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肆幕之物語「復讐」


あるモノの話をしよう。


それはあまりにも矮小で弱々しい生き物だった。

祖先は野生の中を縦横無尽に逞しく生きる種族であったが、人間が世にはびこる時代へと移り変わるとそれらは愛玩動物として人間に飼養された。

従来備わっていた野生は衰え、その日食すだけの食物ですら自らでは獲得し得ない程堕落した。

だが、それの両親はその人生を良しとしなかった。

人の元を離れ大自然の中に戻ることを決意し過ごした。

時期にそれは生まれた。

生活は苦しかった。

元から与えられることをとした人生に反抗しているのだ。

食物はいざ知らず、人間からの悪意を向けられることもあった。


懸命に生きていたが、とある日に両親が死んだ。

人間の幼子の玩具にされ殺害された。

悪意のない児戯とするにはなんと残酷な事か。

目の前で両親を殺害され恨むなと誰が言えた事か。

それは人間を憎んだ。

いつか必ず復讐すると心に刻み込んだ。

しかし、とある日人間に絡まれた。

人間の気持ちなどわからない。

それが慰撫しているのか害意をなしているのか。

それは抵抗した。

人間はすべからく悪であり、復讐対象であったからだ。

後にそれは大勢の人間に捕まり、同じ仲間のいる施設に収容され処分された。


然もありなん。

しかしながら、その人生に何の意味があったのであろうか。

人の世に生まれて人でないための悲嘆。

しかし、両親の仇を討とうと自らの命まで賭ける高潔さ。

決して悪意に負けず立ち向かう勇気を持つ高潔さ。

それが無力ですらなければ本懐を遂げることができたのではなかろうか。

だからであろうか、ほんの気まぐれではあるが、

それに第二の人生を育む機会を与えてやろうと思った。


私の前にそれを喚んだ時、怯えていた。

復讐対象である人の形をしたナニかがいるのだから当然であろう。

私はそれに機会を与えることを告げた。

前回と同じ轍を踏む可能性を鑑み、私はそれに要望を聞いた。

曰く、「人間の大勢いる世界がいい」と。

曰く、「人間に復讐するための圧倒的な力が欲しい」と。

成程、復讐対象の多い世界程本懐を晴らすことは容易なのであろう。

成程、力があれば復讐するための幇助になることは容易なのであろう。

中々に周到であるではないか。

これなら生前もっとうまく立ち回れたのではと思ってしまうが後の祭りであろう。

私は今一度それに意志の確認をし了承を得た後、それの希望通りの世界へと送り届けた。



さて、その後のそれの人生はどうなったのか。

結論から言おう。

それは転生した後、本懐を果たしたが人間に殺害された。



然もありなん。

私はそれの希望通りの世界へと転生させた。

前回同様赤子からでは苦痛であろうと思い、

気を利かせ幼年期の時分へと転生をさせた。

さて、私も前回の反省点を生かし少々願いを限定的にすることにした。

「人間に復讐するための圧倒的な力」を筋力と捉えてしまうと以前と同様の結果に終わってしまうだろう。

なればこそ、【剣と魔法の世界】に誘い、【魔法】の方に重点を置いてみることにした。

「人間に復讐するための圧倒的な力」は強大な魔法を操るための膨大な魔力とすることにした。

その甲斐もあってか、それは見事に本懐を遂げた。

その世界で歴史上類を見ない大量虐殺。

いや、見方を変える必要がある。

虐殺ではなく処分であろう。

後の世に、大魔王と呼ばれたそれは長きに渡り人の世を支配する存在となった。

それが幸せであるならば私としては満足だが、残念ながらこちらにも都合がある。

これはまた別の話だが、人間の英雄と呼ばれし存在によりそれは淘汰されることになる。

機会があればそちらの話も語り明かすとしよう。

嗚呼、人間は矮小な存在のそれの最後の望みすらも奪い取る程傲慢なのか。

それは人間の強欲さに殺されたのだ。



さて、それの話はお気に召して頂けたかな。

おや、これでは何が起こったのかわからないと疑問を呈するのかね。

私にしてみれば明朗快活なのだが、キミがそう言うのであればそうなのであろう。

まったく、人間というのは度し難いものだな。

では、次はもっと楽な逸聞を披露するとしよう。



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