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第9話 マラソンの成果と切実な現実

 弟子にしたは良いが、メイベルに我らの成長方針が有効かどうか。それが問題だ。


「メイベルの強さはどんなものなの?」

「今はまだ……はっきり言えば弱いです。冒険者になったばかりですから。だけど、どんな厳しい修行でも耐えてみせます! ですから!」


 我の言葉にメイベルが慌てはじめる。どうやら誤解があるようだな。


「落ち着いて。強いなら困ったことになってたけど、弱いなら大丈夫だよ」

「そうよね!」

「は、はぁ……?」


 メイベルが戸惑うのも無理はない。こればかりは成長の仕組みを知らなければピンとこないだろう。


「ええと、説明のためにメイベルの能力を書き出すけどいいかな?」

「私の能力、ですか?」


 メイベルは不思議そうな顔で首を傾げている。よくわかっていないようだ。


 まぁ、弟子となったわけだし、そこまで配慮する必要はないか。とりあえず書き出してしまおう。


――――

メイベル

職業加護:復讐者

レベル:3

生 命:23

マ ナ: 7

腕 力:13

魔 力: 7

体 力:11

精 神:10

敏 捷:13

幸 運:10

――――



「これがメイベルの能力ね」

「あら、職業加護は〈復讐者〉なのね」

「なんでそれを!? あ、いや、これは!」


 メイベルが再び慌てる。いまさらだろに。


「復讐したい相手がいるって話は聞いてるんだし、慌てなくていいよ。僕らだって候補にはあるからね」

「そうなんですか……?」

「そうなのよ。復讐を誓った相手がいるっていうのが加護を授かれる条件なのかしら?」

「だろうね」


 我らが平然と受け止めたからか、それとも同じ〈復讐者〉を加護候補に持つ身と知れたからか。メイベルも落ち着きを取り戻したようだ。これで話の続きができる。


「比較に僕のも書いておくね」


 地面に我の能力も書き出す。並べれば違いがわかりやすいだろう。


「本当にレベル1なんですね。それなのに、私よりも強い……。私って才能がないんでしょうか?」

「そんなことないわよ。リビカがおかしいだけだから、気にしないで」


 落ち込んでしまったメイベルをミスルが励ます。その一方で顔はニコニコ嬉しそうだ。


 ミスルの考えは手に取るようにわかる。どうせ、自分と同程度の者が見つかって嬉しいのだろう。まぁ、レベルも同じ3だ。ライバルとしてはちょうど良い。


 それにしても兄をおかしい呼ばわりするとは。


「おかしいんじゃなくて、優秀なの。でも、能力が高いのは修行法に理由があるんだよ」

「修行法……? ということは私も!」

「そういうこと」


 元気を取り戻したメイベルに、職業加護を鍛える恩恵と、それを利用した成長方針を伝える。


 話を聞いたメイベルは驚くとともに顔を曇らせた。


「〈復讐者〉のままでは駄目ということですか……」


 彼女が職業加護の変更に難色を示しているのは職業特性が理由だろう。〈復讐者〉は、復讐を誓った相手との戦いで能力が上昇するという特性があるのだ。


 とはいえ、その特性だけで勝てるのなら修行は必要ない。まずは成長を優先すべきだ。


「あくまで一時的にだよ。充分に成長できたら、戻せばいいんだから」

「……そうですね。わかりました!」


 次に尋ねたのはメイベルの加護候補。レベルの次に重要な要素だ。


「候補は〈戦士〉〈剣士〉〈盗賊〉〈狩人〉〈復讐者〉の5つですね」

「そうよね! 普通はそんなものよね!」

「どうどう。ミスルは落ち着いて」

「アタシは馬じゃないのよ!」


 メイベルの職業加護はミスルより1つ少ない5つ。他にデータがないので何とも言えないが、この程度が一般的なのかもしれない。


 もしそうなら、我にとっては有利な話だ。我と同じ成長計画を思いついた者がいたとしても、我ほどに成長できる者はいないということだからな。


 とはいえ、弟子がこれでは困る。


「ミスルと一緒に候補を増やす必要があるね」

「そうね! まずはリンゴを焼くのよ!」

「え、ええと……頑張ります?」




 弟子ができてもレッサーアポマラソンは続く。我の候補にあった下級職全てでマラソンをこなすのに、さらに7日を要した。


「よし、これでひと通り終わったよ」

「やっとですか……」

「いったい、何周したのよ?」

「ええと、僕とミスルは105周かな」

「そんなに! 長く厳しい戦いだったわ!」


 ミスルが大袈裟なことを言っているな。まぁ、全力でないとはいえ、ほぼ一日中走りっぱなしなので、それなりにキツイのはたしかだが。


 しかし、10日ちょっとのマラソンでここまでの成長するのだから効果は充分であろう。


――――

リビカ

職業加護:ギャンブラー

レベル:1

生 命:36 [↑16] 

マ ナ:18 [↑ 9]

腕 力:37 [↑16]

魔 力:32 [↑15]

体 力:35 [↑14] 

精 神:31 [↑15]

敏 捷:34 [↑16]

幸 運:24 [↑12]

――――

ミスル

職業加護:首刈り戦士

レベル:3

生 命:29 [↑ 8] 

マ ナ:13 [↑ 2]

腕 力:17 [↑ 4]

魔 力:13 [↑ 3]

体 力:14 [↑ 4]

精 神:13 [↑ 3]

敏 捷:19 [↑ 4]

幸 運:15 [↑ 2]

――――

メイベル

職業加護:復讐者

レベル:3

生 命:31 [↑ 8]

マ ナ:10 [↑ 3]

腕 力:22 [↑ 9]

魔 力:10 [↑ 3]  

体 力:15 [↑ 4]

精 神:13 [↑ 3]

敏 捷:19 [↑ 6]

幸 運:12 [↑ 3]

――――


 まぁ、レッサーアポしか倒しておらんからなぁ。成長を実感する機会が乏しいのだろう。


 とはいえ、他の魔物と戦うわけにもな。レベルが上がれば、成長の効率が落ちてしまう。理想を言えば、候補にある全ての加護を極めるまでこのまま続けたいのだが……。


「あの……」


 思案していると、メイベルがおずおずと声をかけてきた。どうやら少々話しづらい内容のようだ。こういう時こそ、笑顔で聞いてやらねばならない。


「どうしたの? どんな意見でもいいから、気軽に言ってね」

「あ、はい。意見というほどではないんですが……私、このままでは宿代が払えなくなりそうでして……」

「あ、なるほど」


 人間、生きているだけで金がかかる。宿暮らしの冒険者ともなればなおさらだ。


「そういえば、僕らの財布もかなり軽くなってきたような……?」

「マズいじゃないの! アタシ、野宿とか、イヤだからね!」


 ミスルは贅沢な兎なのである。まぁ、我もできれば野宿など御免だが。


「仕方ないね。マラソンは一旦中断! しばらくお金を稼ごう!」

「「おー!」」 


 さてさて、レベルを抑えたまま金は稼げるか。難しい問題だ。



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