魔道具入手のツテとなるエイギルだが、実のところ、最近はギルドで見かけない。おそらくは遠征に出ているのだろう。
我らと違って、ベテラン冒険者ともなると探索エリアは迷宮の奥深く。攻略を進めようとすれば必然的に探索期間は長くなる。会いたいと思ってすぐ会えるわけではないのだ。
面会を取りつけるにはそれなりのステップがいる。こんな時、頼りになるのがギルドだ。
「おはようございます、カテナさん」
「あら、リビカさん、メイベルさん。おはようございます。あいかわらず仲が良さそうですね……」
完璧な笑顔に一瞬だけジトッとしたものが混じる。それが少々恐ろしい。
だが、向こうもプロだ。すぐに立ち直り仕事に戻った。
「本日のご用件は?」
「エイギルさんに連絡を取りたいんですが」
「ええと、『暁の勇士』のエイギルさんでしょうか?」
さて、困った。ヤツの詳しい情報など知らんぞ。『暁の勇士』というのはおそらくクラン名だと思うが。
どこの世界も数は力だ。目的のために力を合わせる冒険者たちの共同体をクランと呼ぶ。深層に至るような冒険者は基本的に何処かのクランに属しているらしい。組織のバックアップなしで長期間の探索など、まず不可能だからだ。
エイギルの実力ならば十中八九何処かのクランに属しているはずだが……生憎と所属に関しては聞いていない。
だがまぁ、誤認は起こらないだろう。
「クラン名は知らないですけど、兎好きです。ミスルのことを気に入ってみたいで、僕が冒険登録した日、すぐに目をつけられて……」
「ああ。それなら、『暁の勇士』のエイギルさんで間違いないですよ」
やはりな。あれだけ癖の強い者ならば、伝わると思った。
「それで、連絡が取りたいんでしたか。ええと『暁の勇士』は……前線メンバーが遠征中と連絡が来ていますね。帰還はトラブルがなければ1、2週間後の予定です」
「そうですか」
少し先だな。だがまぁ、想定の範囲内だ。
「それなら、戻ってきたら僕……じゃなくてミスルが会いたがっていたと伝えてくれませんか?」
「ええ、わかりました。ご存知だとは思いますが、あくまで伝えるだけ。強制力はありませんよ」
「わかってます」
これで連絡は取れるはず。何かあれば力になるという言葉が嘘でなければ、面会くらいはできるであろう。
我らはカテナ嬢に礼を言ってギルドを離れた。そのまま人気のない路地裏に移動する。今後の方針会議をするつもりだったのだが……
「リビカ」
「わかってる」
ミスルが小声で警戒を促してくる。
もちろん、我も気づいていた。ギルドから我らをつけてくる者がいるのだ。路地裏に入ったのは失敗だったかもしれない。
我らが足を止めると追跡者はすぐに接触してきた。正体を隠すつもりはないようで、ごく普通の冒険者という出で立ちだ。まだ若い男……といっても我らよりは幾分か上だが。
「よ! その様子じゃ俺に気づいてたみたいだな。なかなか優秀じゃないか」
男は軽薄な仕草で片手を上げてみせる。挨拶のつもりかもしれないが、場違いな感じは否めない。
とはいえ、思ったよりも友好的な反応だ。少なくとも我らを力尽くでどうこうしようというわけではないのだろう。少なくとも今のところは。
「僕らに何か用事ですか?」
「せっかちだな。ま、そのほうが話は早いか」
男は苦笑いを浮かべて頷く。
「ちょっとお前らに話があってな。どうだ、食事でもしながら話さないか? もちろん、俺が奢るぞ」
「いえ。お話ならここでどうぞ」
タダ飯とは心躍る響きだ。だが、我はキッパリと拒否した。得体の知れない男にノコノコついていくのは得策ではない。子供でも分かる当然の結論だ。
ミスルに恨まれたくはないしな。兎のミスルに我らと同じ料理が振る舞われるはずがない。我らだけ美味い料理を食べたとなると、後がうるさそうだ。
「警戒するなよ……って言っても無理か? まぁ、ここでっていうならここで話すが」
男は戯けた様子で両手を上げてみせる。“お手上げ”とでも言いたいのか。だが、その顔はニヤニヤと笑みが浮かべたまま。
「まずは自己紹介といこうか。俺はカーソン。見ての通り、冒険者だ。『切り裂き旋風』ってクランに属してる」
そちらは、と顎をしゃくって促してくるので、少し考えて我らも名乗った。もちろん、ミスルは除く。
「話って言うのは転移石に関してだ」
カーソンの言葉に、メイベルの体が僅かに跳ねた。それにヤツが気づいたかどうかは微妙などころだ。表面上は何の反応も見せずに、カーソンは続ける。
「転移石は迷宮攻略を目標に掲げるクランには必須ともいえるアイテムだ。『切り裂き旋風』も常に求めているが、これがなかなか手に入らない」
「はぁ、それで?」
わざと気のない相槌を入れても、カーソンは余裕そうな表情を崩さない。
「転移石を手に入れるためなら、金に糸目をつけないってことさ。ギルドでの買い取りは金貨1枚ってとこだろ? 俺たちなら金貨10枚を出すぞ」
我らが転移石を手に入れたとは言っていないはずだが、半ば確信しているような言動だ。まぁ、カマをかけているだけという可能性もあるが。
それにしても、まさか金貨10枚とは。なかなかに魅力的な提案である。しかし、飛びつくにはあまりにも胡散臭い。ここは知らぬふりをしておこう。
「それを僕らに言われても」
「おっと、そうか? まぁ、もし手に入れたら考えておいてくれ。金貨1枚が10枚になるんだ。お前らにだって損はないだろ?」
「たしかに、そうですね」
「おうよ。話はそれだけだ。じゃ、見つけたらよろしく頼むな」
我が適当に話を合わせてやると、カーソンは満足そうに立ち去っていった。
さて、この状況をどう見るべきか。何にせよ、厄介事の予感がするな。