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第14話 遠征提案

 我らは宿の一室に集まって、今後の方針について話をすることにした。打ち上げというわけではないが、軽い食事を持ち込んでいる。食事処ではミスルが自由に喋れないからな。


「これでお金には困らないわね!」

「はい!」


 懸念が消えて、ミスルとメイベルは嬉しそうにしている。


 転移石のおかげで、金銭的な問題は改善されたと見ていい。1つで金貨1枚なので、当面の宿代には困らない。


「問題はこのあとよ! もしかして、またリンゴ狩りを再開するつもりじゃないでしょうね!」


 ミスルがびしりと指を突きつけてきた。指先から、鋭い爪が覗いている。危ないのでしまいなさい。


「そんなに嫌い、レッサーアポ狩り?」

「嫌いとかそういうじゃないのよ。もう飽きたの!」


 ぴょんぴょん跳ねて不満をアピールする我が妹。わがままなヤツだ。


「メイベルはどう?」

「私はその……強くなれるなら耐えます!」

「耐えるってことは、できればやりたくないってことよね!」


 弟子のほうはさすがに殊勝な言葉を口にするが、ミスルが余計なことを言ってまぜっかえす。まぁ、それが本音であるのだろうが。


 やれやれ堪え性がない。同じことの繰り返しで退屈だというのは我にも理解できるが、まだまだ序の口であろうに。


 とはいえ、我も全ての加護で最初の能力アップは果たした。レッサーアポ狩りでは少々効率が悪いのも確かか。


「それじゃ、迷宮攻略を進めてみる?」

「え……?」

「なんですって!?」


 我の提案に、ミスルが大袈裟に体を仰け反らせた。メイベルも目を丸くして驚いている。


 そんなにおかしなことを言っただろうか。


「いや、だから次の階層を目指してみようかって……」

「ど、どうしたのよ、リビカ。何か悪いものでも食べた?」

「大変です! 少し休んだほうが……」


 何故、そうなる!


「二人がレッサーアポに乗り気じゃないから言ってるんでしょ」

「だからって、リビカがそんな提案するなんて……はっ!? さては偽物ね!」


 コイツは……


「くだらんことを言うな駄兎め! 尻尾をむしるぞ」

「この口の悪さ……本物だったようね!」


 ふぅ驚いたと、ミスルは額の汗を拭う仕草をする。自分で喋り方をどうにかしろと言っておいて、なんという言い草だ。


 メイベルはというと、目を丸くして「やっぱり王子様……」とかなんとか呟いている。まぁ、放っておいてよいだろう。


「それで、どういう風の吹き回しよ? 効率重視のリビカが今の利点を捨てるとは思えないけど」

「それはもちろん」


 低レベルのほうが職業加護の成長には有利。そのメリットを捨てるつもりはない。迷宮攻略を進める気になったのは、低レベルを維持したまま実現できそうな条件が整ったからだ。


「【盗む】スキルを使えばレベルを上げずに敵を倒せるでしょ」

「たしかにそうね。だからと言って、迷宮攻略を進める理由にはならないと思うけど……」


 ミスルは疑うような態度を収めない。


 まぁ、そうだろう。【盗む】で敵を倒せたところで我の目的である戦力強化にはつながらない。この方法では、経験値だけでなく、JPも手に入らないのだからな。


 だが、戦力強化においてもメリットはあるのだ。


「そうでもないよ。たとえば、ほら、ミスルが興味を持ってた宝探しとかね」

「宝探し!」


 怪訝な表情だったミスルが一転にしてご機嫌になった。現金なヤツである。


「宝箱のアイテムを狙うってことですか?」

「そういうこと。あわよくばって感じだけどね」

「まぁ、そうですよね」


 メイベルはミスルほど前のめりではない。そうそう宝箱など見つからないと思っているのだろう。まぁ、実際にそうなのだが。


「宝箱じゃなくても魔物がドロップする可能性もあるよ。普通は低確率だけど【盗む】スキルがあれば、意外と簡単に手に入るかも」

「たしかに!」


 これにはメイベルも納得した。


 【盗む】スキルで盗めるのは基本的に対象の魔物がドロップするアイテムである。


 スライムが転移石をドロップという話は聞いたことがなかったが、我の独自調査で間違いなくドロップすることが分かった。ただし、奇跡的な幸運に恵まれなければ不可能なくらいのごくごく低確率だ。


 しかし、【盗む】なら1割近い確率で手に入る。つまり貴重なアイテムの入手機会が増えるのだ。


 そして、強力な魔物ほど強力なアイテムをドロップする可能性が高い。そういう意味で、攻略を進める意義はある。


「なーるほどね! リビカの行動としても納得ね! そういうことなら、異論はないわ!」

「私も良いアイデアだと思います!」


 ミスルとメイベルもやる気になったようだ。しめしめというヤツである。


 無論、二人に話したのは紛れもない事実。アイテムでの戦力強化も狙いのうちではある。


 しかし、現段階では本当に有用なアイテムが手に入るかどうかは未知数。そんな不確かな可能性に賭ける我ではないのだ。


 我の本当の狙いは迷宮5層に出現するグリーンアポという魔物。名前から分かる通り、レッサーアポの上位種である。経験値は0という特性はそのまま、上位種なのでJPはアップ。職業加護を鍛えるにはうってつけの存在なのだ。


 さらにさらに、我の調べた情報によれば5層には転移ポイントがある。迷宮入口も転移ポイントなので、グリーンアポマラソンが可能な環境が整っているのだ!


 まぁ、実現には大量の転移石が必要になるので、事前にスライム狩りをする必要があるが。


 無邪気に喜んでいる二人には悪いが、まず戦力強化という予定は変えられん。少しの息抜きのあとにはマラソン続行だ。


 何か予期せぬ出来事でもない限りはな!



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