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訓練

それから毎日厳しい訓練が繰り返された。




仰向けになって息を切らす守。見上げる先にはキャロルが立っていた。


「力の使い方は中々上手くなってきましたが、維持したままの戦闘がいまいちですわね。貴方まだ事を恐れて力を抑えすぎですわ。本来でしたら貴方のコアはクラス4かそれ以上。その気になればわたくしなど一撃で倒せてしまうはずですわよ」




上から見下ろすキャロルも肩で息をしている。




「そうなんだけど・・・所でキャロル・・・言いにくいんだが・・・見えてるぞ」




「ーーー!」




キャロルの足が守の顔めがけて降ろされる。


守はとっさにかわし、立ち上がる。




「その反応を組み手の時に出しなさい! まったく腹が立ちますわね!」




キャロルは怒りが収まらないまま大地の方へ歩き出す。


うつ伏せで射撃の訓練をしている大地はキャロルの怒りを感じ取っていた。




(げっ・・・キャロルの奴不機嫌だぞ・・・どうせ守がパンツ見えたとか言って怒らせたに違いない!)




「だーいーちー・・・! 外しすぎですわ! 一発一発を実践と思って打ちなさいと言ってますでしょう!」




「はっ・・・はひぃ!」




その光景を近くで見ていた沙耶が本を閉じ大地の方へ歩いてくる。




「それでは駄目。貸して。」




沙耶が話しかけてきた事に2人は少し驚く。


沙耶は大地から受け取った銃を構え・・・撃つ。放たれた弾丸は目標の的に吸い込まれるように着弾する。




「分かった?」




「いや・・・全然」




「なるほど・・・構え方が少し違いますわね」




「あと銃が悪い」




「なんですって!? わたくしの作った銃に問題がありまして!?」




「大地にこれは重い。規格品の改造ではなく1から作ったほうがいい。軽くて丈夫な龍麟鉱を使うべき。特に銃身やハンマーユニットなど負荷のかかる部品はクラス2の龍麟鉱を使うといい」



その指摘は的確で感情的になっていたキャロルを冷静にさせた。




「確かに急ごしらえでとりあえず作った物ですので、それは言えますわね」




「私が昔使っていた物がある。」




沙耶は大きめのアタッシュケースから銃を取り出し組み立て始める。


あっという間に銃が完成しそれを大地に渡す。




「撃って」




「うわっ・・・軽いなこれ」




「当然」




大地は再びうつ伏せになり構え・・・放つ。


的を外すも真横に着弾する。




「すっげぇ・・・反動もあまり無いし、弾速も威力も段違いだ」




「当然。弾速が早いから風の影響も少ないし簡単」




「今の音・・・これはもしかしてレールガンですの!? こんな小型で反動の少ない物お父様の会社でも扱っていませんわ・・・!」




「製作コストもかかる上、ドラゴンに致命傷は与えられない。対人戦で高価な銃など必要ない。だから技術的には作れても作られないだけ。それ・・・大地にあげる」




「いいのかこんなもの貰っちまって!?」




「うん。銃頑張って。予備のバッテリーはそいつに作って貰って」




「そ・・・そいつですって!?」




再び本を読み始める沙耶。




「・・・ちょっと大地、それ撃たせて下さいませんか?」




「いいのか? 沙耶」



沙耶に許可を求めるが本に目を落としたまま答える。




「もう貴方の物」




「大地、少し下がってくださいまし」




キャロルはうつ伏せになり10発ほど発射する。前半は当たったり外れたりだったが後半の5発は全て命中さた。




「これはいい物ですわね・・・参考にさせて頂きますわ」




よほど気に入ったのか続けて連発し続ける。




「キャ・・・キャロル」




「あら、すみません夢中になってしまい・・・今お返しますわ」




「パンツが見えてる」




「!?・・・あなた方ときたら・・・お死に下さいませ!」




キャロルは大地に向かって銃を連射する。




「その使い方はだめ」




沙耶に諭されキャロルはしぶしぶ撃つのを辞めた。




千里の所に沸き立つ怒りを隠しきれない、といった表情のキャロルがドスドスと歩いて来る。




(ああ・・・あの表情はどうせ、守君と大地君がパンツ見えてるとか言って怒らせたんだわ! こ・・・怖い!)




