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第10話 盗賊は盗人ではない

「冒険者っどうやってお金を稼ぐの?」


 ミスルが根本的なことを聞いてきた。それ対してはメイベルが答える。


「主に素材の売却ですね。他には、宝箱を探すというのも手です」

「宝箱? そんなものがあるの?」

「ええ。不思議な話ですけどね」


 宝箱は魔物と同じだ。放置していても、勝手に出現する。空になってしばらくすると消え、中身が補充された状態で別の場所に出現する。なので枯渇するということはない。中身は金銀財宝や、不思議な道具、特殊な武具など様々だ。


「いいわね、宝箱! だったら、それを探しましょうよ!」


 我とメイベルの説明を聞いて、ミスルが飛びつく。気持ちはわからんではない。宝箱はロマンだ。


 とはいえ……


「そう簡単な話でもないんだよ」

「あら、そうなの?」

「はい、狙って探すのは厳しいと思います」


 我の意見にメイベルも同調する。ミスルは残念そうだが、それが現実だ。


 宝箱探しに狙いを絞れば、魔物との戦わずにすみ、レベルも抑えられる。我としても勝算があるならやぶさかでないのだが。


 問題はいろいろあるが、一番は宝箱の配置は一定ではない点だろう。規則性があるなら、我が理を解析することで特定することもできるのだが、おそらくは完全にランダムだ。


 当たればデカいが、確実に手に入る保証はないのだ。今このとき、宿代に困る我らが手を出すべきではない。


「じゃあ、どうするのよ」

「とりあえず、今ある素材を買い取ってもらうしかないかな」

「レッサーアポの魔石ですね」


 迷宮の魔物は倒すと死体を残さず消滅する。代わりに、様々な物品を残すのだ。これらはドロップアイテムと呼ばれる。


 ドロップアイテムは魔物ごとに概ね固定されているが、バリエーションは豊かだ。その魔物の素材の一部であることが多いが、全然関係のない魔法薬がドロップすることもある。


 そして、ほぼ確実にドロップするのが魔石と呼ばれる薄紫の石だ。まぁ実質的なハズレ枠だな。


 とはいえ、無用の長物というわけではない。むしろ、冒険者の主な収入源である。


 魔石はマナが凝縮した結晶体なのだ。魔道具を扱うときの燃料となるので需要は高く、冒険者ギルドでも積極的に買い取ってくれるというわけだ。


 というわけで、我らは一旦ギルドに戻り、レッサーアポの魔石を買い取ってもらうことにした。


「お前たち、例の新人だな? こりゃまた大量に持ち込んだな……」


 買い取りカウンターで我らを担当したのは、髭面の中年男であった。我らが提出した魔石を見て、呆れ顔を隠しもしない。


「全部レッサーアポの魔石か?」

「そうですね。わかるんですか?」

「そりゃあな。それが仕事だ」


 魔石にも等級があり、レッサーアポのそれはタンデルにおいて他に並ぶものがない最低級。最も安いクズ魔石だそうだ。


「全部で325個だな。1個銅貨1枚だから銀貨3枚と小銀貨1枚だな」

「お、おう。少ない……」

「クズ魔石だからな」


 我が宿泊している宿は一泊小銀貨2枚。銀貨は小銀貨4枚の価値なので11日分の稼ぎでこれは完全に赤字だ。


 しかも、これで全員分。メイベルと分けると……宿のランクを変えたところでどうにもならんな。


「なんだって、レッサーアポばかり狙って狩ったんだ。別に倒しやすくもないだろ」


 中年男が不思議そうな顔をする。


 実際、レッサーアポは意外に好戦的だ。動きの鈍いスライムのほうがよほど倒しやすい。稼ぎもスライムのほうが上となると、多くの者にとって積極的に倒す理由はないわけだ。


 我らには我らの理由がある。が、それを説明するのも面倒だ。我らの優位性が失われることになる上、理云々を説明したころで理解は得られないだろう。


 ここは当たり障りのない返事で誤魔化すか。


「リンゴが欲しかったんですよ」

「アポの実狙いか。まぁ、あれは愛好家もいるが……普通にスライムやゴブリンを倒したほうが儲かるぞ」

「そうなんですね……」


 儲けのために倒していたわけでは無いが、まさかここまでとはなぁ。


 しかし、朗報もある。アポの実には愛好家がいると言ったな。それなら魔石よりは高値で売れるのではないか。


「こっちはどうです?」


 おやつ用に確保しておいたアポの実をカウンターに乗せる。調理に使ったり食べたりしたので、さほど数はないが。


「お、7つも手に入ったか。運がいいな。1つ小銀貨1枚で引き取るぞ」


 おお、それはありがたい。7つではまだまだ赤字だが。


「結構な値がつくんですね。特別な効果はないのに」

「薬の材料にはなるぞ。まぁ代替えがきくからほとんど使われることはないが。価格はあれだ、愛好家が求めてつり上がっているだけだな」


 中年男が言うには、レッサーアポ100匹を狩る間に1個ドロップすれば運が良いくらいの確率らしい。


 たしかに、ドロップ率としてはそれぐらいだったが……。


「〈盗賊〉の加護で盗んだりはしないんですか?」


 〈盗賊〉の職業スキル『盗む』は魔物から魔石以外のドロップアイテムを盗む取ることができる。確実に成功するわけではないが、失敗したところでデメリットはない。盗めるまで何度も繰り返せば、いつかは手に入るのだ。これだけ高値で買い取ってもらえるならば、試す者がいてもおかしくはないと思うが。


 だが、中年男は予想外の反応を返した。


「おいおい、馬鹿なことを言うなよ。職業加護の〈盗賊〉は盗人とは違う。アイツらは誇りを持って冒険者をやってるんだ。滅多なことは言うな」

「……そうだったんですね。すみません」

「新人だし、知らんでも無理はないか。でも、気をつけろよ。そういったことでトラブルになることもある」

「はい。ありがとうございます」


 ひとまず、頭を下げてその場を収める。買い取りが終わると、我らはそそくさとその場を離れた。




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