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第67話 増えた女神

 今日はなかなか大きな出来事があったな。新米のクラン加入に、師弟伝授の伝授。その後はチビ悪魔を蹴散らし、ウォンたちを勧誘した。


 定例の報告会で主な話題となったのは、あの悪魔について。しかし、結局、情報が足りないという結論になった。


「ふむ。またか」


 ベッドに潜り込んでしばらく。我は、もはや見慣れた白い空間にいた。


 また呼び出されたようだ。今度は何が原因だ? まさか、雑談のためにというわけではあるまい。


 すぐに目の前の空間が揺らぐ。今回はいつもより揺らぎの範囲が広いなと思って見ていれば、女神が2人に増えた。


 1人はいつも通り、秩序の神ルディアナ。もう1人は見知らぬ……しかし何処かで見たことがあるような女神である。


『またか、はこちらのセリフですよ!』


 開口一番、ルディアナに怒鳴られた。どうやら相当ご立腹のようだ。隣の女神は、そんなルディアナの様子にハラハラオロオロしている。


「何だかよくわからないが、迷惑をかけたようだな。すまん」

『あれだけのことをしでかして、自覚がないんですか!』


 あれだけのことなぁ。なんだったか。幻想体に【盗む】を習得させたことかな。それとも……ううむ、わからん。


「ちょっと待て。ヒントはないのか」

『クイズじゃないんですよ!』


 ヒントは、なしか。いや、新たな女神と現れたことが手がかりになるかもしれん。


 それにこの女神、やはりどこかで……?


 そうか、転職の女神像! ということは職業神だな!


 ふむふむ。読めてきたぞ。


「師弟伝授をスキル化したのがマズかったか?」

『惜しい! それも困っていますが本質はそこではありません!』


 外しただと?

 しかし、それなら他に何が?


『わかりませんか?』

「う、うむ。すまん」

『リビカ様、理を書き換えましたよね?』

「ああ!」


 なるほど、それか。


 師弟伝授をスキル化するためにSPを利用した。その際、祈りを捧げる先がなかったので、パスを通すためにチョチョイと理を書き換えたのだ。


 それがマズかったか……って冷静に考えればマズいな。完全な越権行為だ。


『おわかりになられたようですね』

「うむ。理の改変のことだな?」


 頷くと、ルディアナは『そうです』と答え、続けた。


『今までは理の歪みを利用する形でした。そのせいで私が困ることも多々ありましたが、歪みの発生はこちらの落ち度ですから強くは責められません』


 責められませんと言いつつ、言葉の端々にトゲを感じる。


『しかし、今回は理の改変。神ならぬ身で手を出して良いものではありません。わかりますよね?』

「う、うむ……」


 まぁ、そうだな。神からすると自分の仕事にケチを付けられたようなものだ。


『そのせいで、神界は揺れています』


 な、なんだ? そこまで大ごとになっているのか?


 くっ……迂闊だったな。大きく拗れると、理への干渉力を取り上げられるかもしれん。しかし、あれは容易に切り離せるようなものではない。となると、この世界からの追放もありうるか……?


『今、神界ではリビカ様の処遇に関して様々な意見があります。このまま見守るべきという意見もありますが……』


 ルディアナが言葉を濁す。


 やはり、追放か……?


 身構える我を見据えて、ルディアナが告げた。


『この世界の神として迎えるべきだとか、いっそのこと私たちの上に立ってもらってはという意見も少なからずあるんです! どうするんですか!』

「……は?」


 さすがの我も、これは予想外だ。越権行為が神々の勘気に触れたという話ではないのか?


「どうしてそうなる?」

『うちには、リビカ様のファンが多いんですよ……神としての力が健在だと知られたらこうなりますって……』


 ルディアナは肩を落として、俯いている。しかし、“こうなります”と我に言われてもな。


「もう我は神ではないんだが」

『だったら、理の改変なんてしないでくださいよ』


 ルディアナが恨めしそうな目を向けてくる。


 なんという正論。さしもの我も反論が出てこない。なので、我は話をそらした。


「しかし、ファンなぁ。ここはブレファンであろう? 世界が構築されたばかりの頃に少し顔を出しただけだったはずだが」

『……覚えておられたのですか?』


 ルディアナが意外そうな顔をする。


 まぁ、これまでそれらしい態度は見せてこなかったからな。そもそも、思い出したのは最初にこの空間へと呼び出されたあとのこと。わざわざ伝える必要もないかと思ったのだ。


「ルディアナのことも朧気に覚えておるぞ。“争いのない世界を目指しています”と目をキラキラに輝かせておった娘が立派になったものだな」

『ちょ!? やめてくださいよ! なんで覚えているんですか!』


 ふふ、うろたえておるな。まあ、新米神の言い出しそうな定番のセリフだからな。しかし争いのない世界に発展はない。なので、そういうセリフを聞くと、ベテラン神は「青いな」と微笑ましくなるのだ。


『あ、あのー……』


 懐かしい思い出話に話を咲かせていると、おずおずとした声が割って入ってきた。


『お二人の仲が良いのはわかったので、私のことも忘れないでください……』


 消え入りそうな声は職業神のものだ。


 もちろん、忘れていたわけではないが少々ふざけすぎたか。


『すみません。話を戻しましょう』


 気を取り直したルディアナが頷き、もう一人の女神を紹介する。


『もう察しがついていると思いますが、彼女は職業神です』

『クライリィです』

「うむ。よろしく頼む」


 話の本題はもちろん、我による理の改変について。それ自体に関しては、厳重注意にとどめるということになったらしい。


 問題となっているのは、祈りの捧げる先である。


『同僚の嫉妬が凄くて……』

「ふむ? しかし、個人の祈りなど大きな力をもたらすものでもないだろうに」

『ですから、リビカ様のファンが多いんですって。対応している私にも当たりが強いんですからね!』

「お、おう。すまん」


 神界もなかなかカオスなことになっているようだな。


 結論としては、SPを捧げるときの祈りをクライリィ個人ではなく神界全体にして欲しいということだった。理の改修は女神たちでやるらしいので、運用するときに注意して欲しいとのことだ。


『私としては塞いでしまいたかったんですけどね……』


 ルディアナが遠い目をしている。彼女としてはSPシステムをなくしてしまいたかったが、我から祈りを捧げられる機会を奪うなと同僚から反発を受けたらしい。


 本当にどうなっておるのだ、神界。


『長くなってしまいましたね……もう少しで目覚めのときです』


 ルディアナがそう告げると、意識が朧になっていく。


 しまったな。あの悪魔について聞いておきたかったんだが。また別の機会が――――


『あ、リビカ様が戦ったのは幻魔で間違いないですよ。対応はお任せします』


 意識が途絶える瞬間、滑り込むかのように伝えられた。


 幻魔の扱い……軽っ!



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