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第18話 有効な対策は?

 ギルドから宿に戻り、作戦会議だ。議題はもちろん『切り裂き旋風』についてである。


 今日のところは穏便な接触だったが今後もそうとは限らない。安全を考えて、メイベルも宿を移すことにした。なにかあったとき、一丸となって動きやすいからだ。もちろん、部屋は別だが。


「どうしようか?」


 我の問いに、ミスルがこくんと首を傾げる。


「仮にだけど、戦いになったらアタシたちで勝てるの?」

「カーソン一人なら勝てると思うよ」


 あのカーソンという男、攻略系クランに属しているというだけあって、それなりの強さと見た。だが、一対一なら我にも勝機がある。


 生命とマナはレベルによる上昇幅が大きいのレベル1の我では太刀打ちできないが、それ以外の能力はおそらく我のほうが上である。レッサーアポマラソンは伊達ではないのだ。


 ただし、この世界の理にはレベル補正という概念がある。たとえ、同じ能力値であっても、レベルが高ければ実効値が高くなるようだ。補正値によっては厳しいかもしれない。


「だったら、闇討ちしちゃうとか」

「物騒だなぁ」


 ミスルが首を刈る仕草をするので、窘める。冗談だとは思うが首刈り戦士の兎がそれをやると洒落にならんぞ。


 我らは復讐者ではあるが、それだけに無闇矢鱈と人を殺めないようにせねばならない。でないといずれ歯止めがきかなくなる。


 それに、一人仕留めたくらいではおそらく意味がない。


「転移石集めがクランの方針なら、カーソンだけを相手にすればいいっていうのは楽観的すぎると思うよ」

「そうですね」


 我の意見にメイベルも同意を示す。


 カーソンは交渉人にすぎない。我らから秘密を聞き出すという方針がクランの総意だった場合、メンバー総出で我らを屈服させようとしてくるかもしれない。


「そうなるとお手上げね」

「現状ではね」


 今のままではクランの力に対抗するのは難しい。それが現実だ。


「素直に転移石を販売するのは駄目なんですか?」

「月に定量納めるってことで納得してれるならそれでもいいけど」

「難しいですか……」

「人間の欲って、際限ないものね!」


 兎が人の欲を語るな……と言いたいが、我が危惧するのもそれだ。定量を確保する手段があると知れば、彼らはさらに欲しがるだろう。ひょっとすると、その手段自体を欲するかもしれない。できれば避けたい展開だ。


「僕ら自身が力を持つことが必要かもね。こうなったら、多少はレベルを上げないと駄目かも」

「あら、リビカがそこまで言うなんて……」

「身の安全には代えられないからね」

「それもそうね」


 まぁ、転移石があれば迷宮内の移動問題はかなり解決する。あとは、強めのアポ種さえ見つかれば、加護の強化も継続できるしな。


「あとは味方を増やすのはどうですか?」

「味方か。僕らって秘密が多いからなぁ……」


 メイベルの意見はもっともだが、秘密保持という面では?がある。今後の復讐を考えれば、加護による能力強化や【盗む】スキルといった我らのメリットはできるだけ秘密にしておきたい。そのため、仲間を増やすにしても慎重に見極める必要があるのだ。


 結局、明確な結論が出ないまま、その日の会議は終わった。




 次の日。有効な対策も思いつかないまま、我らは惰性で迷宮に潜った。レッサーアポの木立へと移動したところで、ミスルが呟く。


「つけられてるわね」

「そう。ちょっと休憩にしようか」


 振り返り際、不自然にならないように後方を確認するが人の姿は見当たらなかった。スキルかアイテムかわからないが、何らかの手段で姿を隠しているのだろう。駆け出し冒険者相手に本気を出しすぎだ。


「それなりに距離はあるから喋るのは問題ないわよ」

「カーソンって人ですか?」

「そこまではわからないけど、少なくとも駆け出し冒険者って感じじゃないわね」

「まぁ『切り裂き旋風』の関係者だろうね」


 なるほど、こういう手できたか。転移石1つに金貨10枚。攻略系クランにしても大盤振る舞いだと思っていたが、それは餌だったということかな。


 本命は入手元の特定。金に目が眩んだ我らが転移石確保に乗り出したところを尾行するのが狙いか。それさえできれば、あとは自分たちで手に入れるか、子飼いの冒険者にでも確保させれば良いというわけだ。


「この距離なら戦闘の様子を詳しく把握することはできないと思うわよ」

「まずは怪しげな場所に立ち寄ってないか調べるつもりかな」


 まさかスライムがドロップするとは想像もしていないのだろう。未探索エリアかレア魔物を発見したとでも予想したのかもな。それならしばらく時間が稼げそうだ。


 尾行はあるようだが、我らの手管がバレることはなさそうだ。そう考えて、数戦してみたが……


「なんだかやりにくいね」

「そうですね……」

「イラッとするわ!」


 この状況下で【盗む】を主軸に戦うのは想像以上にやりにくい。遠くからの監視なのでバレないと思っていても不思議とハラハラするものだ。盗みが成功したことに、大っぴらに喜べないのも意外にストレスが溜まる。


「やっぱり、何か対策を取らないと駄目だね」

「そうね。こんな状態が続くとスパッとやりたくなるわ!」


 ミスルが腕を横に薙ぐ仕草をみせる。首刈り宣言だ。この兎、日に日に物騒になっていくな。


 やりにくさを感じた我らは早々に探索を切り上げた。代わりに、街のあちこちを巡ってみることにする。


 一応、追跡の目を意識した撹乱だ。どこかで取引しているとでも勘違いしてくれればいいのだが。


 そういった意図もあり、怪しげな区画にも足を向けてみた。堅気ではない連中が取り仕切る、いわゆる闇市というヤツだ。トラブルは日常茶飯事だが、珍しい出物もあるらしい。


「ねぇ、リビカ、あの人間、首輪をしてるわ。どういう趣味なのよ」


 ミスルが耳元でこそりと囁く。首輪嫌いのミスルからすれば理解できない趣味らしい。


 たしかにファッションとしてチョーカーをつける者はいるが……


「あれは趣味でやってるんじゃないよ」

「ああ、あれがそうなのね」


 我の言葉に、ミスルが納得を示した。あれは“隷属の首輪”。すなわち、あの者の身分は奴隷である。


 なるほど。ここでは奴隷の売買も行われているのか。


 ふむ、だが奴隷か。秘密を守らせるという意味では悪くないかもしれないな。


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