る。




「大地。今度奢って」




「沙耶~! お前だけだよ~!」




「この前千里にも、それ言ってた」




「そうだっけ? 覚えてないなぁ・・・あはは」




一同はラーメン屋の暖簾をくぐる。




「では皆明日の試験がんばるのじゃぞ」




「はい!」




それぞれの帰路につく一同。


まず方向が違う沙耶と大地と太が別れ、次に優香が千里を送るために別れた。残ったキャロルと守。




「守」




「はいはい・・・家まで送れって言うんだろ」




「少しは分かってきましたわね」




2人はやはり無言で歩き続け、そのままキャロル邸に到着する。




「明日は頑張ろうなキャロル」




「言われなくても」




「じゃ、又明日な」




「守・・・ちょっとコーヒーに付き合いなさい」




「ラーメンの後にコーヒーって・・・。いいぞ。どこの店に行こうか」




「わたくしの部屋ですわ」




「部屋!? いや・・・駄目だろ! 親御さんに見られたら誤解されちまう! 店に行こうぜ!」




「両親はこのお屋敷には住んでおりませんわ」




「いや・・でもよう・・・」




「あーもう鬱陶しいですわね!」




キャロルは守の腕を掴み勢い良く屋敷の方へ投げ飛ばす。




「受身とって下さいまし!」




屋敷の前に転がる守。




「いてて・・・明日試験ってのに無茶しやがるな・・・」




「その程度で怪我するようならそれまでですわ。さ、行きますわよ」




キャロルの部屋中まで連れて行かれる守。途中に出会うメイド達は、2人の姿を見て持っていたお皿を落とし。強面の男達は2度見3度見していた。




(生きて帰れるかな・・・)




キャロルの部屋でコーヒーを待つ守。少ししてキャロルがコーヒーを運んで来た。


守の前にコーヒーカップと、ミルクが置かれる。




「どうぞ」




「い・・・頂きます」




「部屋の物に触ってませんわよね・・・」




「触るわけねぇだろ! そう思うなら連れて来んなよ」




「守にそんな度胸が無いのは、知ってますわ」




「うるせぇよ」




2人はコーヒーを味わう。店のコーヒーとは比べ物にならない程の芳醇な香りに濃厚なミルク。砂糖の差は良く分からなかったけど多分高いやつなんだろう。




「で、何か話しがあんのか?」




「ありませんわ。ただ1人より2人の方が飲んでるって気になるだけですわ」




「何だよそれ」




キャロルはコーヒーカップを置く。




「・・・こうして貴方とコーヒーのわたくしの部屋で飲むなんて想像だにしませんでしたわ」




「何だよ突然」




「わたくし、中学の時は、友達と言える人は居ませんでした。唯一話せる相手は、私の付き人の剣だけでしたわ」




「お前、友達居なさそうなタイプだもんな」



以外にもその言葉にキャロルは噛みついてこなかった。




「高等部になってもその先も、友達なんて必要ないと思っておりました。放課後あなた方の面倒を見るのも、正直嫌でしたわ。・・・今ではそうは思いませんが・・・。しかし、同時に思うのです。私は向上心を失って妥協してしまったのではないか。楽な方へ逃げているのではないかと。それが・・・怖いのですわ。多分わたくしは今回の試験個人能力測定では、ぎりぎりA判定程度だと思います。自分でも分かりますの。全く成長していない事が」




「お前が成長しないなら、俺らが代わりに成長してるだろ。気にするなよ」




「でも・・・このままでは2年生ではBクラス・・・3年生では留年の可能性も・・・」




守はカップを音を立てて置く。その衝撃でカップの取っ手が折れてしまった。




「どうしちまったんだよお前! 落第すんなら一緒に留年してやるよ! 大地も千里も沙耶も太も、そしてお前が揃ってのEチーム+αだろうが! 俺らの隊長はお前以外居ないんだよ!」




キャロルはその言葉に目を丸くし・・・そして、突然立ち上がり、後ろにあったベッドに飛び乗っり、ベッドを囲ってるカーテンを閉める。


カーテン越しに小さく嗚咽のような音が聞こえてくる。




「キャ・・・キャロル・・・? 俺はてっきりいつも通り言い返して来るかと・・・。お前も悩みとかあるよな。当然だよな。すまねぇ・・・言い過ぎた」




守はキャロルの方へ歩きだす。




「こ・・・来ないで下さいまし・・・変態」




「お前はすげぇ奴だよ。俺が保証する。だからいつものように威張ってろって」




キャロルは袖で目の辺りをゴシゴシと拭き、カーテンを開ける。その目は赤く充血していた。




「泣いてませんからね」




「何もいってねぇよ」




再びコーヒーのテーブルに座る2人。




「コーヒーカップ壊しましたわね」




「すまん」




「50万払ってくださいまし」




「・・・ごめんなさい」




「丁度、取っ手の無いカップが欲しかった所なので構いませんわ。さ、これ以上は黒田先生が心配致しますので、帰りましょうか」




「おっ・・・もうこんな時間か・・・」




屋敷の外まで出る2人。




「・・・今日見たこと、他言は許しませんわ」




「泣いてた事か?」




「泣いてませんわ」




「そういう事にしといてやるよ。じゃあな」




「背負って堀の外までお運びいたしましょうか?」




「いや、大丈夫だ。これ位ならもう越えられるから」




「そう・・・ですか」




「なんだか残念そうだな」




「別に。では又明日」




「おう」




守は大きくジャンプし一気に堀を越える。




キャロルはそれを見送ったあと再び部屋へ戻り、自分のコーヒーカップと取っ手の取れた守のコーヒーカップ、両方に冷めたコーヒーを注いだ。そしてもう、そこには居ない守に話しかける。




「貴方は本当に不思議な方ですわね」




しばらくして家までたどり着く守。良く見ると玄関に優香が腕を組んで仁王立ちしていた。




「何やってんだ優香姉」




「遅い! 遅いですよ守! 何で送るだけで2時間もかかるのよ!?」




「ああ・・・キャロルの家でコーヒー飲んでただけだよ」




「きゃ・・・キャロルさんの家に!? へ・・・変な事してないでしょうね!?」




「してねぇよ!」




「ご両親は!?}




「両親は今家には住んでないって言ってたぞ」




「変態! 守の変態! 私に黙って大人になるなんて!」




「何かあっても言わねぇよ!? とにかく何もしてねぇよ!」




優香を押しのけて家に入る守。




「守が・・・私の守が・・・他の女に・・・」




優香は暫く放心状態で玄関の前に立ちつく居していた。

































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