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第18話 不自然

 教室に着くと、リセが既に席についていた。俺と目が合うと、小さく会釈をする。


 昨日のメッセージのことを思い出し、少し気まずさを感じた。


 午前の授業が終わり、昼休みになった。


 俺は図書室で読書をしようとしていたが、なかなか本に集中できない。


 昨日の出来事が、まだ頭の中でぐるぐると回っている。


「ねぇ」


 突然、背後から声がした。振り返ると、水原が立っていた。


「なんだよ」


「今日の放課後、時間ある?」


「あー……」


 リセとの約束を思い出す。


「悪い。今日は約束が」


「誰と?」


「リセと少し話がある」


 水原の表情が一瞬曇った。


「そっか……」


「なんかあったのか?」


「ううん、別に。じゃあまた」


 水原は何か言いたげな表情を浮かべながら、そそくさと図書室を後にした。


 放課後。


 約束通り屋上に向かうと、リセが既に待っていた。


 フェンス越しに夕暮れを眺める後ろ姿が、妙に切なげに見えた。


「リセ」


 俺が声をかけると、彼女はゆっくりと振り返った。


「来てくれたんだ」


「約束したからな」


 リセは深く息を吐き、まっすぐ俺を見つめた。


「ヒロ、私ね、ずっと言えなかったことがあるの」


「……なんだよ」


「私、ヒロのことが好き」


 突然の告白に、言葉を失う。


「ずっとヒロのことが好きだった。でも言い出せなくて。だって、ヒロには私が必要な存在じゃないって思ってたから」


「リセ……」


「でも、最近のヒロを見てるとすごく辛そう。水原先輩との関係も違和感がある。だから、もう黙ってられなくなった」


 リセの声は震えていた。


「ヒロ、本当に水原先輩のことが好きなの?」


「それは……」


 言葉に詰まる。嘘をつき通すべきか、本当のことを話すべきか。


「リセ、俺は──」


 その時、屋上のドアが開く音がした。


 振り返ると、そこには水原が立っていた。


「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」


 水原は困ったように笑う。だが、その目には何か強い感情が宿っていた。


「水原先輩……」


 リセが小さく呟く。


 三人の間に、重苦しい空気が流れる。


「川崎くん、ちょっといい?」


 水原が声をかけてきた。


「え、ああ」


「ちょっと待って」


 リセが一歩前に出る。


「まだヒロと……」


「ごめんね、あたし川崎くんと話したいことがあるんだ」


 水原の声には、いつもの明るさが感じられない。


「私だって、ずっと話したかったことが……!」


 リセの声が震える。


「ねぇ、リセちゃん。川崎くんとあたしは付き合ってるの。そのことは知ってるよね?」


「でも、それって本当なんですか?」


 リセの言葉に、水原の表情が強張る。


「どういう意味?」


「だって、ヒロの目を見てると水原先輩のことを本当に好きな目で見てない。それに、二人の関係、どこか不自然で……」


「不自然?」


 水原は少し声を上げた。


「あたしたちの関係が不自然に見えるの?」


「まるで……演技みたい」


 その言葉に、俺と水原は息を呑む。


「リセちゃん、何も知らないくせにあたしと川崎くんの関係に、口を出さないでくれないかな」


「違う! 付き合ってないですよね。ヒロ、本当のこと話して!」


 リセが必死な様子で俺に詰め寄る。


「お前ら、待て」


 俺は二人の間に入り、深く息を吐く。


 もう、これ以上は嘘をつき通せない。


「リセ、お前の言う通りだ」


「え?」


「俺と水原は、付き合ってるふりをしてるだけだ」


 告白する俺の言葉に、水原が小さく息を呑む。


「川崎くん……!」


 俺は水原の方を向く。


「悪い。こんな形で暴露することになって。でも、これ以上リセを騙し続けるのは無理だ」


 水原は俯いたまま、小刻みに震えている。


「なんで……」


 小さな声で呟く。


「なんで、そんな簡単に……あたしのこと、裏切るの?」

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