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第27話 リビカ&ミスルの因縁

 職業加護まで持ち出されたらば信じるほかない。どうやらグレドは生きているらしい。ダンジョン産のアイテムには、特殊な効果を持つものもある。身代わりか、死後の自動復活か。その手のアイテムがあれば、あの状況からの復活も否定できない。結局のところ、我の詰めが甘かったのだろう。


「団長たちはグレドと因縁があるのかい?」


 状況を察したクーリアが問う。このメンバーならば特に隠し立てすることもないと、我とミスルも事情を説明した。


 グレドの属するクラン『聖光の標』が第二迷宮の解放したことは広く知られている。それは間違いではないのだが、真実とも言えない。


 迷宮解放の功績。それは本来ならば解放戦で戦死したとされる者たちにこそ捧げられるべきものだ。


 第二迷宮の最奥で待ち受けていてたのは死を招く黒龍。圧倒的な強さに一部のメンバーは仲間を見捨てて戦いから逃げ出した。それだけならまだ仕方ないと言えるのだが……


「残されたメンバーは絶望に飲まれそうになりながらも死力を尽くして戦ったそうだ。そして、ついに黒龍討伐を成し遂げた」

「だけど、帰還する途中に待ち受けるヤツらがいたのよ! それが途中で逃げ出したヤツらってわけ!」


 欲に目が眩んだか、それとも仲間を見捨てて逃げたという風聞が広がるのを恐れたか。逃亡者たちは、黒龍との死闘で疲れ切った者たちを襲い、殺した。迷宮攻略の功績を奪い取ったのだ。


 つまり、今、英雄とされている『聖光の標』のメンバーは全員が卑劣な裏切り者だということだ。当然、グレドもその1人である。


「でもね、ヤツらはミスをした。アタシたちの父様を取り逃がしたのよ!」

「父に代わり、卑劣なヤツらを討つ。それが我らの使命だ」


 我らの告白にメイベルとクーリアは――ニィっと口の端を上げた。


 うむ。わかってはいたが、2人とも少々変わっているな。まぁ、それも仕方がないか。


 メイベルは我らと同じく、グレドに恨みを持つ者。そして、クーリアも何某かの事情を抱えていることは察している。同じ闇を抱える者同士、通ずるものがあるのだろうな。気づけばクラン幹部は復讐者ばかりである。まぁ、やりやすくはあるが。


「てことは、グレドとぶつかる可能性が高いんだね?」

「あんな風に目立つ形で姿を見せた以上、そうなると思う」


 ヤツと戦ったのは我が力を失う前のこと。ヤツは圧倒的な実力差を感じたはずだ。まともな判断能力があり、かつ、我から逃げようと考えるなら、ここで姿を現す理由がない。我への報復を考えていることは充分に考えられる。


「あの時点の僕に対して勝機があると判断しているのなら、かなり強力な切り札があるのかもね」

「不思議な言い回しだね……? 団長は弱体化でもしたのかい」

「ああ、うん。ちょっと事情があってね」


 クーリアの問いは曖昧に誤魔化す。神から力を取り上げられたと説明すれば、いらぬ邪推を招きそうだしな。


「そうなのよ! 今でも非常識なヤツだけど、前はもっとおかしかったのよ!」

「あまり覚えてないですけど、本当に強かったんですよ! 死神みたいでした」

「へぇ、死神……悪くないね。私たちのトップとしては相応しいんじゃないかい?」

「まぁ、首を刈るくらいアタシでもできるけどね!」


 それはそうと、我のクランの幹部たち、物騒すぎやしないだろうか。いやまぁ、目的が目的なので仕方がないとは思うが。もう少し癒やし枠が欲しい。


 それはともかく、クレドという明確な敵対者がいる以上、我らも早急に力をつけねばならない。


「手堅いのはレベル上げかな。レベル15まで上げて上級職の加護が解放できれば、また加護を成長させて能力を上げるって手が使えるし」

「強い敵が必要ってことね! それなら迷宮攻略が必要だけど……」


 ネックになるのは、やはりサバイバル生活である。さすがにこの状況で野宿は御免だとわがままを言うつもりはない。だが、多少なりとも環境を良くなるにこしたことはないのだ。


「クーリア。快適に迷宮攻略ができるようになる魔道具ってないかな?」

「魔道具? どの程度のものだい? 簡単なものなら職人に依頼して作ってもらえるけど」


 クーリアが言うには、迷宮都市には魔道具を制作する職人がいるらしい。ただし、作れるのは簡単な魔道具に限る。魔石を燃料にして、水を出したり、明かりを灯したりといった程度だ。パーティ内に魔法スキルを使える者がいない場合や、もしくはマナを節約してければ便利な道具だ。


 しかし、サバイバル生活を劇的改善するという類のものではない。その程度なら、我らは魔法で解決できるしな。


「もう少し便利な魔道具は? 魔法の鞄とか」

「その手のアイテムは全部ダンジョン産だね。大手クランが買い集めてるから簡単には手に入らないよ。通常の手段で私たちが手に入れようと思ったら、オークションが現実的だろうね」


 我らが欲するレベルの魔道具は、ダンジョンの宝箱から得られるものらしい。大手クランが獲得すればそのまま所有するだろうし、金欠クランは金を持っている大手クランに持ち込むことが多いようだ。例外的に、さらに大金が得られるオークションには出品されることがある。


「オークションか。お金はどうにかなる?」

「転移石の売買を続けていれば、資金については問題ないと思うよ。だけど、開催時期は少し先だね。それに、必ず出品されるとは限らないよ」


 それはそうか。出品される可能性があるというだけで、次回確実にという保証はない。


「確実に手に入れたいなら、大手クランと直接交渉したほうがいいだろうね。普通なら中規模クランからの交渉なんてまともに取り合ってもらえないだろうけど、ウチにはカーソンというツテがあるしね」


 ふむ、なるほど。交渉材料次第だが、どうにかなるかもしれないな。

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