ある女の話をしよう。
彼女は醜悪だった。
生まれつき顔の造詣が
しかし、彼女は明るかった。
自らの容姿に恵まれないことを嘆く事なく受け入れ懸命に生きていた。
時には落涙することもあったであろうが、性格は歪まず、
誰隔てなく優しく、
特に他者から不当に扱われた者には
その慈しみ対象は人間だけに非ず。
小さく矮小な生き物にすら彼女の光は差し込んだ。
それは人間には蔑まれていた裏返しなのかもしれない。
どんな醜い弱い生き物でも自分は差別するまいとした意趣返しか。
だからこそそれが悲劇を呼び込んでしまったのであろう。
ある晩、とある酩酊者によって理不尽にも小さき生き物が虐げられていた場面に出くわしてしまった。
彼女の光は虐げられた生物へと向けられる。
懸命に小さき生き物を庇い酩酊者に縋りつき懇願する。
他者から言われて止める様なら虐げるようなことはしないであろうに。
彼女は酩酊者と揉み合いになり不運にも高所より落下し死亡した。
しかしながら、その人生に何の意味があったのであろうか。
醜女として生まれ周囲からは蔑まれ何一つ幸せなことはなかった。
しかし、自分と同じ境遇の存在には灯台になろうとする高潔さ。
醜悪であるがために他者の痛みを我が事のように感じえる高潔さ。
時と場所が違えば彼女は幸福を得る事ができるのではなかろうか。
だからであろうか、ほんの気まぐれではあるが、
彼女に第二の人生を育む機会を与えてやろうと思った。
私の前に彼女を喚んだ時、驚嘆していた。
私の存在に疑いを持っているようであったよ。
私は彼女に機会を与えることを告げた。
前回と同じ轍を踏む可能性を鑑み、私は彼女に要望を聞いた。
曰く、「美醜により侮蔑されることのない世界がいい」と。
曰く、「一度も異性より求愛されることがなかったため恋愛の幸せが欲しい」と。
成程、容姿の差別がなければ彼女も幸せを掴めるのであろう。
成程、異性よりの愛情を受ければ彼女も幸せを掴めるのであろう。
中々に現実的であるではないか。
これなら生前もっとうまく立ち回れたのではと思ってしまうが後の祭りであろう。
私は今一度彼女に意志の確認をし了承を得た後、彼女の希望通りの世界へと送り届けた。
さて、その後の女の人生はどうなったのか。
結論から言おう。
女は転生した後、幸せに天寿を全うした。
然もありなん。
私は彼女の希望通りの世界へと転生させた。
前回同様赤子からでは苦痛であろうと思い、
気を利かせ幼年期の時分へと転生をさせた。
さて、私も前回の反省点を生かし少々願いを限定的にすることにした。
「美醜により侮蔑されることのない」を拡大解釈しすべての生物を対象に考えては、
前回のように請願したものとかけ離れたことになるやもしれぬ。
故に、美醜の判断を反転させた観念を持つ種族が一定数いる世界へと彼女を
その種族は人間の価値観から言えば総じて醜悪な容姿の種族だった。
その種族からしたら彼女の容姿は醜悪ではなくとてつもない
そのためか、彼女がその種族と出会った時まさしく人生が変わったと表現していいだろう。
価値観の違う種族では醜悪で侮蔑されることなく、
価値観の違う種族では求愛対象は美麗ではなく、
価値観の違う種族では婚姻に種族の違いは関係ない。
彼女はその種族内で非常に歓迎された。
彼女はその種族内で非常に求婚された。
これが一般的な人間ならば、その種族の醜悪さに侮蔑していたところであろう。
しかし、彼女にはそんなことは関係がなかった。
彼女は容姿の醜悪でモノの本質を判断しなかった。
己が醜悪で侮蔑され続けたからであろうか。
己が醜悪で差別され続けたからであろうか。
その結果、彼女は幸せを掴むことができた。
その種族の中でも
子宝にも恵まれその天寿を幸せに全うした。
嗚呼、人間は美醜に拘り本質を理解せず時に愚かな選択をする。
彼女は不変的な真実を見抜けたのであった。
さて、彼女の話はお気に召して頂けたかな。
おや、キミも容姿の美麗を気にするのかね。
私にしてみれば人間の美醜は容姿ではなく魂魄の在り方なのだが、キミがそう言うのであればそうなのであろう。
まったく、人間というのは度し難いものだな。
では、次はもっと楽な逸聞を披露するとしよう。