石の迷宮を進む。索敵において頼りになるのはミスルだが、第三迷宮とは勝手が違うらしい。
「反響して音がわかりづらいわね」
「そんなもの?」
「方向がわかっても、壁の向こうだったりするし」
「それは、確かにわかりづらいですね」
音がした方向に敵がいるとわかっても、その方向に真っ直ぐ進めるとは限らない。そのため、少々やりづらさがあるようだ。
「まぁ、とりあえず道なりに進んでいこう」
「そうね」
「了解です!」
通路に従って進むしかないので、分岐があるまで進んでみようということになった。ある程度すすんだところで、ミスルが告げる。
「前から何かくるわね。人間って感じじゃないわ」
「魔物かな」
「きっとそうね!」
しばらくして、前方から現れたのは背中からキノコが生えたトカゲ――マッシュリザードだ。【盗む】を試すには都合よく、1匹のみである。
「まずは普通に盗んでみようか」
「何が出るかしらね!」
のそのそ歩くトカゲを取り囲み、三人で【盗む】を実行する。最初にアイテムを得たのは我だった。
「これは……キノコだね」
「盗んだあとも、背中からは生えたままなんですね」
メイベルが不思議そうな顔をする。今更と言えば今更だが、確かに謎だ。いったい、何処から湧き出しているのか。何度も盗むと死んでしまうことを考えると、魔物の生命力をアイテムに変換しているのかもしれんな。
「でも、見た目は背中のキノコと同じね。魔物から生えるキノコって、何だか食欲なくすわね……」
「え? でも、ミスルちゃん、美味しいって食べてるよね?」
「嘘よ!?」
嘘ではない。名前がややこしいが、マッシュリザードがドロップするキノコはリザードマッシュと呼ばれる。迷宮都市では広く食べられる食用キノコだ。
ミスルも気に入っているようだが、味は悪くない。駆け出しでも持ち帰れるので広く出回るのも当然である。そのせいで、高額買い取り価格は望めないが。
「次はレア枠を試してみよう」
身動きを封じるためにトカゲをひっくり返しながら、指示を出す。レア枠を狙うなら【一か八か】を事前に使ってから盗めば良い。
「採れました!」
最初に【盗む】を成功させたのはメイベルだ。
掲げた右手に握られているのはキノコ。しかし、明らかにリザードマッシュとは明らかに別物だ。
あちらは白一色でシンプルな形状。安易に判断するのは危険だが、食べても安全そうな姿形をしている。
一方、レア枠キノコは極彩色でケバケバしい。全身でヤバいと主張しているような見た目である。
「食べられるのかしら……?」
「僕はちょっと遠慮したいかな……」
「毒々しいですよね」
もしかすると貴重なアイテムかもしれないが、正体不明の現状では進んで集めたいとは思えない。ひとまず、マッシュリザードは【盗む】対象から外しておこう。
ノーマルキノコも特に必要ないので、トカゲは経験値になってもらった。女神との邂逅でレベル1になってから初の経験値である。
「レベルは上がった?」
「流石に1匹倒したくらいじゃ無理だよ」
とはいえ、今日中に1つか2つは上がるだろうが。低レベル時はレベルが上がりやすいのでな。
トカゲの次に遭遇したのは人形系の魔物であるテルボー。例えるなら、こいつは布切れで作った簡素な人形だろうか。顔のない丸い頭と胴体との間に首はなく、紐で縛られたようになっている。大きさは我らの半分ほど。足はなく、ふよふよ宙に浮いている。少々不気味だが、たいして強くはない。
盗めたアイテムはノーマル枠がテルボー布。特に何の変哲もない真っ白な布だ。とはいえ、この布のおかげで意外にも迷宮都市では服飾産業が盛んらしい。買い取り価格はリザードマッシュよりも高く銅貨3枚である。駆け出し冒険者にとっては狙い目らしいが、クランを立ち上げた我らにとっては魅力的とは言えない。
レア枠はテルボーを小型化したような人形だった。効果は不明だ。
第三迷宮にもいたゴブリンとも遭遇した。盗めるアイテムに違いはなし。それだけ確かめて経験値になってもらう。
「うーん。あまり貴重そうなアイテムはないね」
「レア枠次第じゃないですか? 転移石も見た目はただの小石だったわけですし」
「鑑定してもらわないとわからないってことね」
集めるとしたら、レア枠のキノコと謎人形である。しかし、大量確保したあとに微妙なアイテムだと判明した場合、徒労感が大きいのだよな。
うむ、一通り確保したということで満足しておくか。いざとなれば、いつでも集められる……というより、必要ならクラン員に収集を任せればよいのだ。やはり、クランを作って正解であったな。
「もう普通に倒しちゃおうか」
「そうね! アタシの強さを見せつけてあげるわ!」
「ミスル。調子にならないようにね」
とは言ったものの、我らの能力はレベルに対して格段に強い。【盗む】を試みなくなると一撃必殺で敵が倒れるので、探索はさくさく進む。さらに数度の戦闘を経て、我は自分の体に違和感を覚えた。
「んん?」
「どうしたんですか師匠?」
「いや、たぶんレベルが上がったんだと思うんだけど……」
「なによ、はっきりしないわね!」
そんなことを言われても、我にもよくわからんのだから仕方がない。とりあえず、我が能力を確認してみるか。
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リビカ
職業加護:ギャンブラー
レベル:2
生 命:52 [↑16]
マ ナ:25 [↑ 7]
腕 力:37
魔 力:32
体 力:35
精 神:31
敏 捷:34
幸 運:26 [↑ 2]
残りSP:1
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レベルアップごとの能力値上昇は基本的に2つである。今回は幸運が2つ上がったようだ。生命力、マナは多少誤差があるものの、体力の半分と魔力の1/4が上昇する。こちらもそのルールから大きく外れるものではない。
では、違和感の正体は何なのか。
……ん?
残りSPだと……?