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第17話 輝くリンゴの鑑定結果

 カーソンの接触のあと、我らは尾行がないことを確認してから、またギルドに戻ってきた。


 向かうのは買い取りカウンター。いつもの中年男を見つけて、声をかける。


「おじさん、例のあのこと、漏らしてないですよね?」

「おじさんはやめろ。俺はウォードだ」


 おじさん改め、ウォードが軽く睨んでくる。気にせずカウンターに近づくと、ため息を吐かれた。


「例のあのことってのは、転移石のことか?」

「そうです」


 小声の問いに頷くと、ウォードは眉根を寄せて渋い顔をする。


「俺は喋ってねえよ。だが、どうしてもある程度の情報は漏れる。買い取ったからには売り出すからな」


 冒険者向けのアイテムは、そのままギルドの直販店で売りに出すらしい。品揃えをチェックしていれば、誰かが持ち込んだのではと推測できる。


 転移石は、ある程度深いエリアを探索する冒険者ならば誰もが持っておきたいアイテムだ。金貨1枚で手放すことはまずありえない。となると、持ち込んだのは金に困る駆け出しだろうと予測が立つ、ということらしい。


「なるほど。でも、それで僕らを特定できるわけじゃないですよね?」

「もう接触があったのか?」

「はい。『切り裂き旋風』のカーソンという人から声をかけられました」

「ああ、あそこか」


 ウォードが言うには『切り裂き旋風』はごく普通の攻略系クランらしい。特に悪い評判もないが、攻略のためには無茶をする可能性もなくはないとのこと。


「まぁ、カマかけだろうな。目立つヤツらに手当たり次第に声をかけてるってとこじゃないか?」

「……僕ら目立ってます?」


 我らには復讐という目的があるのだ。注目されるといざというときに動きにくくなるので少々困る。


 やはり兎連れというのが駄目なのだろうか。


「日に何度もギルドと迷宮を往復するヤツらが目立たないわけないだろ」

「師匠、それはさすがに……」


 と思ったが全然関係ないようだ。ウォードとメイベルからは呆れられ、ミスルからは耳たぶをてしてしと叩かれてしまった。


 いやはや、能力強化のためのレッサーアポマラソンが人目を引くことになるとはな。このようなこと、神すらも見通せぬだろう。我が言うのだから間違いない。


 まぁ、能力強化は何より重要であるから、そのために多少目立ってしまっても致し方ないことである。よって、我の方針には何の問題もない。反省終わり。


「それはともかく。今のところ、僕らが持ち込んだことがバレてるわけじゃないってことですよね?」


 話を戻すと、ジト目のウォードも表情を改めた。が、その表情は少々冴えない。懸念があるようだ。


「確証はないと思うが……ほぼバレたと思ったほうがいいかもな」

「というのは?」

「ソイツが接触してきたあと、すぐにここに来たんだろ?」

「尾行がないことは確認しましたが」

「たとえ尾行がなかったとしても、最初からギルドに張ってるヤツがいたら意味がないだろ」

「あ……」


 その可能性は確かにある。実際のところはどうかわからないが、バレたと思っておいたほうが良いだろうな。


 面倒だな。実に面倒だ。


 一度や二度くらいならば売ってやっても構わないが、それで済むとも思えない。何度も繰り返し要求されるようになれば迷惑だ。


 ならば情報を与えるか?


 【盗む】を伝授するのは論外。だが、スライムが転移石をドロップすること教えるのは構わない。


 ただまぁ、教えたところでな。我の調べによれば、転移石のドロップ率は極めて低い。数万単位で狩って1つ落ちるかどうかといったところ。情報があっても物が得られないのでは納得しないだろう。


「困ったね」

「トラブルがあればギルドでも相談に乗るが、実効的な抑止力にはならんからな……」

「ですよね……」


 人目のある街中で襲われることはないだろうが、迷宮内ではわからない。目撃者がいなければ、犯罪は立証できないのだから。


「トラブルを避けたいなら大きなクランの庇護下に入るのが一般的だが……」

「転移石のことを隠してっていうのは難しいですよね」


 トラブルの原因について探られればすぐにバレる。そうなれば今度は我らを庇護下に置いたクランから転移石を要求されることになるだろう。納品先が変わるだけで、あまり意味がない。


「まぁ、それについては少し考えてみます」

「そうだな。あー……この状況で言いにくいんだが」


 話を切り上げようしたところで、ウォードがそんなことを言った。何事かと思えば、以前預けた輝くアポの実の鑑定結果が出たらしい。


「これがまた……いやまぁ、これを見ろ。字は読めるか?」

「大丈夫です」


 鑑定結果を記した紙がカウンターに置かれる。



■再生のリンゴ(弱)

古傷や指先などの小部位の欠損、四肢の麻痺を癒す魔法のリンゴ。キルドでの買い取りは金貨10枚?



 これはまたとんでもないものだな。小部位とはいえ欠損を癒すなど、神の奇跡に等しい。高位の神官ならば不可能ではないだろうが、神殿に多額の寄付金を……ああ、それでこの買い取り価格なのか。


「なるほど。ええと……メイベルも見る?」

「や、やめときます!」


 我らの反応からとんでもないアイテムだと予想がついたのか、メイベルが鑑定結果の確認を拒んだ。まぁ、ここは人目もあるし、悪くない選択かもしれん。今度、迷宮で教えてやるとしよう。


「これは買い取りを取り下げてもいいんですか?」

「その場合、手数料として小銀貨1枚をもらうことになるが」

「はい。構いません」


 小銀貨1枚でトラブルが避けられるなら安いものだ。それに回復アイテムはもしものために持っておいて損はないからな。こちらで確保しておくことにしよう。





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