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第68話 ルーザが死んだ?

 第一迷宮で逃げられたボス悪魔は幻魔だったらしい。女神からの情報は幹部たちにも共有した。


 とはいえ、方針に変更はない。幻魔退治はあくまで副次的な目標だ。見返りに【盗む】諸々の目こぼしをしてもらっているので、遭遇すれば可能な限り仕事を果たすつもりではいるが。


 まぁ、グレドが幻魔のゲルガーと繋がっていたことを考えると、復讐を果たす過程でぶつかる予感はある。なので、ついでで良いのだ、ついでで。


 我とメイベルは予定通り、新米クラン員のフォローと教育をする。ミスルもクランに居残っているが、何をしているのやら。アルム兎やらブレイズペングーと遊んでいるようにしかみえない。まぁ、新米たちのメンタルケアの効果は見込めるので放置しているが。


 クーリアは引き続き5層の探索だ。アサシンアルムを連れているので、幻魔と遭遇してもどうにかなるだろう。


 そして、一週間が経過した。当初は反応が鈍かった新米たちもずいぶん回復した。スキルの習得も終わったので、そろそろ我の手伝いは必要あるまい。あとはメイベルに任せて、我はクーリアのほうに合流しようと思っていたのだが……


「リビカ団長、あの、お客です。『切り裂き旋風』のカーソンさんが」


 朝。食堂で幹部揃って食事していたところ、ウォンが声をかけてきた。


「カーソンが? なんて言ってた?」

「いえ、団長とクーリアさんに話があるとしか」


 そう言って、ウォンは同席したクーリアにも視線を送る。


「ふぅん?」


 カーソンは『切り裂き旋風』との取り引き窓口だ。クランを訪れてもおかしくはない。とはいえ、次の取り引きはまだ先の話だったはずだが。


「情報を寄越しにきたのかもしれないよ。私の目的については伝えてあるからね」

「ああ、なるほど」


 クーリアの言葉で、カーソンが彼女と旧知の仲であることを思い出す。もとはルーザと同じく『月下の剣』のメンバーであったのだ。その繋がりで何らかの情報を持ってきた可能性はあるか。


「すぐに行くから、応接室に通しておいてくれる」

「わかりました」


 ペコリと頭を下げて、ウォンが去っていく。


 ううむ、固い。別に最初の態度で構わないのだがなぁ。そう言ったら、“平クラン員が団長にタメ口を聞くのは普通じゃないので”と言い返されてしまった。


 たしかにそうかもしれない。普通とは難しいものだなぁ。


「メイベルは予定通り、クラン員をお願いね」

「わかりました!」

「ミスルはどうする?」

「話し合いなんて興味はないわよ。迷宮に行くときに声をかけてちょうだい」

「はいはい」


 ちょうど食事を終えたところだ。食器の片付けはメイベルがやってくれるということなので、クーリアとともに応接室へと向かった。


「やぁ、待たせたね」

「いや……」


 我の挨拶にカーソンは言葉少なに返した。いつもどこか緊張した様子のヤツだが、今日はいつにもまして固い。


 不思議に思いつつ、我はカーソンの対面に座った。クーリアも我の隣に座る。


「今日はどんな用事なのかな?」

「あ、ああ。クランからの要請もあるんだが、まずは個人的に伝えたいことがあるんだ」


 カーソンが意味ありげな視線をクーリアに向ける。やはり、ルーザ関連か。


 我らの予測は正しかった。内容は予想外だったが。


「クーリア。落ち着いて聞けよ……ルーザが死んだ」

「……へぇ」


 冷ややかな声で応じるクーリア。それだけで部屋の温度が数度は下がったかのようだ。その様子にカーソンは少し怯んだようだが、それでも淡々と詳細を話しはじめた。


「昨日のことだ。『切り裂き旋風』が第一迷宮の7層を移動していると見慣れない魔物に襲われた。悪魔のような姿をした黒い魔物だ」

「もしかして、似たようなチビ悪魔を呼ぶやつかな?」

「知っているのか……?」

「ちょっと前にね。そのときは、5層だったけど」


 クーリアに視線を向けると、無表情で小さく頷くだけだった。今は話の続きを聞きたいということだろう。カーソンも同じように思ったらしく、話を続ける。


「人数もいたので対処は難しくなかった。親玉は手強くて、多少苦戦したけどな」

「倒したんだ。逃げようとしなかった?」

「親玉がか? いやそんなことはなかったが」

「ふぅん。続けて?」


 怪訝な表情のカーソンに話を促す。どうも胡散臭い内容だが、判断するのは話を聞いたあとで良いだろう。


「あ、ああ。それでだな。倒した親玉悪魔の死体は消えなかったんだ。ヤツは魔物じゃなかった。人が……ルーザが変化していた化物だったんだ」


 死体を確認したところ、その姿が徐々に変化し、人の姿になったそうだ。面識のあったカーソンには、それがルーザだとわかったらしい。幾つか所持品があり、その中には冒険者証もあった。ギルドで照合したところ、ルーザの物であると確認がとれたそうだ。


 報告を終えたカーソンが、恐る恐るクーリアを窺う。しかし、クーリアはそんなカーソンの態度を一顧だにせず、ただ我に告げた。


「団長。私の職業加護を見てくれないかい」


 なるほど。どうやら、クーリアも先ほどの話に胡散臭さを感じていたようだ。


 すぐに我の解析でクーリアの能力を確認したところ、我らの想定して通りの結果が得られた。


「やっぱり。加護は変わっていないよ」


 クーリアの職業加護は〈復讐者〉のまま。それはつまり、標的がまだ死んでいないことを意味する。


「そうじゃないかと思ったよ。まったく、小賢しいことをしてくれるじゃないか」

「ど、どういうことだ?」


 戸惑った様子のカーソンが問いかける。その問いに、クーリアはゾッとするような笑みで返した。


「ふふふ、なぁに。あんたが心配したようなことは起きてないってことだよ。私の獲物はちゃんと生きてる。この手で八つ裂きにできるチャンスは失われていないってことさ」

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