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第47話 ホームに不審者がやってきた

 長を務める冒険者ギルドにすら顔を見せず、消息が掴めずにいたブラスト。そのヤツが姿を現した。この機会を逃す手はないと、我はヤツの居所を探らせるために幻想体のアルム兎を派遣したのだが……


「おお、ウサちゃん、こんなところにいたのか! さぁ、俺と一緒に帰ろうね?」

「クゥ! クゥ……!」


 さして時間が経っていないというのに、アルム兎が戻ってきた。しかも、予期せぬ客を連れて。どう見ても変質者にしか見えないその男は、残念ながら知り合いのベテラン冒険者、エイギルである。


「どういう状況なの、これは?」


 クランのホールで追いかけっこをする幻想体と不審者。状況がまったくわからない。


 いや、嘘だ。想像はつく。ただ信じたくない。そんな心情である。


「……とりあえず、カーミラさんを呼んでくるよ」


 そう言って、クーリアが出て行った。


 カーミラ。以前、第三迷宮で出会った冒険者だ。エイギルのパーティメンバーらしく、ヤツの扱いに長けている。今、この場に最も求められている人物と言っても過言ではない。


 クーリアの判断は間違っていないはずだ。そう認めながらも、我は思わざるを得なかった。


 アイツ――逃げたな、と。


 結果的に、我とメイベルであの不審者に対処せねばなくなった。これだから、ベテラン冒険者は侮れない。


 ちなみにミスルだが、状況を察してすぐに逃げた。身代わりのつもりか、ヤツの召喚したアルム兎を置いて。


「ク、クゥ」


 ホールで逃げ回る同胞の姿を見ていられないのか、縋るような目で我を見てくる。


 召喚者に忠実で自我が希薄な幻想体にここまでさせるとは。エイギル、恐ろしいヤツ……!


「メイベル、あれ、止められる?」

「む、無理です!」


 念のためにと尋ねてみれば、力強く首を横に振られる。まぁ、そうだろうとは思っていたが。


 やはり、アレは我がどうにかしなければならないらしい。


 正直に言えば、グレドよりよほど強敵に思える。特に、分類上は一応友好勢力なのが厄介だ。


「よし、これを使おう」

「影縛りのダガーですか。なるほど」


 普通に考えれば、同業者に使うアイテムではない。敵対行動と取られてクラン間の関係が拗れてしまう可能性もある。


 だが、この状況なら許されるだろう。先に問題を起こしたのは間違いなくヤツだ。


「クゥ……クゥ!」

「ははは! 待て〜、ウサちゃん!」


 幸いというべきかどうかはわからんが、エイギルの目にはアルム兎しか入っていないようだ。これならば、仕掛ける隙は充分にある。


 移動経路を予測し、ヤツが通りがったところで――その影にダガーを刺す!


「ぐ……が……?」

「ふぅ。上手くいった」


 エイギルは兎を追う姿で固まっている。驚いてはいるが、動き出す様子はない。影縛り成功だ。


「さすがです、師匠!」


 ホッとした様子で笑顔を浮かべるメイベル。何故だろう、かつてないほどの尊敬の眼差しを感じる。


「クゥ!」

「クゥ、クゥ!」


 逃げていた兎にもう1匹が駆け寄り、無事を喜んでいる。2匹の兎がじゃれ合う姿はなかなか微笑ましい。しかし、和んでいる場合ではなかった。


「ご……ごぉぉぉおおお! ウサ……ウサァちゃ……!」

「マ、マズい! 影縛りが解けるぞ!」

「そんな!?」

「「クゥ!?」」


 影縛りはまだ効いているはずだ。だというのに、エイギルはゆっくりと、だが確実にアルム兎たちに手を伸ばしつつある。


 まさか……まさか、強い意志で影縛りを強引に打ち破ろうというのか。ヤツの兎を渇望する心はそれほどまでに強いということなのか。


「ウサちゃ……かわ、い、い……可愛いぞぉおおお!」


 高く澄んだ音を響かせ、ダガーが砕ける。ついに、エイギルを縛る力は失われた……失われてしまった。


「ふふふ……ははは! 気づけば、ウサちゃんが2匹に! これは俺の日頃の行いが良かったからに違いないな!」

「「ク、クゥ……!」」


 こ、こら! 我の後ろに隠れるな!

 お前たち、幻想体だろうが!


「ぬ、お前は! あー……」


 エイギルが我を見て呟く。ようやく、こちら認識したらしい。名前は出てこないようだが。


「僕は――」

「団長をいじめるな!」

「ウサちゃんを守れー!」


 名乗ろうとしたとき、ホームの入り口からなだれ込む一団があった。なんのことはない。クラン員の子供たちだ。


 どうやらタイミング悪く、狩りから戻ってきたらしい。そこでこの場に出くわした。彼らがこの状況をどう見たのかはわからないが、我らの危機と判断したようだ。


「ま、待て! 俺は敵じゃない! ウサちゃんの味方だ!」


 状況に戸惑いながらもエイギルが弁明する。そこは頼むから、我らも味方の範疇に入れてくれんかな。


 だが、一定の効果はあったようで、クラン員の勢いが止まった。ただ、無条件に信じるほとではなく、疑いの目を向けている。


「団長、どうなんです?」


 クラン員の一人が尋ねてきた。我の判断を仰ごうというのだろう。


「それは、今から見極めるよ。君たちはアルム兎をここから連れ出して。アイツの目に触れないようにね」

「わかりました!」


 我の指示にキビキビ動き出すクラン員。実に頼もしい。


「お、おい! 俺は――――ぐっ!」

「はいはい。しばらくそうしていてね」


 何かいいかけたエイギルは予備の影縛りダガーで黙らせる。兎さえ視線に入れなければ、あの超常的な力も発揮されないだろう。しばらくは時間が稼げる。


 あとはカーミラさえ来てくれれば、事態は収まるはずだ。やれやれ、無駄に

疲れた。

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