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第58話 首刈り皆伝書

「あら、それどうしたの?」

「クゥ」

「ああ。ドロップアイテムなのね」


 どうやら、先ほどの首刈り兎が落としたアイテムらしい。


「あれ? 首刈り兎の通常ドロップは兎の毛皮じゃなかったっけ?」

「そのはずだよ。こんなアイテムは見たことがないね」


 クーリアも首を傾げている。やはり、このカードは通常ドロップとは別枠らしい。


 ならば、レア枠かといえば、それも怪しい。3匹が3匹とも落とすとは思えんからなぁ。


「どんなアイテムなのかしら。気になるわね!」

「「「クゥ!」」」

「はいはい。調べるから、ちょっと待って」


 ミミィたちの期待するような視線に負けて、その場でカードの解析をすることになった。まぁ、我も気になっていたしな。


 ふむふむ。これは……!?


「ぶはっ!」

「な、何よ! ビックリするじゃない!」


 思わず噴き出した我に、ミスルがピョンと跳ねながら抗議する。だが、仕方あるまい。こんなヤバそうなアイテムが存在するとは思っていなかったのだ。


 アイテム名は“首刈り皆伝書”だ。効果は“資格ある者に首刈りの真髄を伝える”とある。


「あら、凄いじゃない!」

「それはまた、物騒だね……」


 解析結果を伝えると、ミスルとクーリアの正反対の反応を示した。我はどちらかといえば、クーリア寄りである。


「クゥ」

「クゥ?」

「クゥ、クゥ!」


 おそらく“資格ある者”であろう、アルム兎の3人はキラキラした目で、我を見上げてくる。その伸ばした手は……まぁ、カードを寄越せということなのだろうな。


「……大丈夫なの? かなり怪しいアイテムだけど」


 アイテムの効果が曖昧すぎて、何とも言えない。首刈り兎の怨念が封じ込められていて、アイテムを使用すると魔物化するとかじゃないといいのだが。


「クゥ!」

「あっ……」


 我が躊躇っていると、3匹のうち1匹が我の手から皆伝書をひったくった。ヤツは、すぐさまそれを頭上に掲げる。


 直後、その体が光に包まれた。


「クゥ……?」

「ミミィ!?」

「な、何が起きてるんだい!?」

「もしかして……」


 我には僅かばかり心当たりがある。幻想体の形態進化だ。特殊な条件を満たした幻想体が、そのあり方を変える。多くの場合、強力な個体に進化するのだが。


「まさか、本当に首刈り兎となるわけではあるまいな……?」

「嘘でしょ!? そんなの駄目よ!」


 ミスルが嘆く。が、今となっては見守るしかない。


 徐々に光が弱まっていく。全体の輪郭は変わっていないようだ。大きな変化ではないらしい。


 そして、完全に光が収まった。そこにあるのは、以前と同じように愛嬌のある兎の姿。首刈り兎のような醜悪さはない。ただし、体毛が白から黒に変化している。


 これは……どうなったんだ? 首刈り兎の体毛は白だったので、魔物化したわけではないと思うが。


「ミミィ!」

「クゥ!」


 心配して駆け寄るミスルに、ミミィが軽い調子で手を上げる。どうやら、首刈りの怨念云々は杞憂だったようだ。


「ミスル。どんな変化があったか、聞いてみてよ」

「そうね!」


 クゥクゥと興奮した様子で話すミミィから、ミスルがふんふんと聞き取る。


「基本的には、戦闘能力が高まったってところみたいね!」


 本人の意識に大きな変化はなく、単に身体能力が上昇したという認識らしい。きっかけとなるアイテムが不穏だったが、通常の形態進化だったようだ。


「クゥ!」

「アサシンアルムと呼んで欲しいそうよ!」


 ミスルの翻訳に合わせて、ミミィが演武のようなものを披露した。たしかに動きのキレが格段に上がっている。


「クゥ!」

「クゥ、クゥ!」

「はいはい、わかったよ」


 その様子を見たミミット、ミミゼルが皆伝書を寄越せとねだってくる。仕方ないので、その2匹にも手渡してやった。


「「クゥ!」」


 即座にカードを頭上に掲げる2匹。ミミットのときと同じように体が輝き、しばらくすると黒兎へと変化した。


 うむ、再現性はあるようだな。


「やったわね、ミミット、ミミゼル! この調子で、他のみんなも戦闘力アップよ!」

「「「クゥ!」」」


 ミスルは全てのアルム兎をアサシン化しようと企んでいるようだ。戦闘力アップは我としても望むところ。異存はない。


「ついでに、皆伝書のドロップ条件を調べたいね。レア枠じゃないとは思うから、そっちも調べたい」

「そうね!」

「一旦、拠点に戻るんじゃなかったのかい?」


 クーリアが呆れた調子で問うてくる。たしかに、その予定であったが。


「でも気になるし。大丈夫、ちょっと確認するだけだから」

「どうかね……団長は凝り性だからねぇ」

「だったら、ちゃっちゃっと終わらせるわよ! みんな、首刈り兎を見つけ出しなさい!」

「「「クゥ!」」」


 今ではすっかり武闘派になってしまったが、気配察知こそがアルム兎の真骨頂である。その能力が遺憾無く発揮され、我らは次々に首刈り兎を見つけ出すことができた。


 結果、アルム兎たちは残らずアサシン化し、皆伝書のドロップ条件も概ね明らかになった。


「兎が一対一の勝負で首刈り兎を倒したときだけ、ドロップするのか……」

「今まで明らかにならなかったはずだね」


 我やクーリアが一対一の戦いを挑んでも皆伝書をドロップすることはなかった。というか、そもそも一騎打ちに応じてもらえない。まぁ、相手は魔物なのだ。それが普通の反応だと思うが。


 一方、ミスルは一騎打ちを挑んで、首刈り兎を瞬殺した結果、皆伝書を獲得している。


 ということは、やはりキーとなるのは“兎”であることなんだろう。特殊な条件を満たしたときだけドロップする、条件ドロップというやつだな。


 いったい、この世界の神々は何を思って、こんな条件ドロップを設定したのか。まぁ、意外と適当だったりするものな、その辺り。経験者は語る、というヤツだ。


 ちなみに、ミスルも皆伝書を使ったが黒化することはなかった。現状、何の変化も感じられないと少し不満げである。


「レア枠は“嗜虐の御守り”か」


 名前は微妙だが、見た目はふわふわ毛玉のついた飾りだ。“弱点部位を攻撃したときのダメージを増加させる”という効果なので、悪くなさそうだ。


 さてさて、これで調査は完了だ。アルム兎たちの活躍でスムーズに進んだが、やはりそれなりに時間がかかった。そろそろ戻るとするか。

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