「ちーさーとー・・・駄目駄目! 全然っ駄目ですわーーー!」


「ひいぃ・・・キャロルちゃん・・・ちゃんと説明してくれないと分からないよ~・・・!」




「楓の動かす鉄球に火球が全然当たって無いですわ!」




「だって腕輪の出力上げたし制御が手一杯で難しいんだもん!」




「楓! もっと鉄球のスピードを上げて下さいまし!」




「キャロルさん・・・でもこれ以上上げると」




「いいからもっと早くして下さいまし! 私がお手本を・・・」




「はひぃ!」




その声と同時に鉄球が制御を失いキャロル飛来する。




「ちょっーーーー」




ゴスッ! とすごい音を立ててキャロルが吹き飛ばされ、あられも無い姿で静止する。




「キャッ・・・キャロルちゃんパンツーーー!」






訓練後帰宅前にミーティングルームに集まる。


そこには頭を抱えているキャロルがあった。




「治癒術を施したので治ってるはずだけど・・・まだどこか痛いの?」




「違いますわ。訓練の進捗状況が思わしくありませんの」




ミーティングルームに重い空気が流れる。




「ですが、少しは形になってまいりました。近々仮想式戦略盤にて、模擬実践訓練を行いますわ!」




一同は首を傾げている。




「先生・・・この馬鹿共に説明をお願い致しますわ」




「キャロルさん・・・今度守の事馬鹿って言ったら・・・分かりますよね?」




その殺気立った瞳にキャロルもたじろぐ。




「優香姉やめろよ・・・恥ずかしいだろ」




「黒田先生です」




「と・・・とにかく説明をお願い致しますわ」




優香はコホンと小さく咳払いをして説明を始める。




「仮想式戦略盤とは特殊な器具で仮想空間に意識を飛ばし、その仮想空間であらかじめ設定された敵との戦闘を行える機材です。模擬的に実践経験を積むことが出来さらにチームワークの確認や、戦略を立てる事に使用します」




「先生。現在公開されていて使用可能な軍曹階級以上の人物の仮想データはどれくらいございますか?」




「ちょと待って下さいね」




優香は携帯電話を取り出して検索し始める。




「大尉以上のデータは軍管轄なので、本部の筐体で無ければアクセスは出来ませんが・・・あー結構ありますね。ま・・・ダウンロードされれば本人にお金が支払われますから提供する人は多いでしょうね。どんなデータが欲しいのですか?」




「近接戦闘・火力魔術・高速戦闘が得意な者・・・あとは出来れば神付きと精霊付きこの2つは多分殆ど出回って無い上に高価と思いますので、最初の3つを重点的に集めたいですわね」




「そうね、あと一週間ありますので良く話し合って検討致しましょう」




「分かりましたわ。お願い致します。さ、皆さん来週は相手がいる事を意識して訓練に励んでくださいまし。では解散ですわ!」




「それじゃあ守一緒に帰ろうか」


「優香姉仕事は?」


「今日は待機当番では無いので帰れますよ。ラーメン食べて帰りましょう」


「おっ!いいねぇ」




「優香先生! 俺も付いていっていいっすか!?」


「駄目!」


「いいじゃんか優香姉・・・ほら顧問祝いってやつだよ。皆も一緒行かないか?」


「ラーメン・・・食べた事ありませんわね」


「んじゃ食ってみろよ何事も経験だぞ」


「私も・・・いいですか・・・先生・・・?」


「もうこうなったら皆さんいらっしゃい!」


「沙耶はどうするんだ?」




本から目を放さずにひと言。




「豚骨」




「よしじゃあ・・・決まりだな! 楓の迎えが来たら皆で行くか!」




楓も一緒に行きたかったのか少し寂しそうな顔をしている。




と、そこへガンガンガンと激しく扉を叩く音が鳴り響く。




「何だこれ開かねぇぞチクショウ! おいガキども楓を出せ!」




「取立て屋みたいだな咲さん」




扉を開けるキャロル。そこには苛立ちを隠せない咲が立っていた。


キャロルはインターホンを指差し




「次回からそちらを押してくださいまし」




「うるせぇ命令すんな。楓! 帰るぞ!」




楓の腕を引っ張り連れて行こうとする。


楓はその場を動こうとしない。




「おい何やってんだ! 帰るぞ」




「わ・・・私もラーメン食べに行きたい!」




「ラーメン!? なんだとてめぇ!」




「咲、落ち着いて下さい。説明するわ」




優香は咲に経緯を説明する。




「・・・俺は行かねーぞ。どうしても行くなら優香ちゃん、お前が面倒みろよ」




「ほっほっほ。なんじゃ咲は行かぬのか? ワシはラーメン食べに行こうかの」




「ジジイ!?」




突然現れた誠に一同は驚く。




「何でジジィがここに居るんだ!? つーか・・・行くのか?」




「だってワシ顧問じゃし。咲は先に帰っておいてもよいぞ?」




「行くよ! 行く! ジジイが行くなら、墓場まで行くに決まってんだろうが!」




「では決まりだのう。店は何処にするかの? 優香君。場所は?」




「誇乃豚野郎というラーメン屋に行こうかと思ってます」




「ほっほっほ。ワシもあそこは好きじゃて、さ、行こうかのう」




そう言うと誠は歩き出した。




「おいお前ら! ジジィの隣に座るんじゃねーぞ! 特に女共! 特に優香ちゃん!」




「はいはい。じゃ・・・戸締りして行きますか」




ラーメン屋 誇乃豚野郎




「臭い・・・臭すぎますわ! 何ですのこの臭いは!」


「おい静かにしろキャロル!」


「ほっほっほ。さ・・・皆好きなものを頼むがよい。ここはワシの奢りじゃ」


「アザーッス!」


「わ・・・私は自分で払いますわ!」




守はキャロルに耳打ちする




「キャロル、奢るって言ってる時は払って貰うもんなんだよ。ありがとうって言えば良いんだよ」



「あ・・・ありがとうございますわ」




「うむ。さ・・・注文をするがよい」




それぞれメニューから好きなものを選び注文する。




しばらくして続々料理が運ばれてくる。




注文した豚骨ラーメンのスープをすするキャロル。


「こ・・・これは・・・やっぱり臭いですわ!」


「お前が豚骨注文したんだろうが」




守は醤油ラーメンをすする。




「どうしても無理なら俺の醤油ラーメンと交換するか?」




「嫌! 絶対嫌ですわ! 守。口付けましたでしょう!?」


「俺は気にしないけど・・・じゃ、頑張れ」




(ですが・・・背に腹は帰られませんわ・・・)




キャロルは守のラーメンと自分の豚骨を取り替え、醤油ラーメンと食べ始める




「これですわよこれ! 流石、醤油!日本の味ですわ!」




「おいキャロル・・・箸まで俺の持っていくなよ! まぁいいけど」




「フグッ!」




キャロルはラーメンを詰まらせ咳き込む。


守はキャロルの箸でラーメンを口に運ぶ。




「わたくしの箸を使わないでくださいまし!」




「んじゃ俺の箸返せよ!」




「これはもうわたくしの箸ですわ!」




「仕方ないわね・・・守。はいっ! あーんして」




優香が守に食べさせようとする。


守は無視しテーブルの端にある箸箱から、新しい箸を取り出す。




「何で!?」


「ラーメンであーん。ってやりにくいし、それでなくとも恥ずかしいだろ!」


「そんなぁ・・・」






「おい、ジジィ・・・口開けろ。あーん」




咲がフォークで誠にあーんをする。・・が




「ほっほっほ、楓、味はどうじゃ?」


「おいジジィ無視すんな! こうなったら・・・口にねじ込んでやる!」




ゴスッと優香が咲の頭にチョップをかます。




「何すんだ優香ちゃん! お前もあーんしてただろ!」


「相手をわきまえなさい」


「っち」




「誠さん! 豚骨ラーメンすっごく美味しいです!」




「そうかそうか」




誠は楓の頭を撫でた。


「ジジィ! 俺の頭も撫でろ!」


優香は咲の頭をナデナデする。


「よしよし、痛かったね~?」


「お前じゃねぇ~~!」




騒ぎをよそに沙耶はラーメンを食べ終わったようで。


スープに浮いた油を箸でつなぎ合わせている。




「俺、替え玉頼んじゃおっかな~」


「お。大地替え玉か! んじゃ俺も」




「すみませーん! 替え玉2つ・・・」




「3つ」




「沙耶、お前・・・結構食うのな・・・」











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