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7月上

カプセルのような機材の中に、総合武術部の面々が入っている。


そのカプセルから伸びた多数のコードが、仮想式戦略盤に繋がれていた。




「だめだ! また全滅しちまったぞ! おいキャロル相手強すぎないか!?」




カプセルの中から出てきた守が声を上げる。




「これでも階級を落としに落として、軍曹5曹長1で構成してますのよ!? 個々の戦闘力の問題以上に、チームワークがなってませんわ! 前衛のお2人は後方の攻撃を最大に生かすため、それぞれ少し斜め後ろ方向に後退しつつ、交戦して下さいまし!」




「守・・・邪魔」




「邪魔とか言うなよ沙耶! 分かってるけど難しいんだよ!」」




「俺なんて、モロに守の頭撃っちまったぜ」




「逆に、相手の狙撃手の位置が分かりましたら、その直線上に相手の前衛が来るように、意識するのですわ!」




「よし、あと一回はダイブできるだろ? もう一回やろうぜ!」




「次失敗したら帰りに守あんたラーメン奢りですわよ!」




「ああ、奢ってやるよ豚骨ラーメン!」




「醤油以外認めませんわ! とにかく行きますわよ!」




一同は再びカプセルの中に入った。




仮想式戦略盤での訓練を終え、校庭にて訓練場所を変える。




「守。貴方、最近、近接格闘術が上達していますわね。・・・わたくしと組み手を致しませんか?」




「そうか? そう思ってるならラーメンは無しにしてくれ」




「そうですわね・・・もし貴方が勝ったなら、考えて差し上げてもよろしいですわよ」




「よっしゃ! んじゃ遠慮なく」




構える両者。




少しの静寂の後、先に仕掛けたのは守の方だった。


右左の拳撃に加え、脚撃を加えた攻撃がキャロルに次々に放たれる。




キャロルはそれを起用に交しつつ、甘く入った守の右ストレートを右手で払い、その隙に一気に懐へと体をねじ込み、左のアッパーを守のアゴを目掛け放ったーーーが、かわされ逆に隙だらけになったわき腹へ肩で押し込むように体当りを当てられてしまう。


キャロルはその衝撃で後方へと吹き飛び2、3回転がりながら、体制を建て直し立ち上がる。




「古武術!? 守・・・貴方、何処で覚えましたの!?」




「何言ってんだキャロル。俺そんなもん使えねぇぞ? 最近。夜に優香姉と組み手してるだけで・・・」




「それだけでは無く、空手や柔術の基礎の動きも、形になりつつありますわ・・・黒田先生・・・あの方は一体・・・」




「そんな事より今の一本だろ!? 俺の勝ちって事でいいんだよな?」




「偶然まぐれが当たった位で、調子に乗らないで頂けますか? 続きを」




キャロルは砂埃を払い再び構えを取った。

その後、守は一本も取る事が出来ず、大敗した。




「あー今日も歯が立たなかったな~。やっぱお前強ぇなキャロル」




「あ・・・当たり前ですわ! あなた如きがわたくしに、勝てるわけありませんわ!」




(とは言ったものも・・・日に日にやり辛くなってますわ。本人は気が付いていないようですが、もう1年生の中堅程度なら相手にならないですわ。出力を上げればもっと上。そうなればわたくしの腕ではもう、相手が出来ないかもしれませんわね・・・)




キャロルの胸がチクリと痛む。




「どうしたんだキャロル・・・頭でも打ったのか?」




「うるさいですわ・・・」




キャロルは顧問の優香の所へ歩き出す。




「黒田先生お話があります」




「あら、どうしたのキャロルさん」




「わたくしにも、守と同じ訓練を受けさせて下さいませんか? 必要とあらばこちらから、黒田先生の家に伺います。金銭が発生するのであれば支払いますので」




キャロルの真剣な瞳に事情を察する優香。




「貴方の気持ちは良く分かりました。でも、ごめんなさいキャロルさん。私に貴方を武術を教える事は出来ません。貴方に事情があるように、私にも事情があるのです」



その言葉を聞いてキャロルの表情が曇る。




「・・・では黒田先生、貴方は何故人に教えを説く教師をなさっているのですか・・・! 教える気が無いのなら・・・顧問として必要ありませんわ! 誠校長先生にお願いして、他の先生に変えて頂きますわ!」




