放課後、学校の正門を出た俺はすぐに違和感を覚えた。何か視線を感じる──それも、嫌な種類の。
周囲を見回すとそこにいたのは白野だった。
壁にもたれるようにして、俺をじっと見つめている。
「……アンタ、何してんだよここで」
思わず声に苛立ちが混じる。白野は肩をすくめながら近づいてきた。
「何って、ちょっと君と話がしたかっただけさ」
軽薄で飄々とした態度。だが、その視線には妙な圧力があった。
「手短にしてくれるか」
「うん、もちろん。……君にひとつ確認したくてね」
白野の顔に笑みが浮かんだが、どこか底知れない不気味さがあった。
「キミは、しおりと本当に付き合ってるの?」
その質問に、俺は思わず眉をひそめた。
「ああ、付き合ってるよ。もう行っていいか?」
適当に流そうとする俺を、白野は執拗に追い詰めるような口調で続けた。
「僕にはキミが本気でしおりを好きでいるように思えない。遊びで彼女と付き合ってるなら、手を引いてほしい。言う通りにしてくれたら、お金を包んでもいいよ」
「しつこいな。というか、アイツはアンタに付き纏われて迷惑してるみたいだぜ。脈ないんだから諦めろよ」
そう言い放つと、白野の表情から笑みが消えた。代わりに、鋭い視線が俺に突き刺さる。
「脈がない、か……でもそれ、しおりが本気で言ったわけじゃないだろう?」
その言葉に、俺は思わずため息をついた。
「聞き分けが悪いな。現実見ろよ」
白野はしばらく俺を睨んでいたが、やがてふっと薄い笑みを浮かべた。
「僕はね、物心つく頃からしおりのことを知っているんだ。ポッと出のよくわからない男にしおりを奪わせるわけにはいかない」
俺は白野の言葉に呆れたように肩をすくめた。
「そうかよ。……じゃあ急いでるから」
立ち去ろうとする俺の肩を、白野がガシッと掴んでくる。
「しおりはね、強がりなんだ。自分の本当の気持ちを隠す癖がある。それを知ってるのは、僕だけだ」
その自信満々な態度に、俺の中の苛立ちが増していく。
「離してくれ」
「君は知らないんだよ。しおりが僕にどれだけ頼っていたかを。君みたいな人には、彼女を支えることなんてできない」
その言葉に、カッとなるのを感じた。
「そう言うアンタはただ自分の執着をあいつに押し付けてるだけだろうが」
白野の笑みが消え、目つきが鋭くなる。
「君にはわからないさ。僕がしおりのためにどれだけ頑張ってきたかを」
「わかりたくもねーよ」
歩き出した俺の背後から、白野の声が聞こえた。
「……君には無理だよ。しおりを幸せにするのは、僕だけだ」
その言葉に振り返ることなく、俺は歩き続けた。
一対一で話してわかったが、白野の執着の奥には、どこか歪んだ使命感のようなものが感じた。手を焼きそうな相手だな。まぁ、俺には関係ないけど。