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第37話 灰色の魔物

「仲間を切り捨てるとは、なかなかのゲスだな」

「何を言う。誰しも自分が生き残ることを最優先とするのが普通であろう。ましてや協力者を冷遇するような者に巻き込まれて死ぬなど御免被る」


 まぁ、たしかに。グレドのほうもゲルガーを仲間として扱っていたようには思えん。お互いに利用し合う関係だってのならば、こうなるのは必然か。


「まぁ、彼奴あやつことなどどうでもよかろう。それよりも、どうだ。力が欲しくはないか? 私と契約を結べば、今より高みに到れるぞ」


 たった今、宿主を失ったばかりだというのに節操のないヤツだ。


 これが悪魔の囁きというヤツだろうか? しかし、危機を前にあっさりと宿主を捨てるような悪魔と取引したいと願うようなヤツはいない。


「グレドがあれだったのよ? どこが高みなのよ」

「どう考えても師匠についていったほうが強くなれますよ」

「アンタ、取引を持ちかける相手を間違えてるって」


 うむ……なんか思ってたのと、断る理由が違ったが。


「……たしかに、そうか。厄介なヤツらだ」


 挙げ句の果にはゲルガーまで納得してしまった。ふふふ……我の溢れるカリスマは悪魔の誘惑すらも跳ね除けるようだな!


「ならば、他の取引相手を探そう」


 我らを懐柔するのを諦めたらしい。ゲルガーが別の獲物を探すべく、動き出した。止めようにも、ヤツは物体をすり抜ける力を持つようだ。体を張って止めることもできない。


「どうするのよ!」

「追いかけるしかあるまい。野放しにはできん!」


 今のところ、ヤツを消滅させる方法は思いつかない。だが、せめて、行方ぐらいは把握しておかねば。我らの知らないところで被害が広がりかねない。


 ゲルガーの飛行速度はかなり速い。だが、こちらは憑依強化で能力が大幅に向上している。後をつけるのは難しく――――


「あ、あれ? 力が……!」

「くっ、憑依強化の効果が切れたか」


 しまったな。憑依強化の効果時間がさほど長くない。タイミング悪く、憑依が途切れてしまったらしい。


「団長! まずいよ! あっちにはクラン員がいる!」


 都合の悪いことに、ゲルガーが向かったのはレッサーアポの木立だ。そこにはクラン員たちがいる。というか、それに目を付けたのだろう。


「慌てるな。ヤツの狙いは契約だ。いきなり害されるようなことはない! 急げば間に合うはずだ!」

「あ、ああ、そうだね! 無事でいてくれよ……!」


 焦るクーリアを宥めて、再度憑依強化でブレイブエレメントを宿す。


 大丈夫……大丈夫だ。彼らとて、我がクラン員。簡単に悪魔の誘いに乗るはずがない。



 死神のその配下ども。とんでもない力の持ち主だ。たしかに、彼奴らが私の力を欲することはないだろう。


 だが、そんな彼奴らですら、この状態の私を殺すことは叶わなかった。くく……悪くない。この世界で、私たち幻魔に敵はいないということだ。


 とはいえ、飢えを満たすには宿主を得る必要がある。都合よく、近くに人間どもがいるな。宿主とするには微妙だが、所詮一時しのぎだ。とやかく言うまい。


 見つけたのは、20人ほどの集団。いずれも、あの死神より若い個体のようだ。これならば騙すのは難しくなかろう。


 さあ、どれを宿主とするか。


「貴様たち、力は欲しく――――」

「珍しい魔物だ!」

「ホントだ!」

「こんなのもいるんだね!」


 私が語りかけると同時に、人間どもが私を見て騒ぎはじめた。あろうことか、私を魔物だと思い込んでいる様子だ。


 なんという屈辱。しかし、激昂するわけにはいかない。落ち着かせ、甘い言葉で誘惑する。そうすれば、心の弱い人間はすぐに落ちる。


「私は魔物ではなく――――」

「ねぇ、どうする?」

「クー姉は大人しておきなさいって言ってたけど」

「でも、魔物が来たら倒しなさいって言ってたよ」

「だよねだよね!」


 く……まったく聞いておらん。落ち着け……落ち着くのだ。若い個体はこういうもの。逆に言えば、騙しやすいということでもある。根気強くいくべきだ。


「まずは話を――――」

「じゃあ、倒しちゃおう」

「そうだね!」


 た、倒す?

 こちらが対話を試みているのに?


 い、いや、問題はない。死神ですら私を殺すことはできなかったのだ。むしろ、私の力を見せつけるチャンスだ。


「じゃあ、いくよ!」


 倒すというわりに、人間どもは武器を持つ様子はない。ただ、集団で私を囲んだだけだ。


 いや、何かスキルらしきものを使ったあと、私に触れるかのように手を伸ばしだした。当然、私に触れることはできないのだが……


「やった! 盗れた!」

「俺もアタリだ!」

「あーあ、ハズレだ……」

「気にするなって。どんどんいくぞ!」


 私を囲って、わいわい騒ぎ出した人間ども。いったい、なんだと言うのだ。何かをやっているようだが、特に何の影響も……


「やった、アタリ!」

「こっちも来たぞ!」

「僕も僕も!」

「いいなー」


 突然、寒気が襲った。私という存在が薄れていくような感覚……まさか、攻撃を受けているのか!?


「ぐっ、なんだ!? 何をした?」


 問い質すも答える者はいない。ただギラギラと輝く目が、私に向けられただけだった。


「残り2つだ」

「早くもの勝ちだぞ!」

「あ、出た!」

「嘘!?」

「やった、2個目!」

「えー、ずるい!」


 な、なんなんだ! いったい、何が起こっている!?


 理解できないまま、私の意識は……

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