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第66話 それが団長の資質?

 納得はいかないが、いつまでも腹を立てているわけにもいかない。改めて、勧誘の意図を説明する。


「薄々察しているだろうけど、僕らって新興クランとしては破格の力を持っているんだよね。だけど、ある目的のために、その力はできるだけ伏せておきたいんだ」


 彼らには我らの復讐のことは伝えない。少なくとも今はまだ。


「他クランからの横槍を恐れているのか?」

「そういう面もあるね」


 戦士エルムの推測に頷いておく。まぁ、嘘ではない。復讐相手にギルド長がいるのだから、他クランの横槍は充分に考えられる。


「だから、クランに抱え込むって? 秘密が漏れるリスクを増やすだけじゃないか?」


 斥候エルム……いや、コイツは違うんだったか? まぁ、別にいいだろう。斥候エルムが口を挟んできた。


「君たちは義理堅そうだから、そこまで心配してないけど……まぁ、一応魔法契約で口外禁止の誓約をしてもらおうかな」

「まぁ、そのほうが安心だわな」


 ホッとした様子の斥候エルム。何故、そちら側がその反応なのだ。


「クランでは、私たちは何をすればいいの?」


 今度の質問は弓エルムだ。


「今まで通りでいいよ。君たちの役割は普通の冒険者をやること、だね」

「いや、普通じゃない冒険者ってなんだよ」


 戦士エルムからツッコミが入った。まぁ、それは言葉の綾というヤツだ。


「僕たちは特殊な方法でアイテムを集めてるからね。そっちには関わらせないってこと」

「そういう意味か。なるほどな」

「あと、何故かわからないけど、僕らって目立つみたいなんだよ」

「そりゃそうだろ」


 即座に同意が返ってきた。別にそんなもの求めておらんのだが。


「リビカがおかしなことばかりするからでしょ!」

「僕はミスルがうっかり人前で喋るせいだと思ってるけどね?」


 茶々を入れてくるミスルには反撃しておく。あちこちからどっちもどっちだと言いたげな視線が飛んでくるが、そんなものは無視だ。


「とにかく、だよ。僕らはあまり目立ちたくないんだ。だから、印象を薄めるためにも、ごく普通の活動をするクラン員がいたほうがいいかなと思って」


 なかなか酷いことを言っている自覚はある。お前らは目立たない存在だと言っているようなものだからな。自尊心が強い者なら激昂してもおかしくはない。


 だが、返ってきたのは予想外の反応。


「俺たちで、これを薄める……?」

「いや、無理だろ。ちょっとそっとじゃ薄まらねぇぞ、これは」

「ま、まぁ、私たちで誤魔化すにはちょっと個性的な気がするね」


 大変失礼な扱いを受けている気がするのだが……?


「ぺーん……」


 おっと、ブレイズペングーが目を覚ましたか。肝心なところで役に立てなかったとしょげている様子だ。


「気にしなくていいよ。また次がある。アルム兎だって強くなったんだから、君だって強くなれるはずだ」

「ぺーん!」

「クゥ、クゥ!」


 我の励ましで、ブレイズペングーは元気を戻したようだ。アサシンアルムも応援している。


 やれやれ、自我が強くなったことで幻想体の扱いにも気を使わねばならんくなったな。だが、それも成長につながると考えれば悪いことではないが。


 と、幻想体のフォローをしていると、エルム三人衆がこそこそと話しているではないか。

「これで、目立ちたくないって……無理があるだろ?」

「やっぱり、クランの団長って変わった人が多いのかな」

「ああ、暁の勇士の団長とかな」

「おい、ヤツと同じ扱いは酷いぞ!」


 さすがに、その発言はスルーできない。暴言にもほどがある!


「まあまあ、団長。冷静にね。交渉の途中だよ」

「気持ちはわかるけどね! あんな変質者と一緒にされたら!」

「ミスルちゃんも落ち着いてね」


 クーリアとメイベルに宥められ、どうにか気を落ち着かせる。エルム三人衆は我らの反応に顔色を青くしているが、自業自得だ。少しは反省して欲しい。


「で、どうするんだい? 別に断っても構わないよ。団長も無理強いするつもりはないだろう?」

「それはもちろん」


 クーリアに同意する。秘密は守りたいが、そのために彼らの自由を奪うようなことはしたくない。もちろん、故意に秘密をばらまくような敵対行動をとるなら別だが。


「いや、いい。それで恩が返せるなら、俺たちをクランに入れてくれ」


 エルム三人衆は加入と。


「ウォンたちはどうする?」


 話をすると、ウォンたちは互いの顔を見て頷く。そして、一斉に頭を下げた。


「俺たちも、クランに入れてください!」


 うーん、なんか硬いな。もっと普通にしてくれないと困るんだが。まぁ、そのうち慣れるか。





 処刑のあとから監視の視線を感じると思っていたが……まさかクーリアと繋がっていたとは。


 あの生意気な女め。まだ生きているとは聞いていたが、本当にしぶといヤツだ。


 迷宮まで追ってきたのは好都合。この機会に今度こそ始末してやろうと思ったのだが……なんなんだ、あの力は!


 分体をぶつけてもことごとく返り討ちにされた。間違いなく、以前よりも強くなっているぞ。奴隷落ちしてたはずなのに、どういうわけだ。


 それでも、数に任せて押しつぶせばいずれは勝てるはずだった。風向きが変わったのは、ヤツに加勢する小僧が現れてからだ。


 おかしい……あの力は絶対におかしい。分体ではまるで歯が立たない。俺自身が戦えばまた違ったかもしれないが……いや、どうだろうな。それでも危なかった気がする。


 あれはまるで死神のようだった。と考えたところで、グレドの言葉が頭をよぎる。


“来る……来るぞ! 死神が、お前のもとに……”


 あれは、まさか、あの小僧のことを言っていたのではないか。ひょっとしてグレドを降したのもヤツか。


 マズいかもしれん。ここは慎重に立ち回る必要があるだろう。何か、ヤツの目から逃れる手段はないだろうか。

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