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第60話 増員と業務効率化の一手

「もう大丈夫だからね!」

「団長は面白いよー」

「ご飯もたくさん食べられるからね」

「はい、このリンゴを食べて」


 新しく買った奴隷は10人。条件は前回と同じく、体に軽度の障害がある子供だ。障害に関しては候補がいなければ条件から外しても良かったのだが、問題なく買えてしまった。何とも世知辛い世の中である。


 新米クラン員たちの表情は暗く、反応が鈍い。今は元気になった先輩クラン員たちも以前はそうだったので、しばらくすれば彼らも立ち直るであろう。それまでは、我もフォローに回らねばなるまい。


 まぁ、しっかり活動できるようになるのは一週間後くらいになるかな。前回はクーリアが甲斐甲斐しく動いてくれたので、その彼女が不在となるのは不安要員だ。だが、心配はいらんだろう。先輩クラン員たちが動いてくれている。


「みんな今日はゆっくり休んでね。明日からはクランのことを少しずつ説明していくから。危険なことはさせないから、安心して。困ったことがあったら、僕でも他の誰かでもいいから遠慮なく聞いてね 」


 我の言葉も届いているのか、いないのか。微かに頷いている者もいるので聞こえてはいるのだろうが……まぁ、焦ってはいかんな。


「ミスルちゃん。一緒に寝てあげてよ」


 新米たちの様子を心配してか、クラン員の一人がそんな提案をした。そういえば、彼らがうちに来たときにはミスルが添い寝をしてやっていたな。


「うーん、ごめんね。アタシはちょっと用事があるのよ」

「……え、喋った?」


 新米の一人が思わずといった様子で呟いた。他の9名もポカンと口を開けている。


 もはや当たり前になっていて不思議にも思わないが、普通の兎は喋らない。新米たちには良い刺激になったらしい。


 視線を集めたミスルも重々しく頷く。


「いいこと、あなたたち。このクランの団長――そこのリビカはいろいろおかしいの。これくらいのことで驚いていては駄目よ!」


 いや、喋る兎に言われたくはないのだが。しかし、クラン員たちも笑顔で頷いている。そんな認識なのか、我。


 新米たちは目を白黒させているが、さきほどまであった無気力感が消えているように思えた。不本意ながら、ミスルの存在と我に対する無礼な言動が、新米たちには良い刺激になったようだ。その功績に免じて、おかしい呼ばわりは不問にしてやろうじゃないか。


「ミスル、アルム兎を出してあげたら」

「そうね」


 我の要請に応えて、ミスルが次々とアルム兎を召喚した。その数5体。本当に召喚コストはどうなっているのか。


 ちなみに呼び出したのは黒化していないノーマルなアルム兎である。アサシンたちはクーリアに同行させているので、この場にはいないのだ。


「クゥ?」

「あの子たちを見守ってあげなさい」

「クゥ!」


 ミスルの指示で、ぴょこぴょこと新米たちに歩み寄るアルム兎たち。まだエイギルという存在を知らないせいか、大人しく可愛いらしい。その様子に新米たちも和んだようだ。表情が明らかに柔らかくなった。


 うむうむ。この調子なら、新米たちも直に馴染むであろう。


「ところで、ミスルちゃん。用事って何のこと?」


 新米たちが先輩に伴われてホールから出ていく。その様子を見守りつつ、メイベルが口を開いた。


「ああ、うん。リビカに提案があるのよ」


 用事というのは、我にだったらしい。改めてなんなのだろうか?


「提案って?」

「師弟伝授のことよ。今はリビカが直々にやってるでしょ。でも、それだと大変よね。今後もクラン員を増やすとなったら」


 今のところ、クラン員をさらに増員する予定はない。だが、欲しいレアアイテムが増えればそうなる可能性は充分にある。そのたびに我が師弟伝授をしなければならないのは大変だ。


「でも、しょうがないじゃない。師弟伝授は僕にしかできないんだから」

「それよ! だからね。師弟伝授を師弟伝授すればいいじゃない?」

「はぇ?」


 くっ……我としたことが。あまりに突拍子もない発言を聞いたせいで、間抜けな声が漏れてしまったではないか。


 師弟伝授はスキルではない。我に宿るかつての理の名残りだ。当然、それ自体を伝授することできない。


 だが……本当にそうだろうか。様々な歪みが生じている現状、あり得ないと断言もできない。


 いや、待てよ。スキルでないならスキルにすればいいのではないか。我にはそのための手段――SPがある。


 SPを捧げ、成長したい方向性を祈れば、それに応じたスキルが獲得できるのだ。ただし、この世界には捧げるべき相手がいない。本来ならば無用の長物だが、そこは我がちょこちょこ細工をすれば万事解決だ。適当に祈る先をいじってやればよかろう。


 問題は誰に祈りを捧げるか、だな。まず思い浮かぶのはルディアナだ。しかし、彼女はな。我への扱いが雑になってきている。本来ならば、それが正しい在り方なのだが、今回はちょっとな。我の要求が通らないかもしれない。とはいえ、他に神の知り合いなど……


「ああ、職業神でいいか」

「え、何の話ですか?」

「ううん。こっちのこと」

「また何か思いついたのね! 期待してるわよ!」


 不思議そうな顔のメイベルと、期待するような表情のミスル。この辺りは、付き合いの長さによる違いだろうか。いや、性格か?


 まあ、良いか。さっさと試してしまおう。ちょちょいと理を改変して、祈りが届く先をこの世界の職業神へと変更する。転職の女神像を通して何度もパスを確認しているので、難しいことはない。


 これでよし。あとは祈るだけだ。


 SPを捧げるので、師弟伝授をスキルにしてくれ。師弟伝授をスキルに! 師弟伝授をスキルにっ!


 さて、どうなったか。


 おお、SPが減って……スキルに【師弟伝授】があるぞ! これならば伝授できそうだ!

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