騒ぎを聞きつけて守達が集まる。




「お好きに」




「そうさせて頂きます! では失礼しますわ!」




キャロルは部室に戻り鞄を取って早足で校門へと歩き出す。




「何怒ってんだあいつ・・・」




銃を肩に乗せ大地が言う。




「守君・・・キャロルちゃんが・・・」




「分かってる聞こえてた。すまん皆、俺も先に帰るわ」




守も部室から鞄を取り出し、キャロルを追う。


しばらく走ってキャロルに追いつく守。




「どこ行くんだよキャロル! まだ武活終わって無いぞ。主将はお前だろ!」




「・・・うるさいですわ! 付いて来ないで下さいまし!」




「ラーメン!」




「は?」




「ラーメン食いに行くぞ。約束だろ」




「馬鹿ですの? そんなのどうでもいい事ですわ」




「いいから行くぞ!」




「ちょ・・・ちょっと手を引っ張らないで下さいまし! セクハラですわよ馬鹿守!」


半分無理やり引っ張られて、豚骨ラーメン誇乃豚野郎のカウンターに座る2人。


キャロルはムスッとした表情で言う。




「食べてたら帰りますわよ」




「好きにしろ。だけど食い終わるまでは付き合えよな」




しばし無言の2人、そこへお年寄りの、女性店員がラーメン2杯を運んでくる。




「・・・あれ? 煮卵のトッピングなんかしてないぞ」




「本当ですわ」




「サービスだよ。この前、誠が連れて来てた子達だろ? えっと・・・あんたらはカップルかい?」




『違います』




「はっはっは! こりゃ失礼」




「神代さんとはお知り合いで?」




「昔馴染みの客ってだけさ。さ、早く食べないと冷めちまうよ?」




「あっはい。では頂きます」




ラーメンを食べ始める2人。

その合間に守はキャロルに聞く。




「なぁ、キャロル。お前なんでそんなに強くなりたいんだよ」




「貴方には関係の無い事ですわ」




「そうか・・・もしお前が強くなるのに俺らが足手まといなら、切ってくれてもいいからな」



その言葉にキャロルは目を丸くする。




「そんなこと!・・・無い・・・ですわ」



キャロルはラーメンに目を落とす。



「そうか、なら良かった。・・・正直に言うがな、最初お前と出会ってからしばらく、お前の事が大嫌いだった。でも付き合ってみると、本当は面倒見のいい奴で、リーダーシップもあってすごい奴だなって、思うようになって・・・今じゃ・・・その・・・」




