目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第56話 駆け出し冒険者たち

 見張りのアルム兎と戯れていた冒険者たちは、やはり駆け出しらしい。お互いに軽く自己紹介をすることになった。


 少年2人がウォンとフェス、少女2人がリンとミナという名らしい。装備から察するに、ウォンとリンが前衛、ミナが斥候で、フェスが後衛の魔法使いといったところか。わりとバランスの良さそうなパーティである。


「ともかく、袋小路の天幕には近づかないこと。いいね?」

「「「わかりました!」」」


 アルム兎のことは棚に上げて、クーリアがもう一度釘を刺す。まぁ、重要なことだ。好奇心は猫をも殺す。残念ながら、世の中、話が通じる者ばかりではないからな。慎重な行動が己の身を守ることに繋がるのだ。


「わかったならいいんだよ。それじゃ、アンタたちも気をつけて冒険を続けな」


 クーリアが締めくくる。これにて解散……のはずが、彼らは我に興味をもったらしい。


「なあなあ。お前も駆け出しだよな? 俺たちは冒険者になって半年ってところなんだ」


 聞いてもないのにウォンが話しかけてくる。叱られたばかりだというのに、あまり気にした様子もない。フェスだけが気まずげにしているが、他の二人は乗り気だ。


 どうやら、彼らは同時期に冒険者となり、それ以来パーティとして活動していたらしい。今回は交流のある先輩冒険者とともに初めての5層に挑戦するんだというようなことを誇らしげな顔で伝えられた。


「それで、リビカはどうなんだ?」

「僕? 僕も今回は5層が目標だね。とりあえずは」

「ふぅん。他にパーティメンバーはいないのかよ?」

「え、うん。今はクーリアと二人かな」


 本当は魔法倉庫の中にたくさんいるが、もれなく兎である。さすがに不審に思われるだろう。すでに手遅れかもしれないが。


「でも、クーリアさんて先輩だよね? リビカ君、普段は一人で活動してるの?」


 リンが不思議そうに尋ねてきた。


 どうやら、我のことをクーリアに引率される新人冒険者だと見ているようだ。違うとも言いがたいが、おそらく想像とはかけ離れているだろうな。まさか、クランの団長をやっているとは夢にも思うまい。


 どう説明したものかと悩んでいると、遠くからウォンたちを呼びかけるような声が聞こえてきた。どうやら、彼らを指導する先輩冒険者が心配して探しているらしい。


「げ、ヤバい! じゃあな、リビカ! また会ったら話そうぜ!」


 慌ただしく去っていく背中を見送っていると、クーリアがくつくつ笑い出した。


「なに?」

「いや、別に何でもないんだけど、ちょっとおかしくなって。そうだよね、あれが新人冒険者ってもんだよ」


 そのあと、意味ありげに我のことをジロジロ見てくる。お返しにというわけではないが、ニコリと微笑んでやると、盛大なため息をつかれた。いったい、どういう意味なのだ、それは。


「僕だって、新人なのに」

「何も知らなければ、同じに見えるかもね。それでも、実情を知ってしまうとねぇ」


 やれやれと首を振るクーリア。さっきから何なのだ。言いたいことがあるなら言えば良かろうに。


「まぁ、いいや。それより見張りにアルム兎は考えものかもね」

「ああ……そうだね。あの子たちは例外って気もするけど、舐められやすい見た目は抑止力としては機能しないかもねぇ」


 強面の冒険者と可愛い兎では、圧迫感が違う。魔物が相手ならばともかく、同業者が相手ならばこういう威圧感というのが重要になるのだろう。前者が見張りとして立っている天幕は襲いづらいからな。


「うーん。人型の幻想体に装備をつけて冒険者っぽく見せようか」

「そこまでしなくてもいいじゃないかね。どれだけ備えても襲ってくるやつは襲ってくるよ。自分の強さに根拠のない自信をもっているヤツは多いからね」

「まぁ、そうかもね」


 クーリアの言う通り、自分は強いと根拠なく信じ込んでいる者は一定数いる。無法者にはその手の連中が多いので、襲われるときには襲われるのだ。


 そうでなくとも、冒険者の強さはレベルに大きく影響を受ける。なので、熟練の冒険者ほど見た目で判断することはない。それでも兎よりは警戒心を抱かせることはできようが、誤差といえば誤差か。


 そのあと、魔法倉庫に戻り、食事をとった。先ほどの話をすると、ミスルが「なるほど、威圧感が必要なのね。考えとくわ!」と言っていたのが、不穏だ。まぁ、さすがにどうにもならんとは思うが。


 食事の後は探索再開だ。今日中に5層到着を目指す。まぁ、魔物は弱いし、クーリアの案内もあるのだ。よほどのアクシデントでもない限り、達成失敗とはなるまい。


 5層の探索は翌日以降とするつもりなので、実質的には1層を踏破するだけだ。時間的に余裕があるので、少し遠回りして、魔物を倒しながら進むことにした。


「あの……ミスル? 僕もレベル上げたいんだけど」


 冒険者とかち合う頻度も低くなり、魔物と遭遇する機会も増えた。にもかかわらず、少しもレベルが上がらない。理由はおそらく、我が動く前にアルム兎たちが倒してしまうからだ。


 魔物を倒すと、成長エネルギーいわゆる経験値が得られる。幻想体が倒した場合は、召喚者が獲得する形だ。パーティを組んでいると、経験値はパーティ内で分配される。レベルによって分配に差はあるがな。


 なので、アルム兎が魔物を倒したならば、我も経験値がもらえるはずなのだ。だが、それなりに魔物を倒したにもかかわらず、我のレベルが上がらない。まだ、レベル2なのに。


 おそらく、アルム兎たちが別パーティ扱いになっているのだ。そして、経験値を吸収している。やはり、こやつら、成長しているようだな。


「リビカは充分に強いじゃない。もう少し待ちなさいよ。この子たちには、これから因縁の敵とのがあるんだから!」

「「「クゥ!」」」


 我の要請は無慈悲にも却下された。それにしても……因縁の敵?


「え、なにそれ。聞いてないけど?」

「今、話してるじゃない」


 いや、もっと早く言えという話だ。


 一瞬エイギルのことかと思ったが、さすがにそれはあるまい。少し鍛えた程度でどうにかなる相手ではないのだ。次に思い浮かんだのが――――


「もしかして、首刈り兎のこと?」

「そうよ! 兎のイメージダウンの元凶だもの! ヤツらに、本当のかわいさってものを教えてやるのよ!」

「「「クゥゥ!」」」


 拳を振り回し演説するミスルに、アルム兎たちが首刈りポーズで応えた。絶対に何か間違えている。


 とはいえ、ここまで盛り上がってあるのではもはや止められん。というか、兎対決の結末、我も楽しみになってきた。観客気分で楽しませてもらうとするかな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?