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第42話 カミングアウト

「グレドの処刑が決まったよ。3日後、東部地区の広場でやるってさ」


 定例となっている幹部会議の場で、クーリアが報告した。昨日のこともあり、今日はクラン活動を休みとしていたのだが……律儀に情報収集していたらしい。真面目なことだ。


「3日後か。そのまで尋問を続けるつもりかな?」

「だろうね。いいのかい? 私たちのことが漏れるかもしれないけど」

「多少はね。でもまぁ、心配いらないんじゃないかな。錯乱していたから、まともな聞き取りは無理でしょ」


 昨日のうちにグレドが因われた場所については探ってある。尋問に立ち会ったわけではないが、ミスルとアルム兎がよく聞こえる耳で情報を拾ってくれた。それによれば、グレドは極度の怯えでまともに会話もままならないような状態らしい。3日という僅かな時間で情報を引き出すのは無理だろう。


 それよりも気にすべきは、団員の去就だ。


「グレドの処刑が終わったら、メイベルはどうするの?」


 彼女が冒険者となったのは復讐のためだと聞いている。それが果たされたなら、故郷に帰ると言い出しても不思議ではないが……


「もちろん、師匠たちを手伝いますよ! グレドみたいなヤツを野放しにしておけないですから!」


 うむ。変わらず残ってくれるようだ。我らの秘密を抱えているから、離れなられるとそれなりに困ったことになるところだった。


「それはありがたいよ。改めて、よろしくね」

「はい!」


 さて、組織の構成に変わりはなし。グレドの死は確実に見届ける必要があるが、この一件は終わったとみていいだろう。


「じゃ、僕からも報告。例の召喚術だけど、弱体化したから」

「そうなんですか?」

「なんだってそんなことに?」


 メイベルとクーリアは不思議そうな顔。そこにミスルが訳知り顔で解説する。


「どうせまた神様に叱られたんでしょ」

「神様に叱られた!?」

「しかも、またって……大丈夫なのかい!」


 ミスルが大袈裟に言うので、心配させてしまったではないか。


「大丈夫だよ。叱られたわけじゃなくて、謝られただけだから」

「……そっちのほうが不穏なんだけど。神に謝られるって、どうやったらそんなことに?」


 クーリアが天を仰ぐ。だが、この件に関しては、お前たちも共犯だからな。


「原因は、昨日の召喚術だよ。使ってみて分かったと思うけど、この世界の枠組みを大きく逸した力でしょ。そのまま使われると負担が大きいってことで、この世界の基準に合わせて力が抑えられたんだ」

「あ、ああ、確かに異常な強さだとは思ったけど、世界の枠組みがどうのってほどスケールが大きな話だったんだね……」


 クーリアが遠くを見つめながら呟く。


「あの、こんなことを聞いていいのかわからないですけど……どうして師匠はそんな力を扱えるんです?」


 メイベルがおずおずと聞いてきた。


 おや、この反応は……もしかして、言ってなかったか? そういえば説明が面倒だと思ったので、言ってなかった気がするな。まぁ、ざっくり伝えておくか。


「僕って、もとは異界の神だからね」

「は?」

「え?」

「ちょっと聞いてないわよ!?」


 三人とも驚いているな。特にミスル。あいかわらず、騒々しい。


「え、ミスルちゃんも知らなかったの?」

「知らないわよ!」

「何かおかしいとは思わなかったのかい?」

「リビカはいつだっておかしいわよ!」


 おい、それは悪口だろ。


「まぁ、気にしないでよ。昔の話だし。今の僕は特別な力を持たない冒険者に過ぎないから」

「特別な力を持たない、ですか?」

「それは、さすがに……」

「ほら、言ったでしょ! リビカはおかしいの! おかしいのが普通なのよ!」


 喋る兎がやかましいわ!


「とにかく、神だったのは昔の話だよ。ただ、その関係で時々おかしなことが起こると思っておいて。こっちの神も事情は理解してるから、ひどい悪さをしなければ怒ったりしないよ」

「か、軽く言うね……」


 クーリアが顔を引き攣らせている。


 ふむ。神に対して、それなりに畏れを抱いているらしい。この世界の神々はなかなかうまくやっているようだ。


「おかしなこと、ですか。それで言うと、【盗む】はどうなんでしょうか?」

「ああ、それもあったね。魔物からアイテムを好き放題盗む……これは神から見たらどうなんだろうか」


 おっと。神に畏れを抱くのは悪くないが、必要以上に怯えられても困る。【盗む】の使用を控えるなどと言い出されては厄介だ。あれは、我がクランの維持に必要な技術だからな。


「無闇に広めなければ僕らのグランで使ってもいいって許可はもらったよ。代わりに幻魔を倒すのに協力して欲しいと頼まれたけどね」

「なるほど、幻魔か。攻撃を通さない特性は厄介だからね。その対策としてというわけかい」

「【盗む】なら、確実に倒せますもんね」


 わかりやすい理由付けができるせいか、クーリアとメイベルも安心したらしい。こうなってみると、女神の提案はありがたかったな。


「じゃ、【盗む】は今後も使えるってことね! そういえば、グルガーとかグレドから盗めたアイテムって何だったのかしら? リビカのことだから、チェックしたんじゃないの?」


 ミスルが興味津々と言った様子で尋ねてくる。


 もちろん、調べてあるとも。

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