冒険者登録を離れたあとは、ミスルを回収してから、祭壇室へと向かう。カテナ嬢の言っていた、職業加護を授かるための場所だ。
その途中、ひと目のなくなった廊下で、ミスルにてしてしと叩かれる。
「もう! どうして助けてくれなかったのよ!」
まぁ、今ばかりは仕方あるまい。大役を終えた妹をねぎらってやろうではないか。
「ごめんごめん。でも、ミスルのおかげで先輩冒険者にツテができたよ。ありがとうね」
「ふん! 感謝しなさいよね!」
あの男はエイギルと名乗った。我の睨んだ通り、この都市では名の知れたベテラン冒険者のようだ。
何かあれば力になるとまで言ってもらえたのはありがたい。そう言うエイギルの目はミスルを捉えたままだったので、何が狙いなのかは明白だったが。それでもツテはツテだ。
「職業加護ってのを授りに行くのよね。それって、何なの?」
「当人に適性に沿った職業の加護がもらえて、長所が伸ばせるって話だよ」
カテナ嬢から聞いた話をそのままミスルに伝える。
たとえば、戦士の加護を授かれば、近接武器を扱う素養に恵まれ、経験を積めば筋力が上昇するという恩恵が得られるそうだ。
「ここ?」
「そうらしいね」
重要そうな施設なのに、周囲には誰もない。
まぁ、そう頻繁に利用するものもないのでそんなものか。加護を変更してもらうこともできるが、一つを極めるまで変更しないのが普通らしい。
「狭いわ」
「予想以上に簡易だね」
祭壇室は本当に狭い部屋だった。幅はほぼ扉と同サイズ、奥行きは扉2、3枚分といったところ。そんな場所に祭壇が設置されているので、身動きできるスペースはほぼない。
祭壇の上には女神像が置かれている。像に祈れば、授かれる加護の候補が頭に浮かぶらしい。
「よし、オッケー! アタシは〈首刈り戦士〉の加護にしたわ!」
「は? 待て待て。いや、待って」
何か物騒なセリフが聞こえなかったか。それ以前にミスルに加護?
「え? ミスルが加護を授かれたの? 兎なのに?」
「そりゃ、アタシは普通の兎じゃないからね!」
「それはそうだけど……」
鷹揚すぎないか、職業神。我が力を失った現状では、ありがたいことではあるが。
しかし、首刈り兎か。迷宮にはそのような魔物がいると聞く。ミスルがそれと間違われなければいいが。
「何をボーッとしてるのよ。リビカもさっさと加護をもらっちゃいなさいよ」
「ああ、うん。そうだね」
ミスルの加護も気になるが、まずは自分のことだ。女神像を前に、加護を授かりたいと祈る。
一瞬にして、加護の名前がリスト化されて頭に浮かび上がった。
「これは……」
「どうしたの?」
「いや、数が多くて」
「そんなに? アタシは6つだったわよ」
「僕は……ちょっと数えるのが面倒なくらいあるね」
「どんだけよ!?」
どれだけなのだろうな。100はありそうだが。
受付で聞いたところによれば、職業加護には希少性による分類があるそうだ。ざっくり分けると3種類。一般職、レア職、ユニーク職と分けられる。
一般職は、比較的授かる者が多い職業加護だ。冒険者関連の加護で例をあげると〈戦士〉〈盗賊〉〈魔術師〉〈治癒師〉がある。この4つのうち2つは誰でも必ず候補に上がるそうだ。
レア職は、授かる者が少ない珍しい職業加護である。〈剣聖〉や〈賢者〉などが有名らしい。あくまで希少というだけで、強力な加護とは限らないそうだが。ミスルの〈首刈り戦士〉もおそらくはこの区分だ。
最後のユニーク職は、この世界でただ一人しか授かれない職業加護。誰かが授かった時点で他の者は授かれなくなるらしい。例として教えられたのが〈勇者〉と〈聖女〉だ。
候補のリストには一般職ではなさそうなものがチラホラあるな。名前だけではレア職かユニーク職かまでは判別がつかないが。
「上級職の加護まで候補に上がっているってことかしら?」
ミスルが首を傾げて言った。
上級職は希少性とはまた別の基準による分類だ。ベースのなる基本職を極めると授かれるようになる職業加護を上級職と呼ぶらしい。
上級職のさらに上級職があったり、特殊な条件が必要な加護があったりと奥が深いそうだ。
「いや……どうだろう。でも違うんじゃないかな」
受付で上級職の例として聞いた職業加護が候補にない。そもそも基本職を極めていないので、上級職が候補に出るというのもおかしな話だしな。
「理を強引に整えた影響かな?」
「リビカが言ってた優位性ってやつ?」
「そういうこと」
「ふぅん。でも、同時に複数の職業加護を授かれるわけじゃないんでしょ? 候補が幾つあってもしょうがないんじゃない?」
「それは……どうかな?」
選択肢が多いだけでは大きな優位性にはならない……が、理次第では、強力な武器になりそうだぞ。少し調べてみることにしようか。
「で、結局、リビカはどうするのよ」
「これだけあると迷っちゃうな……よし、〈復讐者〉にしておこう」
適当に目についた加護を選んで、授けてもらう。
「それ、アタシにもあったわよ。バレたらやばいと思って避けたんだけど……加護って、人に見られたりしないのね?」
「……どうだろう?」
深く考えることなく選んだが不味かったか?
まぁ、祭壇室を利用すればいつでも変更できるので、問題があれば変えれば良いだろう。我の狙い通りに事が進むなら、すぐに付け替えることになるしな。