放課後
グラウンドの隅に、守・大地・千里の3人の前に仏頂面をしたキャロルを加えた4人が集まった。
「えーと・・・と、言うわけで今日からキャロルが放課後俺らの指導してくれる事となったんだが・・・キャロルお前なぁ」
キャロルは腕を組んでそっぽを向いている。
「おいキャロル! 昨日謝るって約束したろ! 千里に謝るんだよ」
大地と千里も複雑な顔をしている。
「俺はこいつに教わる位なら弱いままでいいよ」
大地はキャロルに言い放った。
「何ですって~・・・!?」
「おい! 大地お前・・・まぁ気持ちはわからんでも無いが・・・キャロル。お前、謝るのが嫌ならせめて、お前のために戦った事の御礼だけでも言えよ」
「あれはアンタ達が勝手にーーー」
「キャロル」
守はキャロルを睨む。
「あーもう分かりましたわ! お礼を言えばいいのでしょう!」
そういって3人に封筒を渡す。
「おいキャロル何だよこれ」
「いいから開けて下さいまし」
3人は揃って封を開ける。
(Thank you)
手紙にはその一文だけが書かれていた。
「キャロルお前って奴は・・・」
「あははは!」
千里はお腹を抱えて笑い出す。
「いいよ。許したげる! でも・・・もうひどい事は言わないでね?」
「千里が許すんなら俺が怒る理由もないな」
と、大地。
「ま、そういう事だ。よろしくな、キャロル」
「ふんっ、私は甘くはありませんわよ。よろしくて?」
「望む所だ! それじゃ・・・Eチーム+αで頑張って行こうぜ!」
「ちょっと! αって私の事ですの!? 私を勝手に加えないでくださいまし! 大体私はE級じゃないですわ!」
「そうだったお前はF級だったな。すまんすまん」
「ーーー! バカにしてますのーーー!?」
ゴスッ
キャロルの鉄拳が守の顔面へと炸裂した。
「いってぇえ!」
鼻血を出す守を見て、笑う大地に心配する千里。
3人にキャロルを加えたEチーム+αの活動が今日から始まった。
「そういえばキャロル。剣の姿が見当たらないんだが、まだどこか悪くて出てこれないのか?」
「ああ、剣は先日の件で力不足を感じたらしく、剣術の先生の所に修行に向かいましたわ。気が済んだら帰ってくるはずですわよ。外部での師事も申請を出して許可が下りれば、課外授業として単位も認められますのよ」
「ふーん」
「とにかく、貴方達の潜在能力を確認させていただきますわ。難しい事はありませんわ。私と手を握って頂きます。えっと・・・守さんは昨日すでに見させていただいたので飛ばして、相良 大地さん・円城寺 千里さんの順で見させていただきますわ」
「下の名前呼び捨てでいいんじゃないか?一応クラスメイトなんだし」
と守。残りの2人もそれに頷く。
「では、失礼して今後はそうさせていただきますわ。私の事もキャロルと呼んで下さいまし。では大地、手を出して」
キャロルは差し出された大地の手を握る。
そこでキャロルはある違和感を覚えた。
(あれ・・・おかしいですわ、魔力の流れをほとんど感じない。私のように生まれつき少ない者はいますが、これほど少ない人は今まで見た事がありませんわ。)
「大地。ちょっと脱ぎなさい」
「え・・・? わ、わかったよ」
大地はベルトを外しズボンを脱ぎ・・・
「じょ・・・上半身だけで結構ですわ!!!」
キャロルと千里は顔を赤らめる。
「先に言ってくれよな!」
大地は上半身裸になる。
「では仰向けになってくださいまし」
大地は仰向けで寝転んだ。
キャロルは大地の胸辺りに手を置いて目を瞑り集中する。
(心臓から発生した魔力はそこから体内の魔力回路を通って循環するもの。これは・・・塊・・・? なっ・・・! 心臓の周りの回路に全て封が施してありますわ! しかも絶対に回路の増設が出来ないようにした上で高度で複雑な術式で・・・これは施した本人しか解けませんわ。しかし・・・この行為に何の意味がありますの・・・魔力の発生量は並程度のこいつに何故そこまでの事を・・・)
「おい! キャロル! 聞いてんのか! あんまり触りすぎると危険だ!」
「まったく・・・何ですの?」
「お前さっきからずっと胸ばっか触ってんだよ!」
大地は乳首を執拗に責められ、気持ちの悪い声を出していた。
「け・・・汚らわしいですわーーーー!」
ゴスッ!飛び散る鼻血が宙を舞う。
キャロルは血で汚れた拳を拭きながら話す。
「大地。貴方・・・近縁に腕の立つ術師が居りまして?」
「さぁ・・・家は代々田舎の農家だから・・聞いた事ないなぁ」
鼻血を吹きながら大地は答える。
「まぁ・・・いいですわ。貴方誰かに魔力回路をふさがれていますわ。それも相当に強力な術者によって。理由はわかりませんが・・・とにかく言えるのは貴方は現在コアが使えないという事ですわ。」
「へ・・・?」
大地は衝撃を受けたのか、鼻血を拭くのも忘れ固まってしまう。鼻血はアゴを伝い地面へポタリと落ちた。
「それ・・・本当か・・・? それじゃ・・・俺は努力してもコアは使えないってのか・・・?」
「今の所はそうなりますわね」
「意味ないのか・・・無駄だってのか・・・ちくしょう! 俺だって皆の命を救えるようになりたかった。英雄になりたかったのに!」
大地は悔しそうに地面を叩く。
「大地君・・・」
千里は何も言葉が見つからず、優しく背中をさすっている。
「諦めるんですの? でしたらこの学校をお辞めになったらいかがかしら?」
キャロルは冷たく言い放つ。
「てめぇ・・・!」
大地は拳を握る。
キャロルは少し間を置いて決意したように口を開く。
「私は生まれつき魔力がほとんどありませんでしたわ。回路も狭く凡人以下でした」
3人は驚きを隠せない。あのプライドの高いキャロルが自分が凡人だと自ら口にしたのだから。
「私も神代先生の様な気高い英雄を目指していましたわ。自分が凡人・・・いや凡人以下と気づいた時、貴方のように絶望致しました。ですが私は諦めず努力致しましたわ。あらゆる文献を読み漁り医術を学びました。そして私は得た知識で、時には自分の回路を無理やり広げ、繋ぎ、時には焼き潰しましたわ。頭痛・吐き気・時には吐血も致しました。この無茶が成功しても魔力の量は凡人以下と知りながら。貴方は私程の努力をされまして?されていませんわよね?ただ才能が無いという境遇にを受け入れ諦めてしまうようでは、勝てないような強敵と対峙した時、何もせず敗北を受け入れ死ぬだけですわ。」
キャロルの過去。そして行ってきた努力の壮絶さに大地はぐぅの音も出ずうつむいている。
「私は諦める事が嫌いですの。命の危険の無い平時において諦める事が人生で一番の愚策だと確信しておりますわ。・・・ですから貴方の回路を元通りにすることも諦めたりは致しませんわ。もちろん貴方が諦めるのであればそれは結構です事よ?でも逃げた所で活躍する他の方々を見ては悔しがる事しかできませんわ。一生後悔しながら生きていくおつもり?」
大地は鼻血を拭き立ち上がりキャロルに向かって頭を下げる。
「お願いします!」
「お願いします! じゃないわよ、バッカじゃないの? あんたも考えて何とかしますのよ。言われなくてもやりますわよ。ま・・・私の成長のためであって、あんたの事なんかどうでもいいですわ。次は千里を見てあげるから手を出しなさい」
「あ、うん」
キャロルは手を握る。
(ッツ!! 想像以上の魔力量・・・私の魔力が湧き水程度ならこの子は・・・まるで大河ですわ。羨ましい・・・!)
千里を握る手に力が入る。
「い・・・痛いよ・・・」
「貴方・・・血液型はAB型ですわね?」
「何で分かったの!? すごいキャ・・・キャロルさん!」
「キャロルとお呼びになってと言ったはずですわよ」
キャロルは睨む。
「えっと・・・私呼び捨てとか苦手で・・・キャロルちゃんでいいかな・・・?」
「お好きに。所であなた本当に魔術使い? 魔力の型は血液型と同じと言われてますのはご存知ですわよね? 今貴方と私の間での魔力供給が全くロス無く行えているのがお分かりでしょう? つまり私もAB型ですのよ」
「あはは・・・私にはわかんないや・・・キャロルちゃんはやっぱすごいなぁ」
「・・・ちょっと千里。魔力を借りていいかしら?」
「え? うん」
「では両手でわたくしの手を握ってくださいまし」
そう言ってキャロルは腰の2丁の拳銃の片方を取り出し、空に向かって構える。
キャロルはゆっくりとトリガーを引く。爆音とともに眩い光が放出され空に消えていった。その威力は先日キャロルがドラゴンに放ったものより間違いなく強力に見えた。
1発目が打ち終わったと同時に2発・3発と、次々に放っていく。
「おいキャロル・・・もういいんじゃないか・・・?」
その威力に見とれていた守が、止めようとキャロルの方を向く。キャロルは恍惚の表情を浮かべ、銃を放ち続ける。
「おい!キャロルいい加減にーー」
そう言いかけた時バキンッという音を立てキャロルの持っていた銃が砕け、地面に部品が飛び散ってしまった。
「・・・いい所でしたのに・・・」
キャロルは悔しそうに壊れた銃を見る。
「キャロルお前・・・顔が完全にイッちまってたぞ・・・」
「うるさいですわ! 貴方達だって急に圧倒的な力が手に入ったら興奮しますでしょう!? それと同じ事ですわ」
「・・・で、満足したのか?」
「やはり銃強度が足りませんでしたわ。気にして制御していたのですが途中から我を忘れてしまいました。一応すべての素材を
ブツブツと何かを呟き続けるキャロル。に千里が話しかける。
「あの・・・私は・・・どうだった・・・?」
「ああ・・貴方の魔力量は国内でも上位クラスですわよ。でも肝心のコントロールがからっきしですわ。
恐らく貴方は今までその莫大な魔力を押さえつける事に集中しすぎて、他の所にまで気が回らなかったのでは?」
「うん・・・私、昔ねコアを持っていないでも興奮したり泣いたりして感情が不安定になった時、周囲に高温を発熱したり時には発火したりしてしまっていたの。色々な病院を回ったけど原因は分からなくって、最終的に危険だからって特別に軍医の人に見てもらうことになったんだけど・・・そしたら魔力過剰による暴走だって言われて・・・でもそれは特別な才能だからって、それで特戦校中等学部に推薦をもらったの」
「貴方は今、巨大な金棒を振り回している状態よ。振り回してるというより、振り回されてるといった方が正しいわね。その鉄棒を扱えるように形を整え研磨し刀のように研ぎ澄ます事が出来れば、巨大な刀になるうるわ。鍛錬次第ではドラゴンだって切り裂く事が出来る協力無比な武器に」
(ま・・・それに比べて私の刀は果物ナイフ。どんだけ磨いても捌ける相手は小魚程度・・・まったく嫌になりますわ)
「ではこの腕輪を千里に差し上げます」
「これは?」
「魔力の流れを抑制する腕輪ですわ。私が昔魔力を増幅させる腕輪を作ろうとした時の物ですの。結局増幅は失敗したので、どうせなら・・・と、作った代物をリメイクして作成致しただけですわ」
「キャロルちゃん・・・ありがとう!」
千里はそれを受け取りながらキャロルの手を強く握る。
「ど・・・どうせ倉庫でホコリを被って捨てる予定だった物ですわ! 捨てるより必要な人にあげた方が効率的でしょう!」
キャロルは顔を赤くして手を払う。
「ま・・・とりあえず、3人の課題は分かったんだから課題克服に向けて練習しようぜ!」
そう言って守は鞄から先日、誠に貰ったガントレットを出し装着した。
そのガントレットを見たキャロルの顔色が変わる。
「で・・・どういう練習すればいいんだキャロルーーー・・・ってなんだよおい!?」
キャロルは守のガントレットに飛びつきワナワナと震えている。
「貴方これ・・・何処で手に入れたんですの・・・!?」
「え? 貰った」
「誰に!? 何処で!? 何時ですの!?」
守は誠との個人的な繋がりは隠しておいたほうが懸命だと思い誤魔化す。
「えっと・・・知り合い?」
「何処にこんな物ポンッとくれる知り合いがいますの!?」
「この汚いガントレットってそんなに凄いのか?」
「凄いなんてもんじゃありませんわ! この世にかつてたった1体だけ現れたクラス5・・・その超希少な上、加工もするだけでも莫大な資金が必要となる鱗と牙を惜しむ事無く使用するなんて・・・」
「へ~そんな大層なもんだったんだな」
「・・・おいくらですの?」
「へ?」
「5億までならキャッシュで出せますわ。売って下さらないかしら?」
「こ・・・これは譲れないぞ!」
「8億!」
「嫌だ!」
そう言って守は走って逃げ出す。
「ま・・・待ちなさいーーー!」
キャロル指南役初日訓練内容・・・追いかけっこにて終了ーーー。