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第13話 一緒に寝る?

「とりあえず、もう遅いから休んでけよ。ベッド使っていいから」


「川崎くんはどこで寝るの?」


「床」


「え、そんなダメだよ。身体痛めちゃうし、そうだ。あたしが床で」


「大丈夫だ。慣れてるし」


「慣れてる……?」


 おうむ返しで聞き返してくる水原。

 俺がテストで悪い点を取ると、母親から廊下で寝ることを強要させられてきた。


 奇しくもその経験があるから、床で寝るのは造作もない。


「なんでもない。とにかく俺のことは気にしなくて良い」


「気にするよ……。じゃ、じゃあ一緒に寝るとか?」


「は?」


「い、一緒に寝れば平等じゃない? ね? 川崎くんも床で寝なくて済むし」


 水原は顔を赤くしながらも必死に言い訳を並べ立てる。


「いやこの狭いベッドに二人で寝るなんて無理だろ」


「そ、そんなに狭くないよ。大丈夫だって!」


「大丈夫なわけあるか。俺は床でいいから」


「大丈夫だってば! 川崎くん案外細いし、あたしもそんなに場所取らないし!」


「そこが問題なんじゃねえ。普通に考えて男女が一緒に寝るのはマズいだろ……」


「でも何かするわけじゃないし、川崎くんだってそんなことしないでしょ?」


「そういうことじゃねえ!」


 水原のズレた発言に思わず声を上げた。彼女はきょとんとした顔で俺を見てくる。


「じゃあ、何が問題なの?」


「お前さ、自分が女だって自覚あるの?」


「あるよ?」


「ならもっと慎重になれよな……誰かに知られたら大ごとになるってわかるだろ」


 俺の必死の抗議に、水原はしばらく考え込むように黙り込む。


「でも、ここは川崎くんの部屋だし、誰も見てないよね?」


「そういう油断が命取りなんだ。たとえば、明日誰かに見られたらどうすんだ」


「え、誰か見に来るの? 川崎くんって、彼女とかいるの?」


「いや、そうじゃなくて……ああ、ったく」


 水原は俺の焦りを面白がっているのか、くすっと笑う。


「ふふ、真面目だね川崎くん」


「水原がおかしいだけだ」


「そーかな。でも、ちょっとくらい非常識でもいいんじゃない?」


 水原は軽く肩をすくめて言う。その無防備な態度にもう突っ込むのはやめて、俺は床に敷いた毛布に横になった。


「もう寝るから。水原もさっさと寝ろよ」


「ちょっと本気で床で寝るの?」


 水原が不安そうに声をかけてくる。だが、俺は布団を被りながら背を向けた。


「俺はこれで平気だから」


「そ、そっか。えっと……おやすみ」


「ん」


 それきり水原は黙り込んだ。

 少しして、彼女の寝息が聞こえてくる。どうやらすぐに寝付いたらしい。他人の家、それも男の家だってのに随分と肝が据わっている。


 俺は天井を見上げながら、ため息をついた。

 静かな夜の空気が部屋を包み込む。水原との押し問答が嘘のように、穏やかな時間が流れていく。

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