そういえば名乗っていなかったなぁと
「あ、ええっと····もう夜も遅いし師父が心配するので、私はこれで」
父親の死の真相を想像ではあるが可能性として伝えたことが、彼の中でどう処理されたかはわからない。妖者は塵も残さず消え去った。彼の復讐心はどうだろう。本当は自分の父親がされたように、永遠の苦しみを与えたかったのかもしれない。
気まずくなって去ろうとしたが突然右手を掴まれ、ますます困惑する。
(うぅ····なんだか怒ってません? やっぱり私が余計なことをしたと思っているんじゃ······けれども、あれを苦しめたところで誰も救われないし、彼の気持ちだって晴れはしないでしょう)
無言のままなにも言ってこない
( だ、だめですよ、
あわあわと焦る
『きゅ~? きゅきゅ』
「······すまない。俺が悪かった」
『きゅ!』
もごもごとこもった声で謝罪をした
「今夜は俺と一緒にいて欲しい」
「え? わ、私ですか? ····ええっと、」
碧い眼はどこまで真剣で、いったいどういう意味なのか、と
「少し、付き合ってもらえるか? 母さんにこのことを知らせたいから、」
「····それはかまいませんが、見ず知らずの者がこんな時間に突然お邪魔しても大丈夫でしょうか?」
「あんたが一緒にいてくれたら、上手く話せるような気がするんだ」
言って、少しだけ笑った
ほんの少しの間一緒にいただけだが、彼は笑わないひとなのだと思っていた。どこか感情を抑えていて、抑揚もない。表情がほとんど変わらず、怒っているような印象ばかりだった。父親の死がそうさせたのか。それとも元々そうだったのか。
「そういうことなら、お付き合いします!」
頷き、
「つまり私の頭の中は、たくさんの書物を収める倉庫みたいなもので····って、変なこと言ってるって思ってません?」
おずおずと隣を歩く
「····その生き物、」
「
『きゅ!』
本来、顕現していない状態だと普通の人間には視えないし、声だって聞こえない。
「私、この依頼を受けた時に、どうして王宮の道士たちはこの件から手を引いたのか不思議だったんです。でも、資料を眺めている内に気付きました。少なくとも、この資料を書いた方は諦めてなどいないと。いつか、必ず解決する。そのために些細なことも見逃さない。そんな執念が伝わってきました」
「俺もそれには何度も目を通したが、そんな風に読み取る余裕なんてなかった。結果だけを頭に入れ、ただ復讐のために、一字一句忘れないように、と。それを書いたのは
父、