「何ですの? はっきりおっしゃって下さいまし」




「・・・尊敬してるよ」




キャロルの箸が止まる。




「それはわたくしの実力が上だったからであって、わたくしが弱ければ尊敬には値しないはずですわ」




「俺らの隊長はキャロル以外居ねぇよ。お前が強かろうが弱かろうが、関係無ぇよ」




「私は貴方達のような、弱い隊員は遠慮願いたいですわ」




「おっ、減らず口が叩けるまでには良くなったみたいだな! 明日からも頼むぜ主将さんよ。でも優香姉には謝っておけよ」




「わ・・・わかってますわよ! 感情に流された事は反省していますわ」




2人ともラーメンを食べ終わり、ご馳走様をし、外へ出る。




「じゃあなキャロル。又明日からもビシバシ頼むぜ! 絶対優勝しような!」




「当たり前ですわ。・・・ちょっと待って下さいまし。貴方、まさかこのままレディーを1人で歩いて帰らせますの?」




「お前襲われても返り討ちだろ。襲った方が可愛そうだ」




「そういう事を言ってるんじゃありませんわよ。こういう時は家まで送って行くのが、マナーですわよ」




「仕方ねぇな・・」




夜の町を歩く2人。特に話したりもせず、ただ黙々とキャロルの家に向かって歩き続ける。




「最近暑くなってきたな」




「夏が暑いのは当たり前ですわ」




「お前・・・もうちょっと言い方無ねぇのかよ」




「うるさいですわ。嫌なら話しかけないで下さいまし」




又、会話が無くなり。そのままキャロルの家の前に到着をする。






「・・・ちょっと、ここでお待ちになってくださいまし」




キャロルは大きく跳躍し、掘を越え城の中へと消えていった。しばらくしてキャロルが戻ってくる。


その手には白い袋を持っていた。




「これ、貴方のスーツですわ。明日からはこれを着て練習して下さいまし。そうすれば姿が多少代わった所で、気がつかれる事はございません」




「本当に作ってくれたのか・・・。お前も武活で疲れてただろうし、自分の修行の時間を削ってまで・・・ありがとな」




受け取る守。




「貴方の分だけでは無いのですし、すべては勝つため、自分のためにやっている事ですわ」




「そういう事にしとくよ」




「では」




「おう」




守は来た道を歩き出す。


その背中にキャロルは置いて行かれるような気がして、




「守!」




呼ばれて振り返る守。




「何だよ」




「・・・ラーメン・・・ご馳走様でしたわ。そ・・・その・・・。あ・・・ありがとう。」




キャロルは素直な感謝に慣れていないのか、顔が真っ赤に染まっていた。守はその言葉に驚くも、表情には出さず続ける。




「又、今度食いに行こうぜ。今度は皆で」




「ええ。でも、今度からわたくしの分は、貴方が払って下さいまし」




「今度から? 毎回か!?」




「ええ、毎回ずっと・・・ですわ。その代わり・・・わたくしがその分、別の時にご馳走致しますわ」




「それなんか意味あんのか?」




「ありませんわ」




「良く分からんが・・・お前がいいなら、それでいいぞ」




「では、又明日」




「じゃあな」




2人は再び別れを告げる。




家に帰りつく守。玄関のドアを開けるとそこには、涙目の優香が待っていた。


優香は守を見るなり抱き着く。




「守ー・・・。わたしキャロルさんに、嫌われちゃったのかなぁ・・・」




「大丈夫だって。明日になったら落ち着いてるって。それより飯食ったなら修行しようぜ」




「わかってますよ~・・・あっそうだ今日のお願いは、明日キャロルさんと仲直りさせてくれるって事で」




「それは自分で何とかしろよ!」




「そんなぁ~・・・」




次の日キャロルは朝礼前に優香の元を訪れる。




「・・・昨日は失礼いたしました。お詫び致しますわ」




頭を下げるキャロル。




「いえ、こちらこぞ少しムキになってしまいました。許して頂けますか?」




「許すも何も全面的にわたくしに非がありますので」




「・・・はぁ~・・・良かった。キャロルさんに嫌われてしまったのかと、先生心配じたんでう・・・」




優香は言いながら半泣きになる。


突然泣き出した優香に戸惑うキャロル。




「ちょっと! 守!どうにかしてくださいまし!」




柱の裏に隠れていた守が姿を現す。




「おい! 優香姉! まったく・・・生徒の前で泣くなっての!」




「だってぇ~・・・」




「ほら、キャロル。お前先に教室に戻ってろ」




キャロルは一礼して教室へと戻る。

涙目の優香がジトっとした目に代わり、守を少し不安に聞く。




「ねぇ守・・・貴方・・・キャロルさんと付き合ってるの? お姉ちゃんは許しませんよ!」




「ちげーよ! 殴るぞ!」




「だってキャロルさん可愛いし・・・」




「確かに・・・可愛いとは思う・・・」




「ほら」




「だからちげーって!」




キーンコーンカーンコーン♪




授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。




『遅刻!?』




「先生より後に教室に入ったら遅刻ですからね!」




優香はそう言って走り出す。




「あ、汚ねぇぞ優香姉! 教師が廊下走っていいのかよ!」




結局2人とも遅刻した。

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