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第64話 火の鳥、召喚

 ううむ、何だろうな。このチビ悪魔たちは。


 ゲルガーとかいう幻魔にシルエットは似ているが、比べるとかなり小さい。ミスルやアルム兎くらいだ。ヤツと違って攻撃も普通に通る。


 まぁ、とりあえず倒せるのだからヨシとするか。敵の正体を探るより殲滅を優先しよう。5層の魔物と比較すればかなり強いが、素のグレドにも及ばない程度だ。これなら、我の敵ではないな。


 剣と魔法で容赦なく駆逐していく。駆け出しパーティに見られているが仕方あるまい。どうやって口を塞ぐかはあとで考えることにしよう。


 ほどなくして、チビ悪魔は全滅した。やはり大した敵ではなかったな。


「ええと、ウォン、だったよね。申し訳ないけど、クーリアのところに案内してくれるかな?」


 昨日、一番よく喋っていた少年に声をかける。かなり疲労しているようなので、休憩なしで案内させるのは少々気が咎めるが、緊急事態だ。もう少し頑張ってもらうことにしよう。クーリアならば、チビ悪魔程度に遅れをとることはないだろうが万が一ということもある。敵もこのチビ悪魔だけとは限らんからな。


「クゥクゥ!」

「案内なら、この子ができるわよ?」

「ああ、そうか。ミミィがいるんだったね。だったら、君たちは――」

「俺たちも連れて行ってくれ! 足手まといになるかもしれないけど……」


 ウォンが食い下がってきた。負けん気とは違うな。もう少し切羽詰まった感じがする。


「クゥクゥ、クゥ」

「その子たちの仲間がクーリアのところで倒れてるみたいね。心配なんでしょ」


 仲間か。見たところ、昨日見た顔は全て揃っている。ということは、先輩冒険者とやらかな。


 彼らが足手まといなのは間違いない。だが、敵がこの程度ならどうとでもなる。もともとは案内を頼もうとしていたわけだしな。


 よく考えてみれば、ここで別れると後で面倒だ。口止めするために探さなければならなくなる。


「わかった、ついておいで。でも、僕らは急ぐから……メイベル、任せたよ」

「はい、わかりました。師匠はクーリアさんを助けてあげてください」

「まぁ、クーリアなら大丈夫だと思うけどね」


 ウォンたちに口を挟ませることなく、動き出す。ミミィを先頭に、僕とミスルが続く形だ。白兎たちは置いていこう。


「なるほど。ミミットとミミゼルはあの子たちを庇ったのね。あとで褒めてあげないと!」

「クゥ!」


 時々現れるチビ悪魔が進路を塞ぐが、大した脅威にはならない。話しながら排除し、ひた走る。


 やがてたどり着いたのは広めの空間。幾つかの通路と接続している大部屋だ。チビ悪魔に囲まれ、円陣を組む形でクーリアとアサシンアルムたちが戦っている。


「クーリア!」

「あなたたちも、よくやったわ!」


 囲いの一角を切り崩しながら、円陣に合流する。戦いの中、一瞥だけしてクーリアが応じた。


「団長かい。来てくれたんだね。数が多くて参ってたんだ。怪我人がいるせいで、動けなくてね」


 怪我人とは足元で転がってる三人のことであろうな。察するに、これがウォンたちの先輩か。


「生きてるの?」

「さっきまで意識はあったようだから、おそらくね。ただ血を流しすぎてる。このままじゃ危ないね」

「そう。じゃあリンゴを食べさせよう」

「それがいいね」


 ウォンたちの先輩を見殺しにしては寝覚めが悪くなる。再生のリンゴはいくらでもあるし、少し提供するくらいなんてことはない。魔法の鞄から取り出し、再召喚したアルム兎に手渡した。


「これ、食べさせておいて。無理矢理口に突っ込んでもいいから」

「クゥ!」


 リンゴの欠点を挙げるなら、気絶している者に使用しづらいことだな。まぁ、それでも充分に有用なアイテムなんだが。


 さて、これで憂いも消えた。いよいよ反攻に転じるのときだ。


「奥のデカいのがボスかな?」

「だろうね。小さいのを呼ぶだけで、攻撃はしてこないけど」


 我らを取り囲むチビ悪魔の向こう側に、ヤツらを人間サイズに拡大した悪魔がいる。まさにゲルガーを彷彿させる姿だ。


 しかし、半透明でもないし、グルドのように憑依された本体のような存在も見当たらない。


「ああ、もう! うざったいわね! リビカ、一気に薙ぎ払う手段はないの?」


 わらわら寄ってくるチビ悪魔にミスルがキレた。あいかわらず短気な妹である。


 だが、まぁ気持ちはわかる。強くはないが、とにかく邪魔だ。迂闊に踏み込むと集られて身動きが取れなくなるに違いない。そのせいで、ボスに手を出せない状態が続いていた。このままでは埒があかない。


 こういうときは範囲攻撃で薙ぎ払えばいいのだが、残念ながら我には適切なスキルがない。そういう大技は上級職業の加護で習得するのがほとんどなのだ。下級職業をつまみ食いするように育ている我には習得する機会がなかった。


 そもそも、我、レベル2だからな。上級職業の加護を授かれるレベルにない。


「あ、いや。こういうときこそ幻想体か」

「何かいい手があるのね? じゃあ、さっさとやりなさい!」

「はいはい」


 女神によって下方修正されてしまったが、チビ悪魔を薙ぎ払うくらいはできるだろう。


 さあ、出でよ。火の鳥――――ブレイズペングー!


「ぺーん!」

「なんだい、これ!?」

「ペンギンじゃない!」


 違うぞ。ブレイズペングーだ。よちよち歩きの飛べない鳥だが、鳥は鳥である。


「いけ、ブレイズペングー! ヒートウェイブだ!」

「ぺーん!」


 翼をばたつかせるブレイズペングー。呼応するように炎が波となって広がった。この攻撃で、正面にいたチビ悪魔たちの多くが倒れる。


 うむ、天晴だ! 幻想体は弱体化されたが、まだまだ戦えるな!


 さて、ボスへの道は開いたが……


「あっ、逃げるわよ!」

「待て!」


 不利を悟ったボスは躊躇いもせずに逃げ出した。追おうにも、追加で呼んだチビ悪魔が、それを遮る。


「ブレイズペングー!」

「ぺーん……」


 あ、コイツ、目を回しておる!

 これが弱体化の影響か!


 そうこうしている間に、ボス悪魔は姿を消してしまった。まんまと逃げられたか。


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