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第12話 リンゴ取り放題

 予想外の事態。どうなっているのか検証せねばと、我も混ざってレッサーアポに対して【盗む】を繰り返し発動してみたのだが。


「ア、アポ……」

「なんだか、コイツ、苦しそうじゃない?」

「たしかに、そう見えるね」


 盗みが成功するたびに、レッサーアポが弱っていくように見える。


 そんな中、メイベルが【盗む】スキルを成功させた。


「あ、また盗れました!」

「ア……ポ……」

「あっ」

「死んだみたいね」


 メイベルの手にアポの実が現れると同時にレッサーアポが倒れる。普通に倒したときと同じように、その死体は消えた。ただし、少々違う点もある。


「魔石は落とさないんですね」

「あら、本当ね」


 メイベルとミスルが言うように、基本的に100%ドロップするはずの魔石が落ちていない。


「こんな現象、初めて見るなぁ」


 まさか【盗む】スキルで魔物が倒せてしまうとは。ダメージを与えるようなスキルではないのだがな。


「ええと、盗めた数は……?」

「6個か7個ですね」

「それなりの数ね!」


 無限にとはいかなかったが、1匹からこれだけ盗めるならば、大きな成果といえるだろう。普通に倒すより遥かに実入りが大きい。


「これだけでお金が稼げてしまいそうですね」

「結局、リンゴ狩りが続くのね」


 たしかに、アポの実1つを小銀貨1枚で引き取ってもらえるなら大きな稼ぎになるが。


「アポの実だけじゃ無理だよ。需要が少なすぎる」


 アポの実を欲しがるのは一部の愛好家という話だ。誰も納品しないので買取価格がつり上がっているが、大量納品すればすぐに値が下がるだろう。


「じゃあ、他の魔物を狙うってことですか?」

「そうだね。換金率が高い魔物を探してみよう」

「ようやく、リンゴ以外の魔物と戦えるのね!」


 ミスルがぴょんと飛び上がった。メイベルは何も言わなかったが、こちらも嬉しそうな顔だ。


 そこまでレッサーアポ狩りは嫌だったか。我からすると、淡々と狩るだけで能力が上がるボーナスタイムだったのだがなぁ。


「じゃあ、ミスル、頼むよ」

「任せときなさい!」


 ミスルの耳を頼りに敵を探す。見つかったのはスライム3匹だ。


「とりあえず盗めるだけ盗んでみようか」

「わかりました!」

「動きが遅いから楽勝ね!」


 結果はと言うと、そもそも戦いにすらならなかった。


「消えたわね」

「ぷるぷるしているだけでしたね」


 【盗む】が攻撃スキルではないせいか、いくら使ってもスライムが交戦モードになることはなかった。それでいて、何度盗むを成功させると消滅する。何のリスクもなく盗み放題というボーナスモンスターであった。


 盗めたアイテムは合計で21個。1匹あたり7個の計算で、3匹とも7個目のアイテムを盗んだあとに消滅した。


 盗めたのはぷよぷよしたゼリー状のアイテムと小さな石の2種類。前者が18、後者が3と、比率としてはゼリーのほうがかなり多い。


「これはスライムゼリーですよ」

「ああ、これがそうなんだ」


 ゼリーについてはメイベルが知っていた。実物を見るのは初めてだが、我も知識としては知っている。


 スライムゼリーは分類するならば、薬品素材だろうか。つなぎや中間素材として利用されるもので、特殊な効果はない。当然、買い取り価格にも期待はできない。


「こっちの石は何かしら?」

「すみません。私にはわからないです」

「レア枠のアイテムだから、期待したいところだけどね」


 石のほうは正体不明。盗めた個数から判断すれば、レア枠のアイテムだと思われる。


 我の理ではレア枠のほうが概ね貴重なアイテムだった。が、絶対ではない上、この世界ではどうなのか不明だ。


 まぁ、買い取りカウンターに持ち込めば正体はわかるだろう。高値がつくことを願うばかりだ。


 なお、レッサーアポのときと同じく、魔石はドロップしなかった。


「今度はアイツらね!」


 次にミスルが見つけたのは、ゴブリンが2匹だ。


 その容姿を簡単に説明するなら、緑の肌の子鬼。頭に1対の小さな角があり、人型だが人間よりはかなり小柄だ。スライムよりは強敵だが、油断しなければ駆け出し冒険者でも苦戦することはない。


「ギャギャ」

「何だか鈍いですね」

「メイベルが強くなってるってことだよ」


 粗末な棍棒を振り回してくるが、とても機敏とは言えず、隙だらけ。攻撃の合間に【盗む】を繰り返せば、容易に倒せた。


 ゴブリンから盗めたのは、謎の草と小瓶。草は薬草で小瓶は何らかの魔法薬だろう。


 その後も遭遇する魔物全てを【盗む】で倒した。


 その結果、わかったのは……



1. 【盗む】を7回成功させると魔物は死ぬ

2. 成功3回以降、徐々に弱体化する

3. 盗めるアイテムが複数種類ある魔物もいる

4. この方法で倒した魔物はアイテムをドロップしない

5. この方法で倒した場合、経験値及びJPが取得できない



 重要なのは項目1と5だろうか。


 7回成功で確殺は強い。だが、【盗む】の成功率は彼我の敏捷と幸運の大小に左右されるので、格上が相手の場合、成功率は大きく下がるはず。有効に使えるのは同格くらいまでだろう。


 また、盗めるアイテムがない場合、この方法では倒せない。そのような魔物がいるかどうか不明だが、可能性としてはありうる。


 経験値が得られないの本来ならばデメリットだが、我らにとっては悪くない。欲を言えばJPだけは獲得できればなおよかったのだが……まぁ、そこまで都合よくもいかないか。


 まぁ、何にせよ言えることは……


「これならレベルアップの心配なく稼げるね!」

「ってことは、金策が終わったらマラソン再開ってことかしら……」

「ま、まぁまぁ。強くなるためですから……」


 むぅ……やはりマラソンは不評か。


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