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第61話 伝授伝授

 新米の面倒はクラン員に任せて、我はミスルとメイベルを連れて第一迷宮までやってきた。目的はもちろん【師弟伝授】の伝授だ。


 第一迷宮にしたのは、ついでにテルボーから“身代わり坊主”を採集するため。クラン員を増やしたとはいえ、新米はしばらく戦力とならない。先輩クラン員もその世話に手を取られる。一時的にはむしろ負担が増えるので、少しくらいは我らで請け負わなければならないというわけだ。


 とはいえ、最優先は伝授の伝授だ。本人の強い希望でミスルから伝授することになった。


 伝授するためには、まず師となる我がそのスキルを使ってみせる必要がある。今回の場合、伝授するスキルが【師弟伝授】そのものなのが、少しややこしい。


 まず、我はメイベルに適当なスキル――今回は〈曲芸師〉の【ダンシングソード】の伝授を宣言し、同時並行でミスルにも【師弟伝授】の伝授を宣言した。この状態で我が【ダンシングソード】を使えば、メイベルがスキル仮習得状態になる。


「アタシのほうはまだ仮習得にもなってないわ」

「メイベルが正式に【ダンシングソード】を習得してから伝授が始まるんじゃないかな」

「じゃ、どんどん使ってみますね!」


 ミスルの耳を頼りに魔物を探す。テルボーなら【盗む】、それ以外ならばメイベルが【ダンシングソード】で倒した。


 ダンシングソードは踊るようなステップで敵を数度切りつける剣技だ。ここらの魔物には威力が過剰だが、スキル取得が目的なのでガンガン使っていく。


「正式取得できましたよ」

「うん。こっちでも確認できたよ。おめでとう」

「アタシも【師弟伝授】が使えるようになったわ!」


 数度の戦闘の末、ようやくミスルが【師弟伝授】を仮習得した。正式習得するには、ミスル自身が何かのスキルを他の誰かに伝授する必要がある。


「こうなるとちょっと困ったね。クラン員を連れてくれば良かったかな」


 メイベルとミスルは習得スキルが似通っている。我が使えそうなスキルを伝授で共有しているので当然だ。だが、その弊害が出た。相手が習得済みのスキルを伝授することができない。そのせいで、【師弟伝授】習得のために伝授するスキルがないのだ。


 とはいえ、クラン員はクラン員で仕事がある。新米の世話まであるのだ。その上、ミスルのスキル習得にまで突き合わせるのはな。


 だが、ミスルは不敵に笑ってみせる。


「あら、それなら問題ないわ。アタシ、弟子に不足してないのよ!」

「弟子って……まさか!?」

「そのまさかよ!」


 ミスルが呼び出したのは、やはりアルム兎だった。コイツ、何匹同時召喚するつもりなのだ。


「幻想体にスキルを伝授するの?」

「そうよ? 問題ある?」


 問題というか、普通なら不可能だ。幻想体は再召喚がたやすい代わりに成長しない存在なので。しかし、その常識は少し前に覆されたばかりである。


 まぁ、上手くいけば儲けもの。失敗しても損はないのだ。試してみれば良いか。


「いや、問題はないよ」

「そうこなくっちゃ! じゃ、早速試してみるわよ!」

「クゥ!」


 次の魔物で早速伝授を試みる。対象として選んだのは【盗む】だ。戦闘力のないノーマルアルム兎に習得させるならば悪くない選択だろう。


「じゃあ、やって見せるわよ。よく見てなさい」

「クゥ!」


 敵はマッシュリザード。まずは、ミスルがやってみせ、それをアルム兎がじっと見守る。


「どう?」

「クゥ!」

「なら、やってみなさい!」


 ミスルがマッシュリザードを押さえつけた。兎とは思えない怪力なので、それだけでマッシュリザードは動けなくなる。安全に【盗む】が試せる環境だ。


 その状態で、アルム兎が数度で手を動かした。そして、ついにその手にはキノコが!


「クゥ!!!」

「でかしたわ!」


 ぴょんぴょん跳ねるアルム兎に、ミスルが駆け寄る。自由になったトカゲが噛みつこうとするのを適当にいなしながら、弟子を褒めている。


「本当にできちゃったね……」

「ウサちゃん、凄いです!」


 試してみればいいとは思ったが、いざ成功するところを見ると呆然してしまうう。いかんな、我もまだまだ常識に囚われているということか。


「さあ、まだ仮習得しただけよ。何度も繰り返して正式に習得するのよ!」

「クゥ!」

「ふふふ……思ったとおりね! これで、最強の兎軍団が作れるわ!」


 やけに【師弟伝授】の伝授を推してくると思ったら……コイツ、そんなことを考えていてのか。


「ミスル……クランのことを考えて提案してのかと思ったのに」

「そ、それはもちろんそうよ! さっきのは、ついで! ついでの目標よ!」


 我が冷ややかな視線を向けると、ミスルがわたわた慌てはじめた。


「本当に?」

「本当よ! リビカの負担が減るのは間違いないでしょ? それに考えてみて。幻想体にスキルを伝授できることの有用性を! クラン員でもアルム兎1匹くらいなら召喚できるでしょ? その子たちにも【盗む】を覚えさせれば……」

「お、おお……?」


 最初に手間はかかるが、それなら労働力は倍増する。クラン員たちの負担も減るだろう。間違いなく有効な手立てだ。


「さすがは、ミスル! こういう悪知恵は働かせれば右に出る者はいないね!」

「それって……褒めてるのかしら?」


 何が気に入らないのか、ミスルがジロリと睨みつけてくる。もちろん、褒めているとも。


「ク、クゥ!」

「あ、忘れてた!」


 言い訳に忙しくなったミスルがマッシュリザードを自由にしてしまった。相手をしていたアルム兎から泣きが入ったので、慌てて助けに入る。


 ミスルの思惑はともかく、この発見は大きいぞ。クランが今後も発展することは間違いなし。きっと、我らの復讐の力になってくれることだろう。

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