奴隷による戦力補強を閃いた我は――――カーソンとの取引をすることにした。
いやはや、当たり前のことだが、奴隷を買うにも金が必要なのだ。無い袖は振れない。ならば、まずは資金調達は必須事項というわけだ。
本末転倒な気もするが、充分な戦力が確保できればよその圧力を跳ね除けることができる。言いなりになるのではなく、我らが力をつけるためのヤツらを利用してやろうというわけだ。
ギルドを経由してカーソンと連絡をとった我はヤツとの商談に臨んだ。指定されたのは見るからに高級店である。入口で品の良い店員にカーソンの名を告げると、そのまま個室に案内された。
「よく来たな! リビカといったか? まぁ、座れよ」
個室にはテーブルがひとつ。カーソンに勧められるまま対面の席につく。
「今日は一人なんだな」
「はい。カーソンさんを信用していないわけじゃないんですが……」
「いや、いいさ。俺たちは転移石さえ手に入るならな」
我の言葉に、カーソンが苦笑いを浮かべた。どうやら、我の意図が正しく伝わったようだ。
メイベルはギルドで待機させている。きっと尾行からの報告でカーソンも把握していることだろう。
その上で我の台詞だ。きっと、“おかしな真似をしたら仲間がギルドに駆け込んでやるからな”と受け取ってくれたことであろう。
まぁ、最初の接触ではけんもほろろに断ったからな。このくらい慎重な態度ではないと、かえって怪しまれると思ったのだ。
「料理を頼むか?」
「いえ、取引さえできれば、僕はそれで」
「本当にせっかちなヤツだな……」
さっさと取引を進めよと告げると、カーソンは再び苦笑いだ。
いや、我も高級店の料理に興味はあるのだが、どうせなら面倒事を解決したあとに気兼ねなく食べたい。駆け引きの一環のような状況で食べても、あまり楽しめそうにないからな。この商談さえ成れば金はできるのだし、そうなったらみんなで来れば良い。
「まぁいい。約束通り、転移石を金貨10枚で買い取る。もし、転移石の入手方法込みなら100枚でもいいぞ」
おっと、意外と真っ直ぐな交渉を仕掛けてきたな。我らが取引に応じる構えを見せたので、路線変更したようだ。情報を探る手間を考えれば、その程度支払っても惜しくはないといったところか。
だが、残念ながらその提案には乗れない。いや、教えるのは構わないんだがな。
「それはやめておいたほうがいいですよ」
「なぜだ?」
「カーソンさんには実現できない方法なので」
「……聞いてみなければわからないだろ?」
「いえ、申し訳ないですけど、信じてもらえないとわかりきってますから」
「そうかい」
我が頑なに否定すると、カーソンは不機嫌そうに黙り込んだ。仕方なく我のほうから話を続ける。
「ところで、転移石はいくつまで買い取ってもらえますか?」
「……いくつまで、だって?」
さすがに無視できなかったのか、カーソンが口を開く。ピンときていない様子だったので、我は用意していた袋を逆さにし、転移石をばらまいてみせた。全部で十数個あるはずだ。
「なっ!? これ、全部、転移石か?」
この展開は予想していなかったらしく、カーソンは思わずといった様子で立ち上がる。近くに転がってきた転移石を拾い上げて、唸った。
「本物ですよね?」
「そ、そうだな。これをこの短期間で?」
「はい」
我の返事でカーソンがますます唸る。実際には、コイツとの接触前日に確保したものがほとんどなのだが、ほんの一日の違いだ。誤差のようなものである。
「カーソンさん、僕たちに尾行をつけてましたよね?」
「ど、どうしてそれを……!」
気づかれているとは思っていなかったようだ。カーソンの声が震えている。
「いやまあ、それはどうでもいいじゃないですか」
我はあえてはぐらかした。ミスルのことを明かすわけにはいかんしな。ニコリと笑ってみせると、カーソンはごくりと唾を飲む。
「どうでした? 転移石の入手に繋がりそうな行動は見つかりましたか?」
「いや……」
「ふふふ、意地悪なことを聞きましたか。見つかっていたら、僕らと取引する必要なんてないですよね」
「それは……」
畳みかける我に、カーソンは言葉に詰まってろくに話せない。今や、完全に我のペースだ。
「おっと、脱線してしまいましたね。話を戻しましょう。それで、幾つまで買い取れますか? たしか、さきほどの話では金貨100枚くらいは用意できそうでしたよね」
「いや、それは……」
「大丈夫、わかってますよ。あれは入手方法を教えることが条件ですからね。カーソンさんの役に立つとは思えないですけど、教えるのは構いませんよ。それくらいおまけでつけましょう」
もちろん、教えるのは【盗む】のほうではなく、スライムがドロップするという情報だが。
「お、おまけ? お前、いったい何を言っている? な、何が狙いだ!」
親切心で情報までつけると言ったというのに、カーソンは混乱しておかしなことを言いはじめた。狙いもなにも、そちらから持ちかけてきた取引だろうに。
「狙いなんてないですよ。僕らはただ、カーソンさん……いや『切り裂き旋風』から恨まれたくない。穏便にことを収めたいだけなんです」
「お、穏便に……?」
どうして、そこで不思議そうな顔をする。別に脅したわけでもなし、実に穏便な話し合いだろうが。お前が勝手に雰囲気に飲まれただけだぞ。
まぁ、あえて指摘することでもないか。ここは一気に畳み込む場面だ。
「もし、転移石を10個以上買い取ってくれるなら、カーソンさんだけに特別なサービスを提供するつもりです。とってもお得ですよ?」
ニッコリと笑ってみせると、カーソンは何故か怯んだ。
「な、何を企んでる? 俺に何をさせるつもりだ!」
いや、だからただの商談だというのに。
カーソンめ、勝手に追い込まれて、疑心暗鬼に陥ってしまったようだ。落ち着かせようと笑顔で話しかけるも、そのたびに何故かカーソンは怯えてしまってなかなか話を続けられない。最終的にどうにか説得することはできたが……無駄に疲れた。
やれやれだな。どうやら、我に商談の才能はないらしい。