学校へ登校した守だったが、校門で1人の女性に呼び止められる。
「あっ・・・見つけた。そこの君」
そう声をかけて来た彼女は綺麗な髪をなびかせこちらへ歩いてくる。
「げっ・・・氷雪会長!?」
何か怒られる事をしたのかと思い咄嗟に本音がこぼれてしまう。
「げっ、とは失礼だな。まぁいい・・・これ返すよ。ありがとう」
旋風は丁寧にラッピングした守の制服を渡すと、すぐ立ち去って行った。
(寒っ・・・氷雪会長の・・・じゃない!?)
その寒気は周りからの冷たい視線によるものだと自覚する。
「何あいつ・・・旋風様とどんな関係なの」
「だれだよあいつ・・・階級章も無いし一年かよ」
「服を貸す関係って・・・まさか!?」
(氷雪会長はファンクラブも存在する人気者だったな・・・)
守はそそくさと学校へ逃げるように入っていった。
教室でいつもの4人が集まる。
キャロルは守の席の横で、本を読みながらモーニングコーヒーを優雅に飲んでいた。
「おいキャロル。そんなティーセット学校に持ち込んでもいいのかよ」
「うるさいですわね。この学校に自動販売機が設置してあるんですのよ? 良いに決まってますわ」
「なるほど。それじゃコーヒー分けてくれよ」
キャロルは凄く嫌な顔をしながら紙コップを人数分渡す。
「なんでティーセットのカップ余ってるのに俺らは紙コップなんだよ!」
「残りのカップはわたくしのお昼・3時・6時用ですので」
「洗えばいだろ! なんなら俺が洗ってやるよ」
「1カップ25万ですが」
「あ、紙コップで」
大地が紙コップを手に、カタカタ震えている。
「まさか・・・この紙コップも1万位するんじゃ・・・」
「貴方にお似合いの安物ですわ」
「あ・・・あの私ブラックは飲めないの・・・」
「ほんと千里はお子様ですわね。砂糖と牛乳もありますわ」
キャロルは牛乳の入った別のボトルを取り出す。
(何で用意してあるんだ・・・)
4人は朝のコーヒータイムを楽しむ。
「そういや今日から武活だったな・・・もう本当に放課後集まる事も無くなるんだな」
「わ・・・私は武活よりみんなと放課後一緒に練習する方がいいな・・・」
「俺も・・・でもルールだからなぁ」
「私は解放されて嬉しいですわ。これで自分の修行に集中できますもの」
ピーンポーンパーンポーン♪
『一年生の 大久保 キャロル・黒田 守・相良 大地・円城寺 千里の4名は校長室へ来て下さい』
「何だろうな? 昨日の事で何かあんのかな?」
「わかりませんわ。とにかく向かいましょう」
ー校長室ー
校長室では誠が待っていた。
「ほっほっほ。皆の者朝から呼び出してすまんのう。まずは昨日のドラゴンとの戦闘の際、良く辛抱強く耐えてくれた。あと、救援が遅れたのはお詫びする。なにせ初めての事態だったからのう」
「いえ、それより何か御用がございまして?」
「ふむ・・・それなんじゃが。お主ら今日から武活が始まるじゃろう。そこで頼みがあるんじゃが・・・。」
そこまで言うと誠は一瞬間を置く。
「今放課後お主らのやっている修行をそのまま武活として扱いたいのじゃ」
一同は驚き互いに顔を見合わせた。
「ちょっ・・・ちょっと待って下さいまし! 納得がいきませんわ! 私はすべての部活に参加する予定ですわ・・・いくら神代校長といえど、その頼みは聞くわけにはいきませんわ」
誠は腕を組んで少し後ろにのけぞった。
「ワシは・・・かねがね思っておったのじゃ。1年生始めの時点で道を決めてしまうのは早すぎるのではないかとな・・・お主のような総合的に極めようという者や実力が劣る者を武活に入れた所で、ついていけず自主退学をする者も多かったのだ。そこで【総合武術部】という7つ目の武活を試験的に立ち上げようと思っておる。もちろん2年生になれば好きな武活へ入ってくれてもかまわん」
「わたくしは嫌ですわ。各武活それぞれのエキスパートと接する事により自分を高めてまいりたいのです」
「俺は・・・正直まだキャロルに教えて貰いたいけどな」
「俺もまだ解術に協力して貰いたいし」
「わ・・・私も、武活はついていけないかもしれないし・・・なにより皆との方が楽しいかな」
「あなた方は黙ってて下さいまし! わたくしはこれ以上遅れを取るわけにはいきませんの!」
キャロルのその気迫に皆押し黙ってしまう。
一同はキャロルのひたむきな向上心を理解しているし、足手まといと知りつつも4人で修行している時間が心地よく、ついキャロルの事を頼ってしまっている事を心のどこかで悪いと思っていた。
「お主のいう事もわかる。そこでじゃ新しい武活を立ち上げた以上顧問をつけねばならぬ。その使命権をお主にやろう。個別指導は少人数であるがゆえの利点じゃ。悪い条件じゃなかろうて」
「・・・最初から結果は決まっていたようですわね。どうせ断ってもエマージーシークラッカーの無断使用の懲罰免除などを理由に納得させるつもだったのでしょう?」
「ほっほっほ。話が早いのう。そうじゃ。呼び出された時点ですでに勝負は決まっておる」
「ですが、お断り致しますわ!」
「ふむ? ではお主が今保管しておるワシのガントレットを返して貰おうかのう」
「なっ!? あのガントレットは神代校長の物でしたの!? 最初からすべて謀られていましたのね・・・」
「あれを研究出来る事は何物にも変えられんじゃろうて」
「・・・やはり神代校長・・・まだわたくしは掌の上という事ですわね・・・。いいですわ。先ほどの件了承致しましたわ。総合武術部に入部致します」
「キャロルちゃん!」
千里はキャロルに抱きつく。
「ちょっと千里離れて下さいまし!わたくしはただ自分の利益のために・・・」
「これで又、みんな揃って修行出来るな・・・な、大地?」
「嬉しいけど・・・俺のケツが持つかな・・・」
キャロルの冷たい視線に大地のケツが締まる。
「賢明な判断じゃ」
「ですが・・・顧問は・・・神代校長を指名致しますわ!」
誠は完全に意表を突かれたように驚いた顔をした。
「ほっほっほ! お主も中々の策士だのう!」
「やられっぱなしは趣味じゃありませんの」
誠はうれしそうに盛大に笑った後、
「ようし分かった! ワシが顧問になろう。しかし、これは秘密裏にじゃ。表上は 黒田 優香 君を顧問とする。もちろん両名が指導するが、ワシは公務が多いのでの毎日という訳にはいかぬのでな」
「まったく・・・しかし校長先生はなぜこうもわたくし達に肩入れいたしますの?」
「なぁに・・・ちと思う所があってのう。あと・・・総合術部に今日からお主らとは別に2名参加する事になっておる。が・・・2人ともちと問題があってのう」
「・・・一体どなたですの?」
「1名は後で紹介するとして、もう1名は同じ1年生の種子島沙耶じゃ」
キャロルはその名前を聞いて頭を抱え込む。
「やっぱり入部は無しに・・・」
「だめじゃ」
キャロルはガクリと肩を落とした。