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病院

軍病院の一室には、戦闘で負傷したキャロル・千里・大地・コロ・仁・鉄延にはベッドが用意され、見舞いと事情聴取のために召集された守を加えた7人が集まっている。




「がっはっは! こんな若い奴らと同室なんておじさん嬉しいなぁ!」




「だから・・・声が大きいって言ってますでしょう!」




キャロルは枕を鉄延に投げつける。




「ぶっ!おおっ!?この枕・・・いい香りがするぞ~!」




「か・・・返してくださいまし! この変態!」




「きゃ・・・キャロルちゃん。落ち着いて」




「どっちもうるさいんだよ! 黙って寝てろ!」



奥に寝ていたコロが怒鳴る。




「コロ! あなたも病室でビーフジャーキー食べないで下さいまし!臭いますのよ!」




「うるさい! そーだキャロル! 約束の肉食わせろよ肉!」




「フンっ。そんな約束忘れましたわ」




「忘れたって事は覚えてるって事だろバーカ!」




「相変わらず減らず口を叩きますわね・・・!」




「おい! キャロル落ち着けって」




「コロ、お前も暴れるなって」



守と仁がそれぞれをなだめる。




大地と鉄延はやり取りを見て笑っていた。




ガラっと入り口の扉が勢い良く開き、咲が鬼のような形相で現れた。




「て~めぇ~ら~! この俺の病院で騒ぐとはいい度胸じゃねぇか! いいぜ~皆揃って霊安室に加えてやる」




咲は右手に持った大型のメスを取り出す。




「おお! 咲っち久しぶりだな~! 相変わらず可愛いなぁ!」




「あん?誰だてめぇ」




「ほら特戦校同級生の有馬だよ有馬!」




「もしかして・・・ああ・・・臼杵うすき 小春こはるの犬かよ」




「思い出した!? さっすが俺! 有名!」




「てめぇじゃなくてドラゴントレーナーになるような優秀な奴が、てめぇのような落ちこぼれと付き合ってたって事で有名だったんだよ」




「ちょっと待って下さいまし! ドラゴントレーナーですって!? 特1級資格じゃないですの! 1人でクラス4以上を押さえ込む戦力試験、ドラゴンに関する知識試す学力試験。この2つの1級国家試験に合格した者にだけ与えられる複合資格・・・日本のみの資格で10名程度しか所持していないと聞いていますわ!」




「へっへーん! すごいだろ俺の嫁さん」




「お前が自慢してんじゃねぇよ雑魚」




と、その時ズゥウウウンとと突然低い音とともに地揺れが起こる。


一同は慌てて外を見るとそこにはドラゴンの大きな瞳がこちらを覗いていた。




「ッツーーー又出現致しましたの!?」




慌てて準備をする一同を、咲が手で制する。




「敵じゃねぇよ。良く見ろ」




ドラゴンの頭の上から1人の女性がベランダに下りて中へと入ってき、他のメンバーには目もくれず鉄延に一直線に走って来る。




「鉄延くーん! 怪我したって聞いたよ! 大丈夫だった!?」




「小春ちゃーん! 大丈夫だよ~!」




抱き合う2人を冷めた目で見つめる一同。


小春は咲の存在に気が付く。




「あ、咲ちゃんひっさしぶりー!」




「おう。・・・前わざわざ九州からこっちにドラゴン使って飛んで来たのか? 職権乱用だろ」




「鉄延君が怪我したって聞いたから・・・飛んできたの! あとこの子は授業で使うからって校長に頼まれたものなんで実務も兼ねてますー!」




「あー・・・知龍型対策の訓練用か、そういやそんな事言ってたな」




小春は何かに気が付いたのか、守の所へ歩み寄りクンクンと守の臭いを嗅ぎ始めた。




「な・・・何ですか!?」




「へぇ・・・君・・・面白い体してるね。おねぇさん興奮しちゃうなぁ・・・」




獲物を見るような不気味な表情で舌なめずりしながら、守を見上げる。




「あ・・・あの顔は小春が調教する時の表情! う・・・羨ましい!」



鉄延は悔しそうな表情をしている。




「おい小春てめぇそれ以上はやめとけ国秘だ」




小春は残念そうに守を見つめた。




ガラッと入り口の扉が開き、着物姿のお年寄りの女性が入ってくる。




『げっ! ババア!?』

『ばっちゃ!?』




咲と大地が同時に声を出す。




「だいちぃ~! 無事かのう~!?」




「ばっちゃ! わざわざ東京まで来たのか!」




「可愛い孫が心配で心配で」




「ばっちゃ~~!」




「大地~~~!」




抱き合う2人。




「おい! ババァ! てめぇはこんな所に来るなよ!」




「なんだばっちゃ、知り合いなのか?」




「いや~知らん」



そのお年寄りはわざとらしく首を振る。




「ケッ・・・。シカトかよババァ、いやそうだな・・・西日本防衛軍総統 相良 桜 様ようーーーー」




そう言い終わる前に突然咲は後方へと吹っ飛び、外へと弾き飛ばされる。


咲を吹き飛ばした植物の様なものが桜の右腕へと戻る。




「ばっちゃーーー!? 何やって・・・つーか何だその腕!?」




「ちょっと桜さん! 何やってんですか!そんな事したら お孫さんにばれてしまいますよ!?隠してるんでしょう!?」




「咲の阿呆め・・・もう良い。どちらにしても大地が特戦校に入学した時点でいずれ分かることだからのう」




一同はやり取りについていけず呆けている。




「桜っていうと・・・あの 百武 桜ですの!?」




「うむ」




「ばっちゃが!? ばっちゃは普通の・・・スイカとか無駄に食べさせてくるただの農家のばあちゃんだぞ・・・それが・・・」




大地は桜の腕を見て信じられないという顔をしている。




「痛ってぇなババァ! 死ぬぞ普通!」




外から咲がベランダに帰ってくる。




「まったく・・・誠の奴、全然躾がなってないのう・・・。ほれ。帰るぞ大地」




「は? まだ事情聴取とかあるから退院出来ないぞ?」




「違う。九州のワシの家に帰るんのだ。そのために迎えに来たのじゃ」




「何でだよ! 俺は帰らねぇぞ!」



その言葉を聞いて桜は表情を曇らせる。




「大地よ・・・死にかけたんだぞ。今回はたまたま大丈夫だったかもしれないけど次は分からない。力の使えないあんたが運よく毎回生き残れる保証なんて無いんだからのう」




「力が使えないって・・・もしかして大地の力を封じたのは貴方ですの?」



桜は少し眉をしかめ答えた。




「・・・そうだ。私が封じた」




「ばっちゃが・・・何でそんな事したんだよ! お陰でおれ力が使えなくて苦労してるんだぞ!?」




「ワシはお前を失いたくない・・・普通に生きて欲しいだけなんじゃ」




「俺だって皆の役に立ちたいんだ! 戦える力が欲しいのに何でそんな事・・・」




「・・・咲。案内しなさい」




「おいババァ・・・マジで言ってんのか?」




「早くしろ」




「ッチ・・・知らねぇぞ。・・・お前ら、鉄延と小春以外付いて来い」




しばらく歩いた後、病院のある部屋に案内された。




「みなさい。これがお主達の末路じゃ」




そこには今回の死亡者が並べられていた。


手足が千切れている者、潰れている者と様々だった。


それを見た一同は言葉無く沈黙してしまう。


千里は我慢できず、口を押さえて部屋を出て行ってしまった。




「これまで多くの戦士が共に戦いそして死んでいった・・・その中にはこのワシより強い者も沢山おったわい。そしてこのワシも長年の戦いでこの様だ」




桜は着物の両袖をたくし上げる。両腕とも途中から樹木のようなものが生えており腕の形を形成している。




「ばっちゃ・・・そういえばいっつも手袋はめてると思ったら・・・」




「うむ。それに左足も同じようになっておる。ワシの四肢で残っておるのはもはや右足のみ」




「ばっちゃ・・・」




大地はショックを隠せない。




「で、この姿を見てお主らはまだ戦いたいと思うかの?」




少し間が空いた後キャロルが始めに口を開く。




「わたくしは神代校長先生のように立派な英雄になりたく精進してまいりましたわ。例えその途中で死ぬ事になろうとも、一切の後悔はありませんわ」




「契約者を守るのが我々狗神一族の使命よ・・・ま、死んだら死んだときかな」




とコロが続けて言う。




「コロがこんな感じでしょう? 幼馴染だし放っておけないんですよ」




「幼馴染ですって!? それだけ!? あんたねぇ!」




コロは仁の腹に強烈な蹴りを入れる。




「うぉおお・・・死ぬぅ・・・!」




そのやり取りをよそに守が答える。




「俺は死ぬのは嫌だけど、仲間が死ぬのを黙って見てるだけってのも絶えられそうに無いからですかね・・・」




「ふむ。で、大地お主はどうなのだ?」




「俺は・・・英雄になりたかった・・・父さんや母さんのような・・・大勢の人を救って感謝されるような立派な人に!」




そのまっすぐな瞳をかつて桜は見たことがあった。




(まったく・・・恨むべきは己の血筋か・・・)




「・・・因果というやつかのう。皆、試して悪かった。それぞれの目標、事情があるのは分かった。お主らが勇敢なのは今回の戦いで重々承知しておる。しかし、これだけは肝に命じていてくれまいか。決して生きる事を諦めず死に急ぐ事はしないで欲しい。若いものほど勇敢に戦い華々しく散ろうとする。ワシは・・・いやワシらはそれが本当に心苦しいのだ。本来なら特戦校など作りたくは無かった・・・しかしワシらも老いた上に、状況はますます厳しくなっていく。結果若い力に頼らざるを得なくなってしもうた。かつてワシらはこの日本に希望を若者に未来をと願い戦ったのだが、結局若者にしわ寄せがいってしまって情けなく思っておる」




「とにかく部屋にもどるぞババァ。こんな所で長々と湿っぽい話してんじゃねぇよ」




桜は再びツタのような腕で咲をぐるぐる巻きにする。




「おい! 放せよババァ!」




桜は暴れる咲を無視して部屋を出る。


部屋に戻ると鉄延と小春がいちゃついていた。






「おい! 小春てめぇ! この俺様の病院でいちゃついてんじゃねぇ! 殺すぞ!」




吊るされながら咲が暴れている。




「まったくお主らは・・・」




桜は右手の植物を分岐させ同じく小春と鉄延を捕まえ吊るす。




「情けないといえばこれもそうだの」




桜は部屋に設置されたテレビをつける。


そこでは神代校長の記者会見が行われていた。




『今回初めて2体のイレギュラーが同時に発生し多くの死者が出たようですが対応に問題は無かったのですか!?救援が遅れたとの報告がありましたが』




『捕獲優先にした事で被害が拡大したとの見方がありますが』




『被害者が国を相手取り裁判を起こすと言っておりますがどう思いますか!?』




『責任の所在を明らかにして下さい!』




『責任を取って辞職する可能性はありますか!?』




桜がテレビを消す。




「これがお主達の守るべき国民にして、最大の敵だ。謝罪・お金・責任。お主らがいくら頑張ろうと感謝などされず、絶えず与えられる罵声。これが今の日本の現状だ。平和ボケしとる。電車のように決まった時間に助けが来る事が当たり前。今回お主らも戦いながらそうは思ったはず。遅い、何をやっている、早く助けに来い・・・とな。違うか?」



その言葉にキャロルは唇を嚙みしめる。




「・・・はい。恥ずかしながら思いましたわ・・・」




「まぁ・・・平和な時代に生まれ育ったお主達ならそう思うのも仕方ないがの、今の時代たとえ命を賭して戦った者達へ賞賛の声などは無い。肝に命じておきなさい」


吊るされた小春が項垂れて桜に言う。



「桜さん・・・学生さん脅すのもその位にしてあげてくださいよ」




「確かに3年の卒業試験で同じような説明受けるけど、ちょっと早いよなぁ」


と、鉄延。




「これで戦力減ったらババァ、てめぇのせいだからな! 責任とれ! 責任! アデデデデ! 痛ぇぞババァ!!」





「とにかくワシは九州へ帰る、小春。帰る準備をせい」




「え? 私・・・乗ってきたこの子で授業受するので九州帰るのはだいぶ先ですよ~?」




「・・・帰らないのか?」




「説明してなかったですね~あはは」



桜は一瞬呆れた後、大地の方を見る。




「・・・大地~! 今日泊めてくれんかのう~!?」




桜は大地に泣き付いた。




「え? 俺寮だから無理だけど・・・ホテルとか取れないのか?」




「ホテルなんてあんな無機物に囲まれた狭い部屋は無理なのだ! 誠の家にはあのいけ好かない雪乃がおるしのう・・・」




「・・・良ければ私の家にお泊り致しませんか? 離れには和室もございますし、是非お話をお聞かせ願いたいですわ]




桜は少し考えた後




「ふむ・・・では世話になるかのう。お主名前は?」




「大久保 キャロルと申しますわ」




「大久保・・・もしかして大久保おおくぼ 英斗えいとはお主の親戚か?」




「父ですわ。ご存知でして?」




「日本一の大企業のを知らん訳あるまいて。軍にも兵器を提供しとるだろう。そうか・・・なら家はあの城でよいのだな?」




「はい」




「すまんが、少し誠の所に寄っていくので伺うのは7時頃になる」




「お食事を用意致します。好みをお教え頂けたら究極のメニューをお作り致しますわ」




「和食をお願いしようかの」




「畏まりました。ではお待ちしております」




コンコンとドアをノックする音がし警官が入って来る。




「では、事情聴取を始めさせて頂きます」





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