目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 師弟伝授と理の歪み

 ギルドを出た我らは、そのまま人通りの少ない路地裏へと移動した。そこでこっそり作戦会議だ。


「盗賊って盗めないの?」

「って、言ってたわね」

「私も知りませんでした」


 三人で話し合ってみるものの、全員が駆け出しなので、何の情報も得られない。


 とはいえ、経験豊富そうな中年男がそう言ったのだから、おそらくは事実なのだろうという仮定で話を進める。


「じゃあ、リビカのアレは何なのよ」

「ひょいって盗ってましたよね。リンゴからリンゴが出てくるのでおかしな光景だなぁとは思ってましたけど」


 ミスルとメイベルが不思議そうにしている。


 我が確保したアポの実の大半はレッサーアポから盗んだものである。二人は実際にその現場にいたわけで、できないと言われても納得はいかないのだろうな。


 まぁ確認する手段はある。


「メイベルは盗賊の加護が候補にあったよね。【盗む】スキルがあるかどうか確認してもらえる?」

「わかりました!」


 祭壇室を利用して、メイベルの職業加護を〈盗賊〉に付け替えてもらう。改めて確認してもらった結果――


「【盗む】はないですね。あるのは【盗賊技能Lv3】だけです」


 中年男の言葉が正しいことがわかった。


「なるほど。ということは、これも理変換前の名残りなのか」


 まずは能力値を伸ばそうと思っていたから、職業スキルについては細かくまで見ていなかった。まさか、ここにも違いがあるとは。


「てことは、リビカだけが使える能力ってことかしら?」

「現状ではその可能性が高そうだね」

「凄い! 師匠は特別な力をお持ちなんですね!」


 メイベルが尊敬に輝く目を向けてくる。うむうむ、素直な弟子というのは良いものだな。ミスルにも見習って欲しいものだ。


 しかし、この【盗む】というスキル。金策には悪くなさそうだな。となれば、二人にも使えたほうが便利だ。


 では、ついにお披露目するか。弟子を取るとなってから、使えないかと思案していた理を。




 次の日、我らはいつも通り、第三迷宮に訪れた。とりあえず、いつもの流れでレッサーアポの木立に移動する。


「今日から金策するのよね?」

「【盗む】を利用して稼ぐって言ってましたけど、それなら私たちはどうすれば……」


 もちろん、今からそれを説明する。そして、我の偉大さに敬服するがいい!


「二人には、今から【盗む】スキルを習得してもらいます!」


 我としては絶賛の嵐を期待したのだが……反応は芳しくない。どうやら、ミスルとメイベルには戸惑いがあるようだ。


「習得って言われても……アタシは〈盗賊〉の加護、つけられないのよ」

「そもそも師匠以外には習得できないという話だったんじゃないんですか……?」


 おっと。説明の順番を間違えたか。


「普通はそうなんだけどね。でも、僕は弟子に自分のスキルを伝授する能力があるんだ」


 その名も師弟伝授。この世界の理にはない、我独自のシステムである。


 伝授の方法も難しくない。まず、師が伝授を宣言してから、実際に使ってみせる。すると、弟子が一時的にそのスキルを使えるようになるのだ。


 その時点ではあくまで仮習得で、伝授を取りやめると使えなくなってしまう。だが、仮習得中に何度も使用すると、いずれ正式にスキルを習得できるという仕組みだ。


「ええ? それじゃアタシもリビカの弟子にならなきゃ駄目なの?」


 ミスルが不満そうにしているが、それも想定の範囲内。妹の甘えと思えば腹も立たない。


「別に僕を敬えって言ってるわけじゃないよ。あくまでシステム上の話」


 もちろん、敬ってもらっても一向に構わないが。


「じゃあ、今から【盗む】スキルの伝授を始めるよ。まずは僕が使ってみせるから見ててね」

「わかったわ」

「はい!」


 のんびり日向ぼっこをしていたレッサーアポ3匹を背後から奇襲しつつ、伝授に入る。


 ちなみに今の我がつけている加護は〈ギャンブラー〉だ。本来ならば、その職業スキルしか使えないのだが、サブスキルとして〈盗賊〉スキルをセットしているので【盗む】も問題なく扱える。サブスキルはこの世界の理なので、我でなくとも同じことは可能だ。


「ほいっと!」

「アポ!?」


 盗むが成功してことによって、我の手の中に黄色いリンゴが出現する。メイベルも言っていたが、なかなか不思議な光景だな。


「こんな感じ。二人も試してみて」

「「「アポ!」」」

「君たちに言ったんじゃないよ。3匹もいらないから間引いておこうかな」

「「「アポ!?」」」


 訓練用に1匹いればいいので、残りの2匹はサクリと倒した。能力値だけ見れば、我の力はかなりのものだ。いまさら、レッサーアポに遅れはとれない。


「やったわ!」

「アポゥ……」


 数度目のチャレンジでミスルが快哉を上げる。その手にはたしかに黄色いリンゴが握られていた。【盗む】スキルが成功したようだ。


「そのまま続けて。盗めなくても、習熟度は稼げるから。今のところ、マスターまで半分ってところかな」

「わかりました!」


 あくまで目的はスキルの習得。アイテムが盗めるかどうかは関係ない。というわけで、そのまま続けさせていたのだが……


「あ、あれ? 盗めました!」


 さらに数度のチャレンジで、今度はメイベルが【盗み】スキルに成功した。その手にはやはり黄色いリンゴ。


「あら、何度も盗めるのね」

「お得ですね!」


 ミスルとメイベルが感心した様子で離している。


 だが……これ、我も知らない現象なのだが?


 我の知る理では、盗めるアイテムは魔物に1匹につき1つのみ。通常枠とレア枠がわかれておって、盗めるアイテムが変わることはあったが、どちらかを盗めばもう一方は手に入らなかったはず。


 どうなっているのだ?

 もしかすると、これが理の歪みか?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?