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第24話 初レベルアップ


 石の迷宮を進む。索敵において頼りになるのはミスルだが、第三迷宮とは勝手が違うらしい。


「反響して音がわかりづらいわね」

「そんなもの?」

「方向がわかっても、壁の向こうだったりするし」

「それは、確かにわかりづらいですね」


 音がした方向に敵がいるとわかっても、その方向に真っ直ぐ進めるとは限らない。そのため、少々やりづらさがあるようだ。


「まぁ、とりあえず道なりに進んでいこう」

「そうね」

「了解です!」


 通路に従って進むしかないので、分岐があるまで進んでみようということになった。ある程度すすんだところで、ミスルが告げる。


「前から何かくるわね。人間って感じじゃないわ」

「魔物かな」

「きっとそうね!」


 しばらくして、前方から現れたのは背中からキノコが生えたトカゲ――マッシュリザードだ。【盗む】を試すには都合よく、1匹のみである。


「まずは普通に盗んでみようか」

「何が出るかしらね!」


 のそのそ歩くトカゲを取り囲み、三人で【盗む】を実行する。最初にアイテムを得たのは我だった。


「これは……キノコだね」

「盗んだあとも、背中からは生えたままなんですね」


 メイベルが不思議そうな顔をする。今更と言えば今更だが、確かに謎だ。いったい、何処から湧き出しているのか。何度も盗むと死んでしまうことを考えると、魔物の生命力をアイテムに変換しているのかもしれんな。


「でも、見た目は背中のキノコと同じね。魔物から生えるキノコって、何だか食欲なくすわね……」

「え? でも、ミスルちゃん、美味しいって食べてるよね?」

「嘘よ!?」


 嘘ではない。名前がややこしいが、マッシュリザードがドロップするキノコはリザードマッシュと呼ばれる。迷宮都市では広く食べられる食用キノコだ。


 ミスルも気に入っているようだが、味は悪くない。駆け出しでも持ち帰れるので広く出回るのも当然である。そのせいで、高額買い取り価格は望めないが。


「次はレア枠を試してみよう」


 身動きを封じるためにトカゲをひっくり返しながら、指示を出す。レア枠を狙うなら【一か八か】を事前に使ってから盗めば良い。


「採れました!」


 最初に【盗む】を成功させたのはメイベルだ。


 掲げた右手に握られているのはキノコ。しかし、明らかにリザードマッシュとは明らかに別物だ。


 あちらは白一色でシンプルな形状。安易に判断するのは危険だが、食べても安全そうな姿形をしている。


 一方、レア枠キノコは極彩色でケバケバしい。全身でヤバいと主張しているような見た目である。


「食べられるのかしら……?」

「僕はちょっと遠慮したいかな……」

「毒々しいですよね」


 もしかすると貴重なアイテムかもしれないが、正体不明の現状では進んで集めたいとは思えない。ひとまず、マッシュリザードは【盗む】対象から外しておこう。


 ノーマルキノコも特に必要ないので、トカゲは経験値になってもらった。女神との邂逅でレベル1になってから初の経験値である。


「レベルは上がった?」

「流石に1匹倒したくらいじゃ無理だよ」


 とはいえ、今日中に1つか2つは上がるだろうが。低レベル時はレベルが上がりやすいのでな。


 トカゲの次に遭遇したのは人形系の魔物であるテルボー。例えるなら、こいつは布切れで作った簡素な人形だろうか。顔のない丸い頭と胴体との間に首はなく、紐で縛られたようになっている。大きさは我らの半分ほど。足はなく、ふよふよ宙に浮いている。少々不気味だが、たいして強くはない。


 盗めたアイテムはノーマル枠がテルボー布。特に何の変哲もない真っ白な布だ。とはいえ、この布のおかげで意外にも迷宮都市では服飾産業が盛んらしい。買い取り価格はリザードマッシュよりも高く銅貨3枚である。駆け出し冒険者にとっては狙い目らしいが、クランを立ち上げた我らにとっては魅力的とは言えない。


 レア枠はテルボーを小型化したような人形だった。効果は不明だ。


 第三迷宮にもいたゴブリンとも遭遇した。盗めるアイテムに違いはなし。それだけ確かめて経験値になってもらう。


「うーん。あまり貴重そうなアイテムはないね」

「レア枠次第じゃないですか? 転移石も見た目はただの小石だったわけですし」

「鑑定してもらわないとわからないってことね」


 集めるとしたら、レア枠のキノコと謎人形である。しかし、大量確保したあとに微妙なアイテムだと判明した場合、徒労感が大きいのだよな。


 うむ、一通り確保したということで満足しておくか。いざとなれば、いつでも集められる……というより、必要ならクラン員に収集を任せればよいのだ。やはり、クランを作って正解であったな。


「もう普通に倒しちゃおうか」

「そうね! アタシの強さを見せつけてあげるわ!」

「ミスル。調子にならないようにね」


 とは言ったものの、我らの能力はレベルに対して格段に強い。【盗む】を試みなくなると一撃必殺で敵が倒れるので、探索はさくさく進む。さらに数度の戦闘を経て、我は自分の体に違和感を覚えた。


「んん?」

「どうしたんですか師匠?」

「いや、たぶんレベルが上がったんだと思うんだけど……」

「なによ、はっきりしないわね!」


 そんなことを言われても、我にもよくわからんのだから仕方がない。とりあえず、我が能力を確認してみるか。


 ――――

リビカ

職業加護:ギャンブラー

レベル:2

生 命:52 [↑16] 

マ ナ:25 [↑ 7]

腕 力:37

魔 力:32

体 力:35

精 神:31

敏 捷:34

幸 運:26 [↑ 2]


残りSP:1

――――


 レベルアップごとの能力値上昇は基本的に2つである。今回は幸運が2つ上がったようだ。生命力、マナは多少誤差があるものの、体力の半分と魔力の1/4が上昇する。こちらもそのルールから大きく外れるものではない。


 では、違和感の正体は何なのか。


 ……ん?

 残りSPだと……?


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