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第65話 笑顔で勧誘

 ボス悪魔が逃げたからか、以降、チビ悪魔が補充されることはなかった。となれば、あとは消化試合のようなものだ。全てのチビ悪魔を蹴散らすまで、時間はかからなかった。


「結局、あの悪魔みたいなの、なんだったんだろう?」

「さてね。ぱっと思い浮かぶのは、あの幻魔ってヤツだけど、戦い方は全然違ったね」


 さすがに疲れたのか、クーリアが座り込みながら答えた。そこに、黒兎たちを激励していたミスルが合流する。


「でも、全くの無関係ってこともないんじゃないかしら?」

「そうだね。僕らは幻魔について詳しいわけでもないし」

「このタイミングで遭遇したのも気になるよ。ルーザとグレド。繋がりはなかったはずだけど……」


 やはり、ルーザとの関連を考えるか。そうよな、ここで遭遇したことが偶然とは思えない。


 各々が思考の海に沈み、大部屋に沈黙が訪れる。


 しかし、長くは続かなかった。遠くから足音が近づいてくる。


「先輩!」


 どうやら、ウォンたちが到着したらしい。駆け寄る彼らに伝える。


「みんな生きてるよ。そうだよね?」

「クゥ!」


 再生のリンゴ係を命じたアルム兎がひょこひょこ頷く。


「リビカ、ありがとう! ありがとう!」

「気にしないで。それより、先輩たちを見てあげたら」

「あ、ああ!」


 口々に礼を言われるので、倒れている者らの世話をするように言っておく。まぁ、傷は塞がっているようなので、そのうち目を覚ますだろうが。


「結局、何だったんです? それに、この鳥みたいなのは、いったい?」

「ぺーん……」


 メイベルがブレイズペングーを見て戸惑っている。コイツ、まだ目を回してるのか。


「ペンギンよ!」

「いや、ブレイズペングーだから。幻想体だよ」


 メイベルにも離れている間の情報を共有する。といっても、語れることは多くないが。


「うっ……」

「先輩!? 大丈夫ですか!」

「ウォン……良かった。無事だったか」


 おっと。ウォンの先輩が目を覚ましたか。意外に早かったな。そのあと、少し遅れて残る二人も意識を取り戻した。


 さて、ウォンたちを含めて、彼らには伝えておかねばならないことがある。迷宮の中でなんだが、我らは会合を持つことにした。アサシンアルムらに警戒を任せたので、あのボス悪魔が戻ってきても問題はなかろう。


 我らの対面に先輩三人組、右側にウォンたち駆け出しパーティという配置で座る。


「ええと、こっちが俺達の先輩の三人組です」


 ウォンが、おずおずと言った様子で先輩三人を紹介する。が、紹介になっているのか、それ。


 先輩のほうも不服そうだ。リーダーらしき男が、ウォンを睨みつけた。


「それじゃ、説明になってないだろ。名前くらいはちゃんと伝えろ」

「いや、だって、先輩の名前はややこしんですよ!」

「そうですよ」


 ウォンの言葉を援護するようにリンたちも頷く。


「まさか、俺たちの名前を覚えてないんじゃないだろうな?」

「覚えてますけど……まぁいいや」


 諦めた様子で頷くウォン。今度こそは名前つきで、紹介をはじめた。


 まず、リーダーらしき男。戦士風の出で立ちで名前はエルムンド。


 次、もう一人の男。おそらくは斥候役で、名前はエムルード。


 最後、弓使いの女。名前はエルムッテ。


 なるほど、ややこしい。


「ええと、みんなエルム?」

「俺はエムルだ!」

「ほら、こうなるでしょ。だから、嫌なんですよ……」


 ウォンが項垂れる。何度もこういうやり取りをしたなら嫌になるかもしれんな。


「なんだって、そんなややこしい名前が揃ったんだい」


 クーリアが呆れた様子で問うと、何故か誇らしげにエルム……あー、戦士エルムが告げた。


「名前が似ていることで意気投合したのさ」


 なるほど、そういう集まりか。本人たちはそれでいいんだろうが、周囲のことも考えて欲しかった。


「それで、ええと。こっちは、昨日出会った人たちで……」


 ウォンが我らのほうを見て、口ごもった。説明に困っているようだな。ここは我らの口から語ったほうが良かろう。


 我、クーリア、メイベルの順で自己紹介をする。そして、最後が我が妹。


「アタシはミスルよ! リビカの姉で、あの子たちの師匠でもあるわ!」

「「「クゥ!」」」


 偉そうに手を組んで喋る白兎。その周囲で囃し立てる黒兎。何とも言えない光景だ。


 三人組は言葉もなく固まってしまった。ウォンたちも目を丸くして驚いている。彼らはミスルが喋るところを見たはずなのだが、まだ受け入れられていないようだ。


 まぁ、きっとすぐに慣れるさ。少なくともクラン員は慣れた。


「あー……どこから突っ込んでいいのかわからないから、とりあえず話を進めるぜ。あ、いや、進めさせてくだせぃ」


 しばらくして、戦士エルムが切り出した。口調がぎこちないのは、丁寧な言葉で喋り慣れていないせいであろう。


「普段通りの喋り方でいいよ。それで?」

「あ、ああ、すまんな。それと助かった! アンタたちのおかげで命拾いした! 礼を言わせてくれ」


 戦士エルムが深々と頭を下げると、残る二人もそれに続いた。遅れて、ウォンたちも頭を下げる。


「気にしなくていいよ。クーリアはともかく、僕たちはたまたまウォンたちと鉢合わせただけだし」

「私だって似たようなものだよ。たまたま居合わせただけだ。生き残れたのはアンタたちの運が良かっただけのことさ」

「いや、そういうわけにもいかないだろ。ウォンたちはともかく、俺たちは結構な深手を負っていたはずだ」

「私、もう弓を持てないと思っていたのに。それが癒えてるってことは……単純な治癒にはとどまらないはずよ」

「何か恩返しをさせてくれ。もちろん、治療にかかった金も払う!」


 うむ。なかなか義理深い連中のようだ。我にとっては都合が良いな。あとで話をしようと思ったが、このまま進めてしまおう。


「だったら、僕らのクランに所属してくれないかな? ウォンたちも含めて」

「あんたの……?」


 我の提案に、戦士エルムは訝しげな顔をする。代わりに、弓エルムが何か察した様子で我らを見た。


「も、もしかして、あなたたちって『逆さの鱗』なの?」


 ほほう。我らのことを知っているのか。ならば話は早い。


「そうだよ」

「い、今一番勢いのある新興クランじゃねぇか! それが、なんで俺たちなんか?」

「だって、君たち、僕らの秘密を知ってしまったでしょ? だから、さ。他のクランに所属されると困るんだよね」


 理由を告げると、エルム三人組の顔が引きつった。言い方が脅しっぽくなってしまっただろうか。これはいかんと思って、にっこり笑いかけると、何故か、より一層怯えられてしまう。ウォンたちもだ。


 どういう反応なんだ、これは。カーソンやトルスもそうだった。意味がわからん。


「ねぇ、クーリア。どう思う?」

「私は団長を尊敬しているよ」


 またそれか。


「メイベル?」

「あ、あはは……私もですよ?」


 何処を見ている。我はこっちだぞ。


「リビカ! あなたの交渉事のときの笑顔って、胡散臭すぎるわよ!」

「……ミスルには聞いてないよ」


 まったく、失礼なヤツだ!

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