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第20話 クラン『逆さの鱗』

「それでは第一回クラン会議をはじめます」


 我が立ち上げたクラン『逆さの鱗』のホーム――要は拠点である――の会議室に幹部が集結した。と言っても、代わり映えのない顔ぶれであるが。


「まずはみんなの役割を発表しとこうか。団長は一応、僕、リビカね」


 我がそう言うとパラパラと拍手がなった。まぁ、全員で我含めて四人しかいないので盛り上がりに欠けるのは仕方ない。


「で、副団長はメイベルね」

「よろしくおねがいします!」

「なんでアタシじゃないのよ!」

「兎だからだよ」


 ほぼ飾りなので誰でもいいのだが、ミスルだけは無理だ。対外的に公表されるので、兎が副団長では受理されない。


「そういうことなら仕方がないわね! それでアタシは?」

「相談役だね」

「いいわね! なんでも相談しなさい!」


 ミスルがぴょんぴょんと跳ねてやる気をアピールしているが……まぁ、適当に設定した役職なので基本的に仕事はない。


 そもそも団長含めてお飾りの予定だ。実質的にクランを運営するのは四人目の幹部の仕事になる。


「最後が実務部長。これはクーリアに任せるよ」

「はぁ……私には荷が重いと思うんだけどねぇ。そもそも奴隷が幹部とか、どうなってんのよ」


 ため息混じりにぼやくのが、我がクランの四人目の幹部であるクーリアだ。長身の女性で、左目の眼帯のせいで多少厳つい。


「と言っても、僕ら以外は全員奴隷だし」

「構成員の大半が奴隷っていうのがまずありえないのよ」

「ありえないってことはないって。ここにあるんだから」

「いや、そうなんだけどね」


 クーリアが何と言おうと、我らはギルドから正式に認められたクランである。少々手続きが難航したのは事実だが、我がクランの有用性を説明してどうにか認めさせた。


 正直にいえば、我もここまでするつもりはなかったんだがな。我らは復讐者。日陰を歩み、決して目立たず、静かに目的を果たす。それが我らの本懐なのだから。


 だが、我のちょっとした不手際で、意外にも注目を集めてしまった。もはや、目立たずに活動することなど不可能と居直ることにしたのだ。


 まったく、10日ばかりマラソンをしただけというのにな。


「まぁまぁ、クラン最年長としてみんなを導いてよ」

「最年長って、私だってまだ20なんだけど?」


 不服そうだが、事実である。


 我がクラン『逆さの鱗』の構成員はミスルを含めて24名。そのうち、21名が奴隷だ。クーリアを除けばみな我よりも年下のため、クラン平均年齢は驚きの13歳。そりゃ、ギルドも難色を示すというものである。


 とはいえ、我らは攻略系クランではない。何と評したものかわからないが、あえて言えば採集系だろうか。危険な戦闘をさせるつもりではないので、子供でも充分に仕事が務まるはずだ。


「クラン員の様子はどうかな?」

「素直に働いてるよ。私もそうだけど、みんな団長に恩があるからね」

「ちゃんと働いてくれたら、必要以上に恩義を感じる必要はないんだけどね」

「そう言っても、普通は奴隷相手にここまでしないからね」


 クーリアの言う恩は、“再生のリンゴ(弱)”を提供したことであろう。


 クラン員とする奴隷を購入するにあたって、我は“多少体に障害がある子供”という条件で探した。理由はいくつかあるが、最も大きいのは購入コストの削減だ。


 迷宮都市において奴隷に期待される役割は、主に肉体的な労働力。体力や筋力で劣る子供や体が不自由な者の評価は低い。


 ところが、我らはレッサーアポからいくらでも入手できる“再生のリンゴ(弱)”で小規模な欠損を治療できる。そのため、そのよう安価な奴隷を購入して、後ほど治療することでコストカットを計ったというわけだ。


 つまり、再生のリンゴを与えたのは組織運営上の都合であり、特別に恩義を感じる必要はないのだが……まぁ、仕事を張り切ってくれるのはありがたい。その分、待遇などで報いれば良いか。


「さて、活動一日目の報告を聞こうか」


 カーソンから巻き上げ……いや、正当な取引によって得た金貨100枚を元手にクラン立ち上げようと動き出したのが一週間前だ。奴隷の購入費用、および彼らの生活物資の購入で8割ほどが早々に消えた。


 立ち上げが終わっても資金は必要だ。24人分の生活費やホームの賃貸料が維持費としてかかる。また、クラン員への支払いも必要だ。大半は奴隷だが、彼らを使い潰すつもりはない。雇用契約のようなものと考え、働きに応じて給与を支払うつもりである。


 というわけで、我らには相応の収益が必要なのだ。


「収益は予定通り確保できた?」

「そりゃもちろん。金貨10枚程度はね」

「「おぉ!」」


 メイベルとミスルが嬉しそうに声を上げる。我としても満足な結果だ。


「うん。悪くない結果だね」

「悪くないというか……何と言ったらいいのかわからないよ、私は」


 上々の結果にもかかわらず、クーリアの顔は冴えない。不服というよりは戸惑っているという様子だ。まだ我らのやり方には慣れないといったところかな。


 クーリアが引率したとはいえ、冒険者登録したばかりの子供たちで金貨10枚の収益を上げるなど、普通は無理だ。当然からくりがある。我はクラン員全員に師弟伝授で【盗む】と【一か八か】というスキルを授けたのだ。


 【盗む】のほうは言わずもがな。我がクランの活動を支える肝となるスキルだ。大変有用だが、レアアイテム集めにおいて7回成功させると対象が死んでしまう特性は少し厄介だ。レア枠からアイテムが盗める確率は体感で1割以下。1体が倒れる前にレア枠のアイテムが1度も出ないということもざらにある。


 それを補うのが【一か八か】だ。もとはギャンブラーのスキルで、直後の行動の成功率を下げるかわりに、成功時の結果を大幅によくする。


 この二つを組み合わせるとどうなるか。盗みの成功率が一割以下まで落ちるが、成功した場合にはほぼ確定でレア枠のアイテムが盗めるのだ。スライムでいえば、転移石だな。


 クーリアがため息を吐いてから報告を続ける。


「本日の成果は転移石35個、再生のリンゴが14個だね。そのうち転移石10個を納品したよ」

「おお、凄い凄い!」


 初日にして予想以上の成果だ。素直に賛美したのとが、クーリアは首を横に振る。


「凄い、じゃないのよ。凄すぎるの。こんなことをやってたら大手クランに目をつけられるよ」


 まぁ、それについては『切り裂き旋風』に目をつけられた時点で手遅れだ。だからこそ方針転換したのだからな。


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