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最終幕之物語「物語」


ある男の話をしよう。


彼は飽いていた。

世に蔓延る稚拙で陳腐で浅薄で強引で俗悪で下品で冗長で退屈で偏狭で凡庸で空虚で矮小な物語を。

彼は求めていた。

世に未踏の秀逸で傑作で圧巻で秀作で卓越で壮観で華麗で魅力で壮大で華美で荘厳で清廉な物語を。

しかし、どれもこれもそれには模倣された寓話にしか見えなかった。

それは、まだ見ぬ物語を求めた。


時には血と暴力の支配する正義など何処にもない悲惨な戦乱を、

時には色と権力の支配する正義など何処にもない傲慢な宮殿を、

時には涙と憤怒の支配する正義など何処にもない愚行な復讐を、

時には死と憎悪の支配する正義など何処にもない醜悪な耽美を、

世界中遍歴を重ねてもあるのはおぞましい黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒。

人の作りし物は須らく、

色欲に溺れて、

暴食にふけり、

強欲に執着し、

怠惰に過ごし、

憤怒に駆られ、

嫉妬に囚われ、

傲慢に物語を彩る。

嗚呼、なんと醜い事か。

彼が辿り着いたのは絶望。

彼が目指した先には地獄。

この世の人間は須らく醜悪。

そんなものに物語は残せない。

人間である限り物語は残せない。

すべての人間に失望した彼は、自分自身も人間であることに失望した。

そして、世界のすべてを恨み失意の底で死んでいった。


然もありなん。

しかしながら、その人生に何の意味があったのであろうか。

渇望するものが夢想であり、永遠に獲得するが叶わぬ人生。

しかし、何に変えても自ら望むものを手に入れようとする探求心。

この世界にないのであれば別の世界であるならば出会えるのではなかろうか。

人の世界にないのであれば人以外がいるのならば出会えるのではなかろうか。

だからであろうか、ほんの気まぐれではあるが、

彼に第二の人生を育む機会を与えてやろうと思った。


私の前に彼を喚んだ時、なにもなかった。

彼は既に心が死んでいた。

彼は心が死ぬ程悲嘆に暮れていた。

私は彼に機会を与えることを告げた。

前回と同じ轍を踏む可能性を鑑み、私は彼に要望を聞いた。

曰く、「転生など必要ない。また、人間の愚かさを見るだけだ」と。

曰く、「転生など必要ない。また、人間の幼稚さを見るだけだ」と。

成程、人間の愚行を再度見るのは嫌であろう。

成程、人間の児戯を再度見るのは嫌であろう。

中々に重症ではないか。

これでは生前すら生きていくのは辛かったであろう。

そうだ。

私が救いたかったのはこの様な男だ。

神様に泣きついて、摩訶不思議な力を貰い、他者より優位に立ったつもりになる人間ではない。

神様に泣きついて、超常の異能を貰い、自分の都合を他者に押し付けるような人間ではない。

他者から与えられた借り物の翼で、大空を我が物顔で飛翔するのは滑稽である。

その能力はお前のものか?

その正義はお前のものか?

何一つ自らの力で成し得たものはない。

祈れば叶う、泣けば奇跡が降り注ぐ。

そんなご都合主義を是認はしない。

私は、そのような駒ではない。


だから、しかたなくこの私が話をしてやることにした。

彼の苦しみが紛れるように。

彼の失意が晴れるように。

彼の悲しみが過ぎ去るように。

彼が求める物語を語ることができるかは与り知らぬ所だが、

幸いにも潤沢に些事な与太話は持ち合わせていた。

少しでも彼のお気に召すことを切に願うとしよう。



さて、その後の男の人生はどうなったのか。

結論はキミだけの胸に閉まっておいてくれたまへ。































さて、彼の話はお気に召して頂けたかな。

おや、これは不条理だと抗議するのかね。

私にしてみれば道理でしかないのだが、キミがそう言うのであればそうなのであろう。

まったく、人間というのは度し難いものだな。

では、次はもっと楽な逸聞を披露するとしよう。


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