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第45話 違う、そうじゃない

「はっ!?」


 気がつけば白い空間にいた。目の前には女神ルディアナ。一瞬見せた安堵の表情を引っ込めて、今は渋い表情で我を見ている。


『何をやっているのですか、リビカ様』


 うんざりとした声音を隠そうともしていない。どうやら、我は今度こそ叱られるようだ。何が起こったのかはわからんが、やらかした自覚はある。


「我はどうなったのだ?」

『肉体的には何も。魂の一部が削られたショックで気絶したのです』

「魂の一部か」


 レベルとは存在力。魂の強度と言っても間違いではない。それを削り取られるのは、魂を削るのと一緒か。わからないではないが。


「だが、グレドは平気そうだったぞ」

『グレドとは……あぁ、あの人間ですか。それはレベルの違いですよ』


 そういうことか。


 グレドのレベルは当初30を超えていた。レベルが1下がっても、削られる魂は全体で見れば小さい。一方で我のレベルは3。レベルが1下がると、全体の1/3が失われるわけで……それはまぁ気絶もするか。


「となると、低レベルでやるのは危険だな」

『まるで反省してない!? 危険どころじゃないですよ! レベルが1でも残れば存在は維持できますが、ショック死はありえますからね!』

「そ、そうか」


 なるほど、ショック死か。それは危なかった……というか、我は死にかけたのかもしれんな。それで、この場所か。うむ、やはりこの能力強化方式は危険だ。


 しかし、グレドは8まで下げても平気だった。いや、様子がおかしかったから平気とも言えないか。だが20辺りまでなら……


『ホントに懲りないな、この人は』

「……何か言ったか?」

『いえ、何も?』


 いや、絶対に言った。とはいえ、寛大な我はスルーしてやることにした。迷惑をかけている身だしな。


「ところで話は変わるが、魂を削ると何か悪い影響が出るのかな?」

『……全然変わっていませんよね?』


 女神がジト目を向けてくる。こちらも曖昧な微笑みで対抗すると、ややあって女神が盛大なため息をついた。


『はぁ、もう。レベルアップで得た魂はあとから外付けしたものなので失っても大きな影響はないです』


 ふむふむ。やはりか、念の為に聞いておいたが、女神と意見が一致したなら安心だ。


『ただ、一気に引き剥がすと精神的なダメージが大きいんです。先程言ったショック死も大袈裟ではないんですからね!』

「そうか……どのくらいのレベルなら安全だろうか?」

『この人は……!』


 おっと、怒らせたか? いや、まだだ。まだいけるはずだ。


『……わかりました、レベル30です! それなら認めましょう。ですから、30未満でやるのはやめてくださいね。心臓に悪いですから』

「30か……もう少し、まからんか?」

『駄目です! 無茶をするようでしたら、スキルを取り上げますよ!』


 ぬ……これ以上はマズいか。【盗む】を無効化されてはかなわんからな。ここが引き際だ。


「うむ、わかった。30だな。約束しよう。迷惑をかけたな」

『本当ですよ、もう。勘弁してください』


 その言葉をきっかけに、意識がぼんやりとしてくる。3度目ともなると、送り返すのも雑になってきたな。まぁ、そんなものか。





 目を覚まして視界に飛び込んできたのは3つの顔だ。


「うむ。おはよう」

「おはようじゃないわよ、馬鹿!」

「のわっ!?」


 目覚めの挨拶を告げると、白いもふもふが顔に飛びかかってきた。


「全然、大丈夫じゃないじゃないの! 馬鹿なの? 馬鹿なのね!」

「むぐぐ……」

「言い訳はきかないからね! もう! もう!」


 頭をぽかぽか叩かれる。攻撃の意思はないらしく、痛くはない。それよりも、へばりついて離れないので息が……!


「ミ、ミスルちゃん! 気持ちはわかるけど、一旦離れよう? このままじゃ師匠がまた気を失っちゃうよ」


 メイベルが引き剥がしてくれたようで、ようやく呼吸ができるようになった。深呼吸することで、人心地がつく。


「ふぅ、助かった」

「目を覚まして最初に言うことがそれかい。呑気だねぇ」


 クーリアが呆れた様子で言う。だが、これが素直な感想なので仕方がない。


 我は床に寝かせているらしい。体を起こして周囲を見回す。ここは……会議室だな。


「どのくらい気絶してた?」

「そう長い時間じゃないよ。倒れた団長に駆け寄って、声をかけていたら目を覚ましたってところかね」


 ふむ、ごく短時間だったようだな。女神と話していた時間を考えると辻褄が合わないが、まぁそんなものなのだろう。


「もう! リビカのアホ!」


 メイベルによって引き剥がされたミスルだが、今は解放されて床に座り込む我の脇腹辺りを執拗に蹴ってくる。心配をかけたようなのでしばらく好きにさせていたが、地味に痛い。


「ええい、いい加減にやめんか!」

「やめんか、じゃないわよ! あなた、アタシたちに言うべきことがあるんじゃないの!?」


 仁王立ちで我を睨みつけるミスル。視線を他所にやると、メイベルとクーリアも物言いたげな表情だ。


 なるほど。我には言うべきことがある。


「うむ。さきほどの我の提案した強化方法は低レベルでやると危険らしい。だが、レベルが30あれば問題ないそうだ。女神の許可も取った。しばらく先になるが、強化の目処は立ったな!」


 我は持ち帰った情報を共有した。知りたかった情報を得て、皆も大喜びであろう。そう思ったのだが……


「「「違う、そうじゃない!」」」


 まさかの総ツッコミである。我は、何か間違ったというのか?


 呆然とする我に、ミスルが指を突きつけた。


「まず、心配させたことを謝りなさいよ!」


 ……なるほど、それがあったか!